なぜ「犬吠埼」はイカした地名をしているか(旅ログ)
あけましておめで灯台(爆笑)
「年明け、せっかくの休みだから海でも見たいねえ〜」のノリで、灯台に登ってきました。現在、日本国内で一般客が参観できる灯台は全16基。そのうち「犬吠埼(いぬぼうさき)灯台」を訪れることにしました。都内から車で行くことができるし、何より名前がカッコいい。
冷静に、犬吠埼って響き良すぎませんか。断崖絶壁の上、雄大な海を背に犬の遠吠えがこだまする──そんな情景が目に浮かびます。こんな優美でハイセンスな地名をつけるなんて、名付け親は誇らしくないのかと。現地を訪れることで、その名の由来を知ることができるのでは、という興味関心もあって、いざ日帰り弾丸の旅に赴くことにしました。
パラレルワールドの前段
犬吠埼は、千葉県銚子市に実在する行政上の字名(あざめい)です。灯台のために考案された造語や特有の呼称ではなく、その岬周辺一帯を指す正式な住所でもあります。
T氏「横浜の桜木町とか、東京の自由が丘とか。たしかにオシャレな地名って、命名の背景が気になるものですよね」
道中、今回の旅に同行したT氏が言いました。彼は、大学時代に所属していた演劇サークル時代の後輩。「犬吠埼の由来を調べに行こうぜ」という勢い任せのノープラン旅行にもノリノリなようで、大変ありがたい限りでした。
ちなみにT氏は、国立大学を卒業後、一流企業に3年間勤務して貯めた数百万円を元手に脱サラ、突如俳優養成校に通い出すという着実なプロセスを経て世捨て人となったファンキーな男です。
僕自身も新卒で入社した会社を2年で辞め、ニート→フリーターを経てフリーランスのライターになったという似たような経歴を持っています。魂のレヴェルが近いという親近感から心を許している友人の1人で、かれこれ10年ほどの付き合いになります。
そんな相手ですから、2時間ほどのドライブ中、割とシリアスなトークテーマに突入する場面もあります。
T氏「仮に今後、彼女と結婚…なんて話になったら俳優やめちゃうかもですね」
T氏は演劇サークル時代から演技力がひときわ高く、個人的には俳優業で大成しそうな匂いがしていると感じています。しかし、彼もアラサー。人生計画について、何かと悩みは尽きないようです。
“安定”をかなぐり捨ててまで、夢を追い求める姿勢は憧れるところでもある。「人生は一度きりだからこそ」の挑戦なのでしょうが、年齢を重ねることで抱えるものも増え、“変化”を要請される局面が訪れるもの。それもまた「人生は一度きりだからこそ」です。
僕「いろいろ考えちゃうわな。そういう年齢だし」
T氏「もちろん当分は挑み続けるつもりですけど。ただ『身を固める』ってのも選択肢としてはチラつきますね」
僕「人生は選択の連続、とはよく言ったものだよねえ。そのうえ、事後的にもその選択を正解と言い切ることは不可能だしね」
大真面目に、あるいは「結局答えはない問いですし」という諦念からくる雰囲気任せの会話を紡ぎながら、車は犬吠埼灯台を目指しました。
伝説の岩、2本立て

ウッヒョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!

でっけェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!

高っけえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!

絶っ景〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
車中での真面目談義はどこ吹く風。威風堂々たる佇いの灯台を目の当たりにしてしまえば、もうテンションは上がりっぱなし。己のちっぽけな人生なんてどうでもよくなるものです。
ちなみに犬吠埼には、映画好きの僕らにはたまらないスポットも存在しました。それがこちら。

本編映像が始まる前、荒波が岩を打ちつけるなか「東映」の三角ロゴがデデ〜ンっと浮かび上がる、オープニングシーン。あの映像のロケ地です。なんとあの有名なロゴ映像は、1954年公開の作品で初めて使われたそうで70年以上もの歴史があるとか。

ただ、フォトスポットに設置された説明文をよく読むと「これまで映画の画面サイズの変遷とともに撮り直され現在はコンピューターグラフィックで制作されたものが使用されている」とも書かれていました。じ、時代の流れを感じるぜ……。

近くには、犬吠埼灯台の歴史を学べる資料館もありました。せっかくなのでお邪魔することに。施設内の一角には、観光客向けに銚子一帯の観光スポットを紹介する展示もありました。
たとえば、切り立った断崖がドーバー海峡の白い崖(イギリス)にも似ていることから「東洋のドーバー」と呼ばれている『屏風ヶ浦』、銚子漁港に位置する57m超の展望台『銚子ポートタワー』などなど……時間さえあれば寄り道したい魅力的な場所ばかりで、ノープランで訪れたことを後悔するラインナップでした。
そんななか、気になる観光スポットが。
T氏「永原さん。“犬岩”ってありますよ」
犬吠埼灯台から南西に3km弱に位置する、奇岩。その名の通り、耳を立てた犬の形をした大きな岩です。その名前は、とある伝説に由来するそうです。
源義経が奥州に逃れるときに置き去りにされた愛犬が七日七晩泣き続け、八日目に岩になってしまったと伝わります。
T氏「七日七晩泣き続けた義経の愛犬……まさに、これじゃないですか? 犬吠埼の由来」
鋭い。確かに、それっぽい。ただし、キャプションのどこにも「犬吠埼という地名の由来である」という補足説明はありません。くわえて、詳しく調べたところ住所も犬吠埼内ではないことが分かりました。だいぶ正解に近いような気がしますが、決定打に欠けます。
その後も資料室を一周しましたが、地名に関する説明は見当たらず。軽めにモヤモヤ〜としながら、急いでその場を後にしました。というのも、僕らには“ある時間”が迫っていたんです。
夕暮れの浜辺で真相は暴かれる
急いで向かったのは、浜辺でした。

本当に日本か?
千葉の海は「日本のウユニ塩湖」に喩えられることもある九十九里浜を始めとして、日の出・日の入りの絶景っぷりがとにかく格別です。この景色がどうしても見たかった。「犬吠埼の由来調査」という趣旨そっちのけで移動を急いだ理由は、夕暮れが迫っていたからでした。

エグすぎる。

一生眺めていられるわ、コレ。
絶景を前に、自然と口数少なになっていく僕ら。ほのかに橙色だった空が藍色に染まるまで、ただただ無言で景色を眺めていました。時が静かに流れていきます。気が付けば完全に日は暮れ、あたりは暗闇に包まれていました。2人並んで、穏やかに波打つ海を見つめるなか、T氏がゆっくりと口を開きました。
T氏「いい加減、地名の由来、調べに行きますか」
僕「だな」
T氏「でも、もう資料室とかは閉まってますよね」
僕「だな」
T氏「どうします?」
時刻は午後6時を回っていました。近隣の施設は午後5時で閉まっており、住民への聞き込みも難しい状況。しかしこのままでは、せっかくの片道2時間の旅が泡沫に帰すことになります。そうした逡巡の末──脳内を天才的な閃きが駆け抜けました。そして、僕はそのアイデアをT氏に伝えるため、彼の目を見つめて言いました。
僕「Geminiに訊こう」
T氏「いや、せっかく来た意味よ」

T氏「結局、コレなんじゃないですか」
とはいえ良い旅だったじゃないか、などと会話をしながら、僕らは帰路につきました。行きの道中では、T氏の心のわりと柔らかい部分にも触れられた気がして、また一段階、仲が深まった旅行でもありました。
さて、2026年は始まったばかり。きっとT氏はこれからも挑戦を続けていく……もちろん僕もです。変化するべきか否か──事後的にも正解/不正解の分からない選択を迫られながら、人生を歩んでいくのでしょう。今年も。
そんな薄ぼんやりした希望と、名残惜しさを胸に車を走らせた帰り道のこと。
T氏「ところで、ここら一帯が犬吠埼と名付けられた時期って源平合戦の当時なんですかね?」
僕「たしかに。ちょっとGeminiに訊いてみるわ」
T氏「全部Geminiで済ますじゃないですか」
僕「あ、出た。正式な行政地名となったのは1938年らしい。わりと最近なんだな」
T氏「なるほどです。ちなみに、その前は何て地名だったんすかね」
僕「己がGeminiにおまかせあれ」
T氏「自分の手柄みたいに言わないでくださいよ」
そして出力された回答がこちらです。

なるほど。
変化が明らか正解のパターンもあるんだ。
