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「ただの棚」ではない。物流、オフィス、図書館など、社会を支える「ラック」の奥深い設計・開発の世界。


1. はじめに

私たちの生活を支える物流センターやオフィス。そこには必ず「棚(ラック)」があります。
一見シンプルに見えるラックですが、実は高度な設計思想と開発技術が詰まっています。
今回は、私自身のラックの設計開発業務に携わった経験をもとに、知っているようで知らないラックの種類から、1mmにこだわる開発の裏側までをご紹介します。

2. ラックの種類

まずは、私たちがよく目にするラックの種類から整理してみましょう。

2-1. 固定棚

「棚」と聞いて多くの方がイメージするのは、このような固定式の形状ではないでしょうか。

①書架: 書籍や文書などを収納する棚です。図書館やオフィスなどで広く用いられています。

書架

②パレットラック: フォークリフトで荷物の出し入れをするための巨大な棚です。「パレット」という台に載せた荷物をそのまま収納します。物流センターのほか、IKEAやCOSTCOなどの店舗でも見ることができます。

パレットラック

2-2. 移動棚

バックヤードに設置されることが多いため、一般にはあまり馴染みがないかもしれません。床のレール上を棚が左右に動き、「使う場所の通路だけを開ける」というものです。

書架の移動棚
パレットラックの移動棚

メリット: 通路スペースを最小限にできるため、固定棚に比べて大幅な省スペース化が可能です。また、棚を隙間なく寄せて一括でロックする「集密ロック」により、セキュリティを高めることもできます。

省スペース化のイメージ

デメリット: 駆動部があるためコストが高く、通路が開くまでの待ち時間が発生します。また、レール式の場合は床工事が必要になります(床の水平精度が必要ですが、床工事不要のノンレールタイプもあります)。

3. 現場に合わせて作り込む「受注設計」

ラックを実際にお客様の現場に導入する際は、個別の条件に合わせて詳細な設計を行います。検討項目は多岐にわたります。

レイアウト:以下の要素を総合的に検討して決定します。
・作業動線
・必要通路幅
・建屋の床強度
・必要な収納容量

強度:以下の要素について、安全性を確保できるように設計計算を行います。
・荷物の重さ
・地震時の負荷
・床に固定するボルトの強度

環境条件: 冷凍倉庫や、ちょっとした火花でも爆発の危険がある防爆環境などの特殊環境下においては、その環境に適した設計をする必要があります。

個別の要求事項:個別の要求に対して実現する方法を考えて設計をする必要があります。以下は一例です。
荷物の落下防止
・特殊形状の荷物(絵画、キャビネット、金型)
・セキュリティ強化(扉、移動棚の集密ロック)

施工性:ラックの施工は建築工事に似ており、限られた工期の中でスピードと正確さが求められます。そのため「短工期で正確に組み上がるか」を考慮して設計します。
輸送時の荷姿(トラックのサイズや搬入経路の寸法等を考慮)
・現場での組み間違いを防ぐ形状
・作業者が持って作業できる部品重量

4. 製品開発:強さとコストを両立する「断面」の設計

ここまではお客様ごとに個別に行う受注設計の話でしたが、ここからは受注設計のベースとなる標準製品を開発する「製品開発」の話です。

4-1. 「受注設計」と「製品開発」の違い

受注設計(カスタマイズ):既存のパーツを組み合わせ、穴の追加やブラケット(受け金具)の追加など、お客様個別の事情に合わせたカスタマイズを行います。また、決められたエリア内にラックをどうレイアウトするかの検討も行います。

製品開発:柱、梁、棚板といった「基本パーツ」そのものを設計します。また、移動ラックを動かすための駆動機構(モーター等の動力装置と、それを車輪に伝える伝達機構全般)の開発もこちらに含まれます。

4-2. なぜ「形」を自由に変えられないのか?

ラックの柱や梁は、一般的に「ロールフォーミング」という工法で作られます。長い金属板を複数のロールに通して連続的に曲げていく手法で、一定の断面を持つ長尺部材を大量に生産するのに適しています。一方、断面形状を変えるには大掛かりな設備変更が必要になります。個別の案件で「柱の形をちょっと変える」ということができないのは、こうした製造工程上の理由があるのです。
(ちなみに、棚板は形状がシンプルなため、柱や梁に比べると比較的形状の自由度が高い傾向にあります。)

出典:一般社団法人日本塑性加工学会 ロールフォーミング分科会(https://roll.jstp.jp/)

4-3. 開発の醍醐味:1mm、1gを削り出す形状最適化

ラック開発の最大の鍵は、「部材形状の最適化」にあります。
ラックは柱と梁の数が非常に多いため、わずかな材料の節約が、プロジェクト全体の劇的なコストダウンに直結します。しかし、これらは荷物を支える「強度部材」でもあります。

「より少ない材料で、より大きな強度を実現する」

この相反する課題を、柱の切り口(断面形状)を複雑に折り曲げる工夫によって解決していくのが、開発エンジニアの腕の見せ所です。
わずか1gの違いが、数千台規模の生産では大きな差となって現れる。この「極限の効率化」こそが、ラック開発の面白さだと言えます。

※補足:業務分担について
ここでご紹介した設計と開発の役割分担は、あくまで私が所属していた企業での事例です。企業規模や製品ラインナップによって細かな違いはあるかと思いますが、業界全体の概ねの傾向として捉えていただければ幸いです。

5.おわりに

普段、私たちが何気なく目にしている「棚」。しかしその裏側には、1mmの形状にこだわり、1gの無駄を削ぎ落とすエンジニアたちの情熱と、高度な計算が隠されています。
次に図書館や店舗でラックを見かけたときは、ぜひその「柱の形」や「効率的なレイアウト」に注目してみてください。そこには、私たちの快適な生活と物流を支えるための、知られざる工夫がぎっしりと詰まっているはずです。


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国門あしたか ・技術士を目指す方を応援したい。 ・技術分野と関わりの薄い方々にも、技術の事を身近に感じて欲しい。 ・根拠の無い噂に惑わされないよう、技術的根拠のある正しい知識をお伝えしたい。 そんな思いで執筆に取り組んで参ります。 頂いたチップは、活動資金として使わせて頂きます。