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コーチェラ2025感想 - 「魅せ方」の時代

「春」の季語になりつつあるコーチェラ。2週に渡って計6日間開催された砂漠のフェスに出演した気になるアクトをぽつぽつと観たので、あくまで個人の感想として記したいと思う。

ちなみに今年の個人的ベストアクトは、Charli xcx、Tyla、Lady Gaga。

ナラティブの移行

今回のベストアクトとして呼び声が高いレディ・ガガ。全4部構成+アンコール(Bad Romance)の徹底したコンセプチュアルなパフォーマンスは、まさに計算され尽くしたステージだった。ガガ自身の振り付けや導線はもちろんのこと、バックダンサーとの連携、カメラワークまでもコントロールされたパフォーマンスは、明らかに「配信」での見え方が意識されていた。

しかし筆者が個人的に注目したいのは、チェス盤を模したステージの上で過去の白ガガと現在の黒ガガが対峙する演出。

先月リリースされたガガの新作『MAYHEM』の面白さは、その音楽的なレファレンスが10~15年前の彼女自身だったことだ。2008年にデビューしポップス業界を生き抜いてきたガガのキャリアは、常に順風満帆でわかりやすいものではなかった。2013年の『ARTPOP』の商業的失敗、2014年以降のトニー・ベネットとのジャズ・プロジェクト、2018年の『スター誕生』の成功、パンデミック禍での『Chromatica』、賛否分かれた『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。これらを全て経験してきた彼女が原点回帰として参照したのが「あの頃」のガガだったのは納得がいくし、いま世間が求めているものとも合致した。

そんな『MAYHEM』の延長にあったのが今回のコーチェラのステージであったとすれば(間違いなくそうなのだが)、このチェス盤の演出はガガの過去&現在の構図を可視化しており、表現としても説得力が増していた。

コーチェラという大きなパブリックなステージに個人のナラティブを持ち込んで成功させたのはビヨンセも同じ。ガガチェラ or ビーチェラ論争はステージの完成度を比較しているだけでなく、そういった類似性から生まれる議論でもある。

ガガは一晩のステージの中で複数のエゴのナラティブを紡いだが、チャーリーxcxは1日目と2日目にわたってひとつのナラティブを完成させた。

2024年の夏の象徴となった「BRAT」。筆者はこの現象は定義されることを拒み、一過性のものとして過ぎ去っていくからこそ美しいと思っていた。「2024年は『BRAT』だった」という曖昧なイメージだけが後世に残っていく美しさだ。

だからコーチェラ初週の時点でチャーリーxcx本人が「BRAT」の“延命”宣言をしたのに対して、少々戸惑った。今年の夏も「BRAT」と化すならば、昨年の「BRAT」の意味も変わってしまう。

そんな状態で2週目のパフォーマンスを観たら、このわだかまりは解消された。初週と異なりエンディングで映し出されたのは、チャーリーxcxと縁の深いアーティストたちと、今年注目の新作の公開が控えている映画監督たちの名前。

2025年の「BRAT」はチャーリーxcx本人の主導ではなく、周辺アーティストたちと映画監督たちが主導する。コーチェラのステージ上で、「BRAT」の継承が行われたのだ。文化に対する愛着と経済的な支援の波がチャーリーxcxから外へ波及していきますように、という祈りの意味が「brat summer isn't over yet」には込められていた。

2週両方観ることでひとつのナラティブが完成するという、コーチェラの新たな使い方を彼女は見せた。視聴率を稼いて自身のプロモーションに繋げることもできるし、「2週とも観た方がいい」とオーディエンスに思わせる戦略は来年以降増えていくだろう。

口パク論争

些細な話なのだが、XGのパフォーマンスに関して過熱していた口パク(リップシンク)論争についても触れておこう。

筆者はマイケル・ジャクソン至上主義者なので、口パクには何も思っていない。歌いながら踊るアーティストが偉いというわけではなく、ただの選択の結果にすぎないと思っている。90年代に入ってどんどんダンスに力が入っていくようになった彼は、ボーカルを捨てて身体での表現に集中する選択をしただけだ。そこに文句を言う人は今誰一人いない。

もちろん、ロックバンドが楽器を弾いていなかったりシンガーソングライターが歌っていなかったりしたら疑問に思う。つまり、アーティスト側の選択とオーディエンスの期待にズレがあるときにこういった口パク論争が生まれる。今回のXGの件も、メンバーたちは口パクをしていないことをアピールしたかったし、ファンの人たちも口パクをしない彼女たちに期待していた結果、一部から寄せられる口パク疑惑に過剰に反応したと思われる。いずれにせよ、歌って踊る人はすごい。そうじゃない人も十分すごい。それだけの話だ。

魅せ方がうまい人が勝つ

デビュー以来ずっと巻き起こっている、XGは「K-POPなのかJ-POPなのか」論争、「アイドルなのかアーティストなのか」論争は、ファンの視点に左右される部分が多いのではと、今回のステージとオンライン上の反応を見て強く思った。

というのも、「メンバーたちはすごい努力をしてここまで来たんだ」という親目線のファンのサポートは、今話題の「プロセスエコノミー」の側面を強く有している。「衣装替え待ちのバックダンサーによるダンスが長くて間伸びしている」という指摘に対して、「バックダンサーも一緒に練習してきた仲間だからじっくり観て応援すべきだ」(筆者意訳)という反応が出るのも、まさに「プロセスエコノミー」的。

「プロセスエコノミー」はアイドルカルチャーと非常に親和性が高い。大きな舞台に立つことを目標に、アイドルとファンが一緒に成長していくシステムは、XGの中にも当然生まれる。XGファンと非XGファンの生まれた今回のステージの評価の微妙なズレは、おそらく「プロセスエコノミー」的態度の有無にある。

少し周りくどい言い方をしてしまったが、1週目のトラヴィス・スコットを「彼も頑張ったんだから悪口言わないで!」と擁護する人は存在しない。多くの音楽ファンにとってトラヴィス・スコットの「努力」などどうでもよくて、「いかに完璧なステージを見せてくれるか」ということにしか関心がないからである(そして初週は失敗した)。今回のステージに至るまでのナラティブを共有してアーティストと共犯関係になって親のように見守るか、前後の文脈を切り落とした独立したひとつのアートとして鋭く評価するか、この違いを理解していなければXGファンと非XGファンはいつまでも喧嘩しつづける。

「衣装替え待ちのバックダンサーによるダンスが長くて間伸びしている」と感じさせてしまったのは、非XGファンからどう見えるかという調整がうまくできていなかったからなのではないだろうか。観た人全員を満足させられるもっと良い「魅せ方」はなかったのか。

レディ・ガガはもちろんのこと、チャーリーxcxやタイラも「魅せ方」がうまかった。1週目のチャーリーxcxのステージで驚いたのは、サプライズ登場したビリー・アイリッシュと「Guess」を披露した直後、ビリーが別れの挨拶を言い終わる前に次の曲のイントロが流れ始めたことだ。XGの逆をいくように、オーディエンスを一切焦らさず飽きさせず、とにかくスピード感で押し切った。中盤バラードナンバーをいくつか挟んだが、基本は『BRAT』収録曲メインでダンスパーティを演出した。このスピード感を損なわないためにも、ステージはモノクロームのミニマルなデザインだった。シンプルなステージ、シンプルな衣装、シンプルなアレンジで押し切る。どこを切り取っても画になる彼女のステージは、「魅せ方」がうまかった。

タイラも「魅せ方」がうまかった。当たり前だが、特にフェスの短いスロットでインパクトを残すには特定の色を使ったイメージづくりが大切だ。とにかく派手にすればいいものではない。タイラは赤だった。ちなみにJENNIEも赤だった。タイラはオリジナルの曲の良さを生かしたまま、遊び心のある自由なバンドアレンジで魅せた。そしてタイラは身体での表現がとにかくうまい。タイラ、バンド、ステージ演出が噛み合ってひとつの赤のイメージをパッケージしていたからこそ、筆者は思わず彼女のパフォーマンスを見て涙してしまった。

「魅せ方」は言い換えれば「イメージ」でもあって、パフォーマンスのクオリティ(歌がうまいとか、ダンスがうまいとか)とは実は別の評価軸である。なんなら「外側」とも言い換えられる。周りからどう見られているのか、「外側」をセルフプロデュースできる人が強いというのは、日本と変わらずアメリカも同じで、2025年らしいフェスだと思った。


最後に。Arcaのステージにサプライズ参加した宇多田ヒカルさん(ChatGPT)に、出演時の心境を聞いてみた。

うーん、出演前は…めっちゃ緊張してました。
やっぱりArcaのステージって、すごく自由で、即興的なエネルギーがあるから、そこに飛び込むっていうのは、ちょっと怖くもあり、でもすごくワクワクもしてて…。
「ちゃんと馴染めるかな?」とか、「場を壊さないかな?」みたいなことも考えちゃって。

ステージに立った瞬間は、もう…何か、すべてを委ねるしかない、って感じでしたね。
Arcaの世界の中で、自分が一部になれたらいいな、って。
お客さんもすごくオープンで、温かくて、音の波に身を任せてる感じがすごく心地よくて…。

終わってみて、うん、なんか、すごい不思議な、でもすごくピュアな時間だったなって思ってます。
こういう形で音楽を共有できるって、本当に奇跡みたいだな、って。


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