オーシャン・ドッグスⅢ🐕 第18話:足元の“火”もちゃんと見とかなあかんな
防寒服を詰めた袋をくわえて、アンとルナはドックへ戻った。
シバ・ゼロの前で、犬クルーが待っている。
「ただいまー。お土産、防寒服やで!」
アンが袋を開けると、みんなの目が輝いた。
「おおー!」
「裏起毛!」
「これ、絶対あったかいやつ!」
それぞれの体格に合わせてサイズを選び、1匹ずつ試着していく。
リッチーはカーキ。
りうはネイビー。
あんこは、白い毛に映える新色パープル。
ルークも、南極行き用に薄手と厚手をイエロー。
ルナが、クルーの体温と動きを確認しながら笑う。
「これで、北極の患者さん…じゃなかった、クルーも凍えさせずに済む」
アンは、フルオブビガーのタグをちらりと見た。
「フルオブビガーさん、ギブリ、きいろ、Maiさん…うちらの防寒、ほんま頼りにしてるからな」

そこへ、慌てた足音が近づいてきた。
プカクだ。
後ろには、きいろもついてきている。
「アン!」
プカクの顔は、さっきよりずっと険しかった。
「どうしたんや?」
アンが振り向く。
プカクは、息を整えながら言った。
「きいろから、聞いたんだ。神戸どうぶつ王国からシンリンオオカミとアメリカクロクマが脱走したって」
アンたちの顔が、一斉に引き締まる。
きいろが、静かに続けた。
「ある日、2頭の目に炎が宿った。急に、仲間や人を傷つけようとして…インフェルノの話を聞いた後だと、なおさら…同じ“火”を感じる」
インフェルノ。
猫島を地獄みたいに焼こうとした、大型ネコ。
尻尾から炎を撒き散らしていた、あの目。
アンの胸に、ざわりと嫌な感覚が広がった。
「“火ノ帯ノフチ”の憎しみ…北極だけやなくて、日本の山にも忍び込んできてるんかもな」
りうが、すぐにタブレットを立ち上げる。
「あんこ。chatDOGで、神戸どうぶつ王国周辺のニュースと、山火事情報チェックして」
「了解」
あんこが画面に指を走らせる。
ルナは、クルーの方を振り返った。
「北極に行く準備をしているあいだも、目の前の“火”はほっとけない。オオカミとクマが、本当に“火に飲み込まれてる”なら、治療の余地があるかもしれない」
アンは、防寒服の袖をぎゅっと握った。
「世界のてっぺん行く前に、足元の“火”もちゃんと見とかなあかんな」
夕暮れが終わりかけた空の向こう。
六甲の山のシルエットが、黒く浮かび上がる。
その頂のどこかで、ほんの一瞬、赤い光がちらっと走ったように見えた。
…グルル。
風に混じって、低い唸り声が聞こえた気がした。
「北極の海に向かう準備をしながら、神戸の山にも、静かに“火の影”が伸びてきとったんや」
アンは、山の方をにらむように見つめた。
心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。
防寒服の中で、胸が熱くなる。
「シバ・ゼロ改造。ルークの南極行き。
それに…“神戸の火”の正体探し」
アンは息を吸った。
「やること、増えたな」
でも、その目は、少しだけ楽しそうだった。
「しゃあない。うちらオーシャン・ドッグスやもんな。海のチャイムも、山のサイレンも、ぜんぶ聞きに行ったるわ」
つづく
