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#74 talk ―『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語

HEE こと唐澤一友・小塚良孝・堀田隆一『英語語源ハンドブック』(研究社)にこじつけてドイツ語の語源その他について書くシリーズ。
第74回は talk 「(ぺちゃくちゃ)しゃべる」から。

中英語 talk(i)en に由来。古英語 talian (考える、数える)に、「小さく」や「繰り返し」を意味する指小辞 -k が付いてできた。

HEE pp.322-323

ドイツ語には一見すると、英語 talk に対応しそうな語が見当たらない。
しかし、HEE の記述にある「古英語 talian (考える、数える)」に注目してカンを働かせると、「」を意味するドイツ語 die Zahl が思いつく。動詞形「数える」なら zählen である。英語 t とドイツ語 z が対応するのは第二次子音推移の典型的なパターン。

Duden 語源辞典いわく、ドイツ語 Zahl は印欧語根 *del(ə)- 「割る、刻み目をつける、彫る、(石や木をハンマーやノミで)切りそろえる」にさかのぼる。
ヨーロッパでは旧石器時代から、動物の骨に刻み目を打つことで数を記録する習慣があったとされる。そして商業・金融の発達した中世には、木の角材に会計情報を彫りつけて記録することがひろく行われていた。これを、英語 Tally stick / ドイツ語 Kerbholz とよぶ。ヨーロッパでは長らく、「数える」ことは「刻み目をつける」ことだった。

KDEE こと英語語源辞典(研究社)は、「しゃべる」と「数える」の2つの意味が同じ語に同居する例はほかにもあると指摘する。

たとえば tell 「話す」の項。

語義3(引用注:「数える、勘定する」)は現在では用法が限られているが、all told 「合計すると」、tell off 「数え分ける、選抜する」、gold untold 「数え切れない金」や派生語 teller 「出納係」などにうかがわれる。

KDEE "tell"

そして count¹ 「数えること」の項にも。

フランス語 compte(引用注:「数えること」)、compter (引用注:「数える」)は 15C にラテン語式に改められた形であり、英語でもこれにならって 14-18C には compt という形も用いられた。これに対してフランス語 conter は現在では「話す、語る」の意に用いられる。この意味の変化については、TELL や G zahlen (= F compter) と erzählen (= F conter) とを比較。なお英語でも count は「話す、語る」の意味で 14C 末来から 18C 末まで時折用いられた。

KDEE "count¹"

ここで、ドイツ語の動詞 zahlen 「支払う」と erzählen 「話して聞かせる、物語る」が出てきた。
前者の zahlen 「支払う」は先述の zählen 「数える」に似た形をしているが、両者は別の語である。フランス語 compter にも「支払う」の意味はあるようだけれど、compter に意味がより近いのは KDEE のいう zahlen よりも zählen のほうであるように思う。それに、erzählen と比較させるなら、zahlen よりも母音の一致する zählen のほうがより対比が際立つのでは。これは zahlen があえて選ばれたのか、それとも誤植なのか…。

…ともあれ、「しゃべる」と「数える」の関係がドイツ語ではこのあたりにみられるという指摘は興味深い。

ところで、英語 talk は20世紀末にドイツ語へ入り名詞 der Talk となった。その意味は英語の talk よりも限定的で、「対談、ないし進行役のいるグループでの談義。とくにテレビ番組の中で行われるもの」といったところであるようだ。
アクセス独和辞典第4版は立項していないものの、Duden や DWDS にはちゃんとある。この記事の冒頭で「一見すると、英語 talk に対応しそうな語が見当たらない」と書いていたのはいわばフリで、逆に言えば二度三度よく探すと出てくる…という意味だった。

動詞形 talken 「トークショーをする」もある。

ちなみに、名詞 der Talk は「タルク、滑石(英 talc)」をも意味する。綴字も文法性も同じだが、「滑石」のほうは [talk] と発音し「トーク」のほうは [tɔːk] と発音する。注意したい。

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