めんどくさい相手|片想い文芸部
めんどくさい、などと言ってはいけないのは分かっている。そもそも仕事なのだ。
LINEの通知音に、私は小さくため息をついた。 「お疲れさまでした。資料、とても分かりやすかったです」 そうメッセージを送ってきたのは、二歳年下の男性社員。 新入社員で私が指導している形。
昨日の私のプレゼンを受けて、次の作業の相談のようだ。 返事をしなければいけない。でも何と返せばいいのか。「ありがとうございます」だけでは素っ気ない。かといって絵文字を使うのも変だ。
彼は私より真面目で、いつも丁寧。そのくせ時々妙に大人びた表情を見せる。 年下というところを除けば、実は私好みの顔立ちと性格。
最近、彼に関することを考える時間が増えている。それが、めんどくさい。 「お疲れさまでした。ありがとうございます」 結局、無難な返事を送信した。
三分後、また通知音。 「今度、おすすめの本があったら教えてください」 本の話をするのか。 彼がどんな本を読むのか、確かに気になる。でも、これ以上のやり取りは、行き過ぎだと思って返信を思いとどまった。
翌日の昼休み、彼が私のところにやってきた。
「昨日の件ですが、図書館で借りてきました」 手に持っているのは、企画書の参考になりそうな書籍と私が数ヶ月前に読んだ小説だった。
彼は私の会話を覚えていたのだ。
「面白いですか?」 「まだ序盤ですが、主人公の言動に惹かれますよね。」 そう真剣に話す彼の眼をみていると、職場だということを忘れそうになる。
「それから、この資料なんですが、… 」
「めんどうくさい人ですね。」 そう言いながら、何がめんどうくさいのか、自分でもよく分からなかった。 自分の頬が熱くなっているのが、分かる。
そしてもうひとつわかったことがあった。 私はめんどうくさいのが好きなようだ。
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