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無茶ぶりはやめて|アマノ文筆クラブ

「ねえ、明日、告白しなよ」 居酒屋で、友人の麻衣が言った。


私は、ジョッキのビールに口をつけた後、ため息をついた。


「無茶ぶりはやめて」
「無茶ぶりじゃないって。あの人、絶対あなたのこと気になってるよ」


麻衣が言う「あの人」は、同じ会社の営業部の田中さんのことだ。


でも、私は田中さんのことを、そんなふうに見たことがない。
「私、別に田中さんのこと好きじゃないし」
私は正直に言った。


麻衣は、一瞬、言葉を飲んだ。


それから、片頬で笑いながら言った。
「え、そうなの?じゃあ、なんであんなに仲良くしてるの?」
「普通に同僚として話してるだけだよ」


麻衣は、ジョッキを傾けた。


「そっか」 呟くように言ったその声には安堵と、寂しさが混じっていた。


私はずっと前から、知っている。


田中さんの話をするときの麻衣は、声が少しうわずる。
田中さんが近くにいるときに、麻衣の視線は彼を追いかける。


でも、彼女は、絶対に自分からは言わない。
それなのに、私に「告白しなよ」と言う。


いつも強がって悪ぶっているのに、本当は少し臆病で優しい彼女を私は知っている。


私が田中さんと付き合えば、諦めがつくと思っているのかもしれない。


「麻衣、あのさ」 そう言いかけた私より先に麻衣が言った。

「私、転職しようと思っている」
「え?」
「今の会社、ちょっと疲れちゃって」


麻衣の笑顔はこわばっていた。


麻衣は、自分自身の想いから逃げようとしているのかもしれない。


私は言った。
「無茶ぶりはやめて、自分の気持ちを、ちゃんと伝えなよ」


麻衣は、空になったジョッキを見つめたまま、しばらく黙っていた。


「それこそ、無茶ぶりだよ」
そう言うと麻衣は寂しそうに小さく笑った。





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