うつろい|シロクマ文芸部
三月は冬でもなく、春でもない。
三月は、終わりの始まり。
窓際に座って気が付いた。
去年の三月も、こうして同じ光の中にいた。
部屋が広くなる。
荷物が減るわけじゃない。模様替えをするわけでもない。
ただ、光の角度が変わって、同じ部屋がどこか余白を持ちはじめる。
今年はいつもの年よりも部屋が広い。
あのとき隣にいたあなたは、いない。
私は、マフラーを巻き、外へと歩き出す。
なくした言葉の代わりに、新しい季節の匂いを、深く吸い込んで。
風がすべてをごちゃまぜにしていく。
冬の最後の冷たさと、春の最初の土の匂い。
去りゆく者への寂しさと、来る者への焦り。
伝えられなかった言葉と、新しく紡がれる物語。
風はそれらを、容赦なく、けれどどこか優しく、運んでいき運んでくる。
まだ雪が残る日陰と、陽だまり。
私の心に灯る焦燥感と、ほんの少しの期待。
傍らの桜の木が風に揺れている。
咲くのはしばらく先のようだ。
小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加いたします。
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