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去る者は追わず|アマノ文筆クラブ

駅ビルの通路。
彼の背中が、遠ざかっていく。
今、追いかければ、まだ間に合う。

「待って」
そう言えば、彼は振り向くだろうか。

昨日、彼は言った。
「東京で、やりたいことがあるんだ」

私は、頷いた。

「ごめん」
彼が謝った。

「謝らないで」
私は、笑った。
「応援してる」

嘘じゃない。
でもそれ以上にここに居て欲しい。
その言葉は今日も言えなかった。

彼が、改札を抜けた。
振り向かなかった。

もう一度笑顔を見せて欲しかった。
泣いている顔を、見られずに済んだことだけが救いだった。

私は、忘れない。
彼のこと。
二人で過ごした時間。

彼の背中がホームへの階段を降りていく。

私は思い出していた。
あの時も、彼は立ち止まってくれなかった。

追いかけてはいけない。
彼は逃げ水だ。
追いかければ遠くなる。

けれど追いかけなければ二度と会えなくなるかもしれない。

私の足は動かなかった。

雑踏の中、発車のベルが聞こえた。
東京行きが、彼を乗せて動き出した。





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