ぼくのよる──影が歩き出した夜のこと
夜が終わらないあなたへ。
眠れない夜に、誰かの物語が静かに寄り添ってくれたら。
「ぼくのよる」は、そんな願いから生まれました。
神秘と向き合う日々のなかで、私は夜ごと人の声を聴いてきました。
言葉にならない沈黙が、受話器の向こうから静かに伝わってくる。
そこで出会うのは、誰にも言えなかった沈黙たちです。
ある晩、とても深い相談を受けました。
言葉にならない痛みが、受話器の向こうから静かに伝わってきて、
通話が終わったあとも胸に残り続けました。
その余韻を抱えたまま、私は一曲の音楽をかけたのです。
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スクリャービンの前奏曲が照らしたもの

「ぼくのよる」が芽生えた、最初の光。
青灰の夜に浮かぶ月——「ぼくのよる」が生まれた気配)
アレクサンドル・スクリャービン
「24の前奏曲 Op.11 第21番」。
この作曲家は共感覚の持ち主でした。
音に色を見て、和音に光を感じる人。
彼の音楽は、聴くというより「浴びる」ものに近い。
静謐な入りから始まり、
中盤でふっと胸の中心が温まるような振動が広がります。
その瞬間、蓮沼から蓮が立ち上がるように、ひとつの像が浮かびました。
少年。
そして、そのそばを歩く犬の影。
影は、ときどき自分の形を裏切る——
そう思った瞬間、物語は歩き始めていました。
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少年と犬が連れてきた記憶

少年と犬が歩き出す、青い影の物語。
なぜ「少年」だったのか。
私は子どもの頃、よく男の子に間違えられました。
どこかに「少年性」が住んでいたのでしょう。
冒険心と孤独が、同じ部屋で暮らしていました。
だから少年と犬の並びは、私にとってとても自然でした。
どこへ向かうのかもわからないまま、ただ夜を歩いていく。
その後ろ姿が、たまらなく愛しかったのです。
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「優しい虚無」という核
この物語の中心にあるのは、優しい虚無です。
悲しみを無理に明るくしない。
夜を無理に終わらせない。
ただ「そのまま」を見つめる。
その静けさの中にだけ、
ほんの小さな温度が生まれる。
私は、夜が終わらない人に届けたかった。
不思議を愛する人に届けたかった。
そして、かつての私のように
「少年かもしれない自分」をどこかに抱えている人に届けたかった。
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胸の奥に眠るもうひとつの物語
この作品を書きながら、
私は自分の中にある大きなテーマと出会いました。
世界のどこかにある、ある種の悲しみ。
それを、いつか言葉にする日が来るかもしれません。
今はまだ、影のかたちでしか語れない。
でも影は、ときどき本体より先に歩き出すものです。
「ぼくのよる」が、
あなたの夜にそっと寄り添えますように。
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