オーシャン・ドッグスⅢ🐕 第21話:この服は“ヒーロー衣装”やなくて“生きて帰るための道具”
神戸市役所の地下に、臨時の対策本部が設けられた。
壁一面に、六甲山の地図。
マーカーでぐるぐると囲まれた“谷”。
その下に、太い字で書かれている。
「神戸リング・フェンス作戦」
猟友会のおっちゃんたちが、地図を見ながら言う。
「山から街へ降りてくるルートは、だいたいここや。ここにパトカーと自衛隊車両並べて、“車の壁”を作る」
自衛隊員がうなずく。
「谷に追い込んでしまえば、あとは山側から降りてこないように囲むだけです」
消防隊長が言う。
「うちは、谷の両側に簡易フェンス車を並べて、そこから“水のカーテン”を噴射する。火の粉が飛んで燃え広がる前に、雑草と木を徹底的に濡らす」
あんこが、モニターに3重の円を描く。
「外側リングが、車と人間のセーフライン。中間リングが、水とフェンスのライン。内側が、アンたち犬チームが入るリング」
りうが、前足で内側の丸をとん、とたたく。
「内側リングに入るのは、うちとアンとリッチーの3匹だけや。あとは絶対、火の圏内に入らんこと」
ルナが、小さく反対しそうになって、でも飲み込んだ。
「…うん。その代わり、火傷したらすぐ戻ってきて」
サチエが、さらに別の紙を広げる。
そこには、オレンジ色の犬用スーツの図面が描かれていた。
「神戸市消防局から、古い防火服を出してもろた。フルオブビガーが、その生地で“犬用防火服”を作ってくれた」

映像には、工房でミシンを踏むスタッフと、真剣な顔のMai。
その横で、イタリアングレーハウンドのギブリが採寸されている。
きいろが、その肩のあたりにとまって、じっと生地を見ている。
Maiのコメントが、映像で発信された。
「動きやすさと、防火。ギリギリを攻めるよ。この服は“ヒーロー衣装”やなくて、“生きて帰るための道具”だから」
フルオブビガー社員の声。
「生地の量的に、作れるのは3着が限界です。アンちゃん、りうくん、リッチーくんのサイズで仕上げます」
アンは、胸をトンとたたいた。
「前線で走る3匹分。十分や」
リッチーが、にかっと笑う。
「じゃあボク、今日だけは“逃がさない側の牧羊犬”だね」
りうが、端末を見ながら言う。
「あとは薬や。5発。これは猟友会のおっちゃんらしか撃たれへん」
猟友会リーダーが、静かにうなずいた。
「撃つのは、わしらの仕事や。せやけど、“どこを狙うか”は、あんたらの方が分かっとる。炎の縁がどこか、全部教えてくれ」

あんこが、真剣に言う。
「ドラマやなくて、現実の話をするね。炎の縁に当てなかった薬は、ほとんど意味がない。外した瞬間、それは“殺すしかない未来”に1歩近づく弾になる。それを忘れないで」
アンは、猟友会の目をまっすぐ見た。
「それでも…やってくれる?」
猟友会リーダーは、少し笑った。
「わしらもな、ずっと“撃つしかない世界”におった。1回ぐらい“撃っても死なん世界”に賭けてみても、罰は当たらんやろ」
つづく
