見出し画像

ミイラ取りはミイラになれ丨アマノ文筆クラブ

田中が山本商事を辞めると言い出したとき、社長は私を呼んだ。
「お前、田中と仲いいだろ。説得してこい」

私は田中のアパートへ向かった。

電動ろくろの前で田中は、陶芸を始めるのだと言った。脱サラして、山の中に窯を持つ計画まで立てていた。

呆れる私に、田中は言った。
「とにかく一度やってみろ、回すだけでいいから」

三時間後、私は土まみれの手で、田中の隣に座っていた。
土が指の間をすり抜ける快感はこれまで味わったことのないものだった。

翌朝、社長に報告した。
「田中の説得、どうだった」
「辞めます」
「田中の決意は固いのか?」
「辞めます。私も。」

社長はしばらく黙っていた。それから深いため息をついた。
「……私が説得に行くしかないか。頼むからちょっと待ってくれ。」

私と田中は社長の説得に応じた。

三ヶ月後、社名が変わった。
山本陶芸株式会社。




甘野充さんの、アマノ文筆クラブに参加します。



#アマノ文筆クラブ
#ショートショート
#共創
#ミイラ取りはミイラになれ
#小説
#短編小説
#会社
#陶芸
#ろくろ


いいなと思ったら応援しよう!