見出し画像

「あなたは、童謡『里の秋』を知っていますか?(11月28日)」

童謡『里の秋』の世界観とは。

*
あなたは、童謡『里の秋(さとのあき)を知っていますか?

斎藤信夫(作詞)、海沼實(作曲)の作品で、
小学校の音楽の教科書に載っているので、幼い頃に歌われた記憶がおありかも知れません。2007年(平成19年)、「日本の歌百選」に選ばれている。

*
童謡らしく、短く平易な表現で表された作品で、1番の歌詞に綴られている
『おせどに木の実の落ちる夜は』は、
お家のおせど(背戸、裏口)の近くの栗の木から、実が落ちる音が聞こえるほどの静寂な夜に、囲炉裏(いろり)に掛けられた鍋の中で、栗を煮ていると描写する。

おそらく煮られている栗は、先ほど家の裏で実を落とした木のものであろう。

囲炉裏が座敷に切られているということからは、屋内で直火を焚くことが想定された天井が高く、通気性の高い田舎家、今日では、白川郷などに残る「合掌造り集落」や、「和田家住宅」、「明善寺庫裡郷土館」などの歴史的な建物と同じ造りの野太い木材で建てられた茅葺き屋根である。

『かあさんと ただ二人
栗の実にてます いろりばた』

この歌詞からは、静かで母と二人だけで過ごす秋の夜の情景を表している。

*
「父親はどこへ?」と思っていると、続く2番と3番の歌詞で、

『さよならさよなら 椰子の島
お舟にゆられて かえられる
ああ とうさんよ ご無事でと』

父親は、椰子の島にいて、そこから船に乗って帰ってくる、と歌っている。

椰子の島というからには、日本にはおらず、海外。椰子は熱帯から亜熱帯にかけて広く分布する植物で、温暖で多湿な気候を好むから、間違いなく南、太平洋の島々のあたりにいる。

詩の視線が、日本の山里の寒々しい秋を肩寄せ合って過ごす母子と、常夏の南方にいる父親が見ているであろう情景の対比が、短い言葉に鮮やかに織り込まれているのに気づく。

「父親は南の島。でも、何のために?」

*
父親の留守を守る母子が、山里で秋の夜長に栗を煮ている囲炉裏で過ごす情景は見えてきた。
そして、父親は南の島にいることも。
「でも、何のために?」という疑問が浮かぶ。

その答えは、童謡『里の秋』の作られた時代に当たると分かった。

童謡『里の秋』は、昭和20年(1945年)12月に発表されている。
時代は、太平洋戦争直後の混乱期。海外派兵された人々が日本へ続々と帰国(引き揚げ)を始めた頃である。

この歌の父親は、召集されて南太平洋に展開していた南方軍に属していたのである。

*
さらに、この歌がどういった経緯で誕生し、披露されていたのかを探ると、意味がはっきりする。

1945年(昭和20年)12月24日、ラジオ番組《外地引揚同胞激励の午后》の中で、引揚援護局のあいさつの後、当時、小学校5年生だった童謡歌手・川田正子さんの新曲として全国に向けて放送された。』とあった。

以上のことから、
『里の秋』とは、歌詞の1番で「まだ小さな子どもが、ふるさとの秋を母親と過ごす様子」を、
2番においては「出征中の父親を夜空の下で思う様子」、そして3番では「父親の無事な復員を願う母子の思い」を表現しているのである。

"囲炉裏がある田舎家に母子でいて、夜に栗を煮ている。"
激しい都市部の空襲を逃れるための田舎へと疎開し、お米がないから、代わり煮た栗を晩ごはんの夜、家族が揃わない寂しさと、飢えに耐えているのであろう。

『消されてしまった4番の歌詞』

*
さらに、童謡『里の秋』には、元になる詩があって、作詞をされた斎藤信夫さんが、1941年(昭和16年)12月に『星月夜(つきほしよ)』の題名で発表された。
『里の秋』の歌詞が1番から3番までに対して、それよりも長い4番までの詩であった。

詩歌『月星夜』は、歌詞の1番と2番は童謡『里の秋』と内容は同じだが、3番と4番は、異なっていて、
3、4番は「父さんの活躍を祈ってます。将来は僕も国を護ります」という様な内容で締めくくられている。

前述の通り、詩の発表時期は、1941年(昭和16年)12月である。

1941年(昭和16年)12月8日には、日本はアメリカとイギリスに対して宣戦布告し、太平洋戦争が開戦。同日未明、日本軍はハワイの真珠湾を奇襲攻撃した。
その第一報に触発されて、斎藤信夫さんが発表したのではないかと類推できる。

『月星夜』(原詩) /斎藤信夫
 (1941年(昭和16年)12月)

しずかなしずかな 里の秋
お背戸に 木の実の落ちる夜は
ああ かあさんとただ二人
栗の実煮てます いろりばた

明るい明るい星の空
鳴き鳴き 夜鴨の渡る夜は
ああ とうさんのあの笑顔
栗の実 食べてはおもいだす


きれいなきれいな 椰子の島
しっかり守ってくださいと
ああ とうさんのご武運を
今夜もひとりで祈ります


大きく大きくなったなら
兵隊さんだよ うれしいな
ねえ かあさんよ 僕だって
かならずお国をまもります
--

*
童謡『里の秋』には、③番の歌詞は戦地からの帰還(復員)様子に改変され、④番は削除されている。

童謡『里の秋』に先立って創作された『月星夜』は、戦意高揚のために作られた歌であった。

それが童謡『里の秋』では、父親の無事の帰国を祈りながら、山里の田舎家で母と2人で心待ちする子どもの心を描いた家族愛の歌へと変えられたのである。

*
間もなくやってくる師走12月。
12月8日は、日本がアメリカとイギリスに対して宣戦布告し、太平洋戦争が開戦した。

今なお世界では、この瞬間も紛争は絶え間なく人々を苦しめ、日本国内では、師走の気忙しい雰囲気の中に思考が埋もれがちです。

このあたりで、心落ち着かせて、平和の尊さを、童謡『里の秋』に託された平和への想いを、あなたも私と一緒に、あらためて噛み締めてみてはいかがでしょう。

今日も、良い一日になりますように。
(🎹MIYABI)

いいなと思ったら応援しよう!

みやび ご支援くださり、ありがとうございます。くださったチップは、楽譜やご本の購入代金に使わせていただきます。

この記事が参加している募集