オーシャン・ドッグスⅢ🐕 第17話:今日のミッションは豚まんちゃう
南京町、中華街。
赤いちょうちんがびっしりとぶらさがり、ぶたまんの湯気があちこちから上がっている。
人間の足の間を、アンとルナが器用にすり抜けて歩く。
「いい匂い…」
ルナのお腹が小さく鳴った。
「任務忘れんなよ、ルナ先生。うちらの今日のミッションは、豚まんちゃう。防寒服や」
アンが笑う。
人ごみの向こうに、ひときわ目立つシルエットが見えた。
細くて長い脚。
すらっとした体。
ぴったりした服。
そして、サングラス。
イタリアングレーハウンド。
「ギブリちゃん、今日もキマってる!」
「写真撮ってもいいですか?」
周りに人だかりができている。
その犬の肩には、黄色い小さな鳥が乗っていた。
「あれ…」
ルナが目を丸くする。
「きいろちゃん?」
オカメインコのきいろが、こちらに気づいて羽をふるふる振った。
「アン!ルナ!」
サングラスの犬が、サッとこちらを見る。
「君たちが、シバ・ゼロのクルーだね?」
低めの、でも柔らかい声。
「うちがアンや。こっちがルナ。あんたが…ギブリ?」
ギブリは、サングラスを少し上げて微笑んだ。
「そう。フルオブビガーのモデル犬、ギブリ。こっちは、同居鳥のきいろ。うちのMaiが、さっきから君らの話してたよ」

近くにいた人間の女性が、ニコニコしながら会釈する。
サメの着ぐるみパーカーを着ていた。
フードの縁にはギザギザの歯。
背中にはちょこんと背びれ、腰のあたりからは小さな尻びれと尾びれまでついている。
「はじめまして。Maiです。フルオブビガーさんにも話通してます。“北極海でも着られる防寒服、全力で協力します”って」
アンの耳がぴくっと動いた。
「ちょっと待って。なんでサメなん?ここ犬服屋さんちゃうかった?サメ担当の人なん?」
ツッコミに、Maiさんがくすっと笑う。
「サメ好きなんです。あと、こういうスーツ着てると犬たちが“なんか変な人やけど悪い人ではなさそう”って顔してくれるから」
ルナがフォローに入る。
「たしかに、その背びれの位置とか、動く時のシワの入り方とか…“動物が動きやすい服”を考えてる人の着かたって感じするよ。サメスーツも、ある意味“実験台”だね」
アンはじっとサメフードを見て、ちょっとだけ笑った。
「…まあ、“変な人やけど悪い人ちゃう”んは伝わったわ」
アンの尻尾が、ぶんっと大きく振れた。
ギブリが、後ろのワゴンを顎で示す。
「ここ、今日の撮影用サンプル。“ドッグプレイ(R) 裏起毛ラッシュガード”っていうんだ」
ワゴンの上には、色とりどりの犬用ウェアが並んでいた。
ぴったりした形なのに、どこか柔らかそう。
内側は、ふわっとした裏起毛。
「まずは試着してみる?」
アンは、バンダナと同じ赤を選んだ。
ルナは、落ち着いたピンク。
ギブリとMaiさんが手早く手伝いながら、アンたちは服を着てみる。
「どう?」
ギブリが首をかしげる。
アンは、その場で何度かジャンプして、くるくる回った。
「軽い。てか…ぬくい!なんやろ、全身が、ふわっと守られてる感じや」
ルナも、前足を曲げ伸ばししてみる。
「関節のところ、ちゃんと伸びる。縫い目も、ごろついてない。血の流れ、ぜんぜん妨げてない。…これ、“ルナ承認”」
きいろが笑う。
「わたしも、肩の上で寝るとき、けっこう快適なんだよ」
アンが真剣な顔になる。
「ギブリ。北極海はな、風も氷もエグいらしい。うちら、それでも走らなあかん。この服、ほんまに頼りにしてええ?」
ギブリは、サングラスを外して言った。
「イタグレってね、寒さに弱いの。でも、この服があれば、神戸の冬の朝も走れる。“寒さに弱い犬”基準で作られた服が、北極で役に立たないわけないと思う」
Maiさんも、うなずいた。
「現場で使ってもらって、足りないところがあったら、なんぼでも改良します。アンちゃんたちが無事に帰ってきて、“ここが良かった・ここが寒かった”って教えてくれるのが、一番のデータだから」
アンは、その言葉をちゃんと胸にしまった。
「うちら、絶対帰ってくる。その時、“世界のてっぺんでこれ着てきたで”って、写真見せに来るわ」
ギブリが笑う。
「楽しみにしてるよ。北極の風に当たってきた服、モデルとしても興味あるしね」
つづく
