故郷の向日葵│虹色創作部
久しぶりに帰った実家の庭で、母が向日葵を育てていた。
「あら、覚えてないの?小学生の頃、あなたがどうしても植えたいって」
そうだった。夏休みの自由研究で、向日葵の観察日記を書いたのだっけ。母の一言で20年前の記憶が蘇ってくる。
今年は久しぶりに長い夏休みを取った。実家でのんびりしたい。
「隣の拓也君と一緒に植えたのよ。覚えてない?」
拓也君。
幼馴染の名前を聞いた瞬間、胸がきゅんとした。小学4年生の夏、向日葵の種を一緒に植えた。毎朝二人で水をやって、背の高さを競争した。
「帰ってきているのよ、拓也君。お母さんの介護で」
え?
「昨日もうちの庭の向日葵を見て、『懐かしいですね』って言ってたの」
私の心臓が跳ねた。
翌朝、いつもより早く起きて庭に水やりに出た。東京とは違う、故郷の空気。
今年の向日葵は今の私の背を越えている。子供の頃はこんなに大きくなるなんて想像もできなかった。
「おはよう」
振り返ると、そこに拓也君がいた。
もう拓也君じゃない。立派な大人の男性。でも、笑った時の目元は昔のままだ。
「久しぶり。東京から帰ってきてるって、お母さんから聞いたよ」
「うん、夏休みで」
まるで小学生に戻ったみたいに、自然に昔の口調が出てしまう。
「覚えてる?この向日葵」
私は精一杯明るく言った。
「もちろん。君が『絶対に咲かせる』って、毎日水やりしてたよね」
彼も覚えていてくれた。
「僕の方はすぐに枯らしちゃったけど」
「あ、そうだった」
二人で笑った。一気に時間が戻った。
「仕事、大変?」
「まあ、それなりに。拓也君は?」
「今は地元で設計士をしてる。母の介護もあるから、こっちに戻ってきたんだ」
立派になったんだな、と思った。私なんて、実家に帰るどころか電話するのさえ途切れがちだ。
「あの頃は、大人になったらどこか遠くに行きたいと思ってた」
拓也君がぽつりと言った。
「でも、案外いいものだよ。故郷にいるのも」
私は何も答えられなかった。東京での生活に疲れていることを、見透かされているような気がして。
「君はどう?東京での生活」
「楽しいよ」
嘘だった。最近は仕事ばかりで、楽しいと思うことなんてほとんどない。恋人もできたけれどすれ違うことが多い。予定も気持ちも。
向日葵が風に揺れている。
「また明日も水やりする?」
拓也君が聞いた。
「うん」
私は頷いた。
明日の朝も彼と一緒に向日葵に水をやる。そう考えるだけで、故郷に帰ってきて良かったと思える。
夏休みは、あの頃の気持ちを蘇らせた。
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