身を任せて|5つの恋のエピローグ③
失恋の数なら誰にも負けない、と豪語する友達がいる。
やや毒舌気味のところを除けば、美人の部類だし、性格も悪くない。
「なんでそんなことになるの?」
と尋ねる私に、彼女は言った。
「私は、つい追いかけちゃうから」
追いかけている恋は叶わない、というのが恋愛の真理なのだと彼女は言う。
わからなくもない。私と彼の関係もそうだ。
もともと草食系の彼と気分屋の私。私がその気の時には、彼が慎重になる。彼にその素振りがみえるときは、なんやかやで私が邪険にする。そんなことの繰り返しで、進展しなかった2人だが、そろそろ程よい距離が見つかってきたような、この頃。
でも、それは恋というより、慣れ合いに近いのかもしれない。
地下鉄のホームで声をかけられた。残念ながらナンパではない。
「今日、13時に例のクライアントが来るからな」
そんな話は初耳だ。この人はいつも周囲を振り回す。主任の田所さん。
文句を言いかけたところに電車が到着し、周囲から押し込まれる。中ほどで田所さんの胸に押しつけられる形になった。
逞しい胸板。学生時代はラグビーをやっていたと聞いたことがある。仕事ぶりを見ていても、頼りになる人だということは分かっている。独身ということもあって女子社員からの人気は高い。
今日は一段と混んでいる。服がシワになるのも諦めるしかない。
その時、ふと気づいた。私が一方的に押しつぶされる形になっていないのは、田所さんが盾となって周囲の圧力を遮ってくれているからだ。気をつけてみていると、それは体格が良いからというだけではなかった。さりげなく私を守ろうとしてくれている。
彼なら、きっとこんなことはしてくれない。いや、気づきもしないだろう。
田所さんの懐は心地よかった。
私は力を抜き、人混みに押されるままに身を任せることにした。
追いかけるのではなく、身を任せてみれば良い。
友達の言葉が、少し違って聞こえた気がした。
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