今の祭り|アマノ文筆クラブ
今日、言わなければ、後悔する。
彼が、目の前にいる。
「卒業式、終わっちゃったね」
彼が言った。
今日を逃したら、もう会えないかもしれない。
彼は、東京の大学に行く。 私は、地元に残る。
「案外あっけなかったな」
彼が呟いた。
言わなきゃ。
今、言わなきゃ。
彼には、好きな人がいる。
知っている。
でも、言わなきゃ。
好きだと。
「じゃあ、元気でね」
彼が言った。
今だ。
今、言わなきゃ。
「あの...」
彼が、振り向いた。
「ん?」
言葉が、出てこない。
心臓が、うるさい。
「何?」
彼が訊いた。
言えない。
言ったら、嫌われるかもしれない。
友達でさえいられなくなるかもしれない。
でも、言わなかったら、後悔する。
今が、その時だ。
「好きだった。ずっと」
私は言った。
「ありがとう」
少し間があって、優しい声で彼が言った。
「でも、ごめん」
分かっていた。
初めから分かっていた。
私のワガママだった。
彼を困らせただけの自己満足だ。
それでも言いたかった。
3年間言えなかった言葉だったから。
振り返らずに歩いていく彼の後ろ姿に私は呟いた。
「元気でね」
私の卒業式が今、終わった。
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