なんで|せりふ三題噺
駅のホーム。
明けきらない暗さの中で、僕たちは始発を待っていた。
あと十分。
今日は、確定申告の最終日だった。
朝になったら税務署に行って、一区切りつける。
それだけのありふれた一日になるはずだった。
ベンチに座る彼女は、未開封のカイロを両手で握りしめている。
その指先は、いつまでたっても白いままだ。
深夜にかかってきた一本の電話が、日常のすべてを彼方へ押し流してしまった。
「なんで今日なんだろうね」
彼女の声は、擦れたガラスのようだった。
傍らに立つ僕は、かけるべき言葉を持たなかった。
改札の方から、乾いた風が吹き抜けた。
彼女の髪が揺れ、カイロを握る手に、ぎゅっと力が入るのが見えた。
遠くで、始発のアナウンスが流れた。
日常へと人々を運ぶ電車が入ってきた。
それが今日の僕たちを、日常の外側へと連れて行く。
僕たちは、無言のまま立ち上がった。
はらとけい さんのせりふ三題噺に参加いたします。
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