どうにもとまらない|アマノ文筆クラブ
シルバードライバー
八十二歳の父が接触事故を起こした。
大事には至らなかったが、家族会議では「免許返納」の話も出た。
でも、父は譲らなかった。
「畑に行くのに、車がいる」
父は毎日畑に通う。母と耕してきた畑だ。
トマト、なす、きゅうり。
二人では食べきれないほど作ってきた。
母が亡くなった今でもそのペースは落ちない。
「もう運転は危ないよ」
兄も私も弟も何度も言った。
父は聞かない。どうにも、とまらない。
心配な私は、あるとき助手席に乗ってみた。
父の運転は、思いのほか丁寧だった。
スピードを出さず、何度も確認して、ゆっくりと。
一時停止はキチンと止まって。
畑に着くと、父は、母の好きだったトマトの所へまっすぐと歩いていった。
「母さん、今日もよく実ってるぞ」
父は止まらないのではなかった。
止まってしまったら、会えなくなる。
私たちが止められるはずもない。
甘野充さんの、アマノ文筆クラブに参加します。
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