29歳無職、アルマトイで、3日連続同じ食堂に通う
初めての国や街では、お気に入りのご飯屋さんが見つかるだけで、その街との距離がグッと縮まる気がします。
気づけばすっかり居心地のいい街になっていた、アルマトイでの3日間を振り返ります。

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パンの匂いと、久しぶりのブラックコーヒー
パンの焼けた匂いで始まる朝って素敵です。

アルマトイに到着した翌朝、トルキスタンホテルのロビーに降りると、ちょうど朝食の時間でした。エレベーターの扉が開いた瞬間、ふわっとパンの焼けるいい匂いしました。
朝食はビュッフェ形式で、テーブルに様々な料理が並んでいました。食パンが2種類、サラミが数種類、チーズ、目玉焼き、ゆで卵。白く濁った粥のようなものも。飲み物は紅茶とインスタントコーヒー。

せっかくなので、ほぼすべてを少しずつ皿に取ります。特にサラミとチーズが美味しくて、おかわりしました。インスタントではあるものの、久しぶりに飲むブラックコーヒーも嬉しい。中国ではほとんどコーヒーが飲めなかったのです。
「このホテルを選んで正解だったな」
そう思いながら、ロビーを見渡します。周りには、ひとりか、せいぜい二人で泊まっているのだろう外国人と思われる旅行者が数人。朝陽が差し込む食堂で、皆それぞれ静かに朝食をとっていました。
街歩きはバザールから始めたい

街歩きをするとき、できるだけ最初にバザール(市場)へ行くようにしています。観光名所よりも先に、地元の人たちの生活がそのまま集まっている場所を歩いたほうが、その街の輪郭が見える気がします。
朝食を終えて、中央バザールへ向かいました。
バザールには、野菜や果物、チーズ、サラミ、雑貨、服、靴、工具まで、生活に必要なものが一通り揃っています。かなり広くて、全部見てまわるのに1時間はかかりそうです。


アルマトイという名前は「リンゴの里」が語源だそうで、青果売り場でひとつ買ってみました。バザールで買い物ができたというだけで、なんとなく「この街に受け入れられている感」があります。あとで部屋に戻って食べると、ほどよい酸味があって美味しかったです。


この街に受け入れられている感がある
バザールの外では、押し車のような台に金属製のボトルを載せた、簡易的なコーヒースタンドが出ていました。周りには数人の客が集まっていて、それぞれ紅茶やコーヒーを頼んでいます。私もそれに倣ってコーヒーをひとつ注文しました。150テンゲ。隣の客は、スプーン二杯分の砂糖を迷いなく入れていて、アルマトイでも甘い飲み物が主流なのだと分かります。

こうしてバザールを歩き、立ち止まり、同じように飲み物を買っていると、この街の日常に紛れ込んだような気分になれます。周りからみたら「やたら背の高い見慣れない東洋人がいる」と思われているだけなのかもしれないけれど。
祝日の公園で、アルマトイの顔を見た
中央バザールのすぐ南にある、28人のパンフィロフ戦士公園を歩きました。
28人のパンフィロフ戦士とは、1941年にドイツ軍のモスクワ侵攻を阻止したソ連の英雄的な兵士たちのことです。
この日はカザフスタン人民統一の日で、園内は賑わっていました。子連れの家族が多く、ゴーカートやシャボン玉で遊ぶ子どもたちの姿が目に入りました。天気もよく、絶好の行楽日和です。

戦士の墓の前では、迷彩服を着た男女が整列していました。モニュメントの前には赤いチューリップがきれいに咲き、スピーカーからは「カチューシャ」が流れていて、旧ソ連構成国の祝日らしい独特の空気が漂っていました。

※ ここで私の頭のなかでソ連国歌が流れる
「デェェェェェェェェン!!!!!」
▼ ソ連国歌を聴きたい人はYouTubeからどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=xSr5ewJvVig&list=RDxSr5ewJvVig
公園の一角に建つゼンコフ教会は、まるでおもちゃのような色合いです。すぐ近くの小さな小屋では、20人近くのおじさんたちが集まって、黙々とチェスを指していました。この公園が、市民の憩いの場であることが伝わってきます。


歩いていて感じたのは、アルマトイの多様さです。ロシア系、アジア系、ヨーロッパ系、イスラム系、中華系──はっきり線を引くことはできませんが、さまざまな背景を持つ人たちが自然に混ざり合っています。英語はあまり通じませんが、どの人もどこか穏やかで、こちらに対して壁を作らない。
祝日の公園を歩いていると、アルマトイという街がどんな表情をしているのか、少し分かった気がしました。
旅先で、スタバに逃げる
私が旅先でよくスタバに行くのは、安心して飲めるブラックコーヒーがあるからです。
地元のカフェに入るのも楽しいのですが、砂糖がたっぷり入っていたり、どんな味が出てくるのか分からなかったりと、少しだけ気を張ります。その点、スタバでは余計なことを考える必要がありません。それだけで頭と体が休まります。
アルマトイのスタバは、MEGA Parkという大型ショッピングモールにありました。中央バザールとは対照的に、近代的で日本のイオンを思わせる雰囲気です。

中に入って、コーヒーを飲みながら日記を書くことにします。コーヒー1杯800テンゲ。アルマトイは概ね日本よりも物価が安いですが、スタバは安くないですね。日本と変わらない価格設定。
それにしても、スタバってすごいですね。
ここがカザフスタンだということを一瞬忘れてしまいそうになります。内装も、店の空気も、出てくるコーヒーも、どの国でもほとんど変わらない。
私はたぶん、知らない街では思っている以上に臆病なんだと思います。いつもと変わらないコーヒーが飲める安心に、ずいぶん救われます。
夕食は昨日と同じ食堂で

旅先で新しい店を探し続けるより、同じ場所に何度も通うほうが、自分には合っている気がします。
その夜も、二晩連続でASHANA SOFRAで食事をとりました。昨日食べた料理がとても美味しかったこともあって、新しい店を探す気は起きず、自然と足が向きます。店員さんに「お、今日も来たんだ」というような顔をされました。

今日は、白いスープに浸かった煮込みハンバーグです。やはり美味しかったです。派手さはありませんが、疲れた体にちょうどいい味でした。
飲み物は7UPにしました。「アジアといえば7UP」という勝手なイメージがあります。カザフスタンでも飲めるのは、少し意外でした。
アルマトイ居心地良すぎて延泊する
昨日の国境越えの疲れも癒えないまま、今日一日アルマトイの街を歩き回り、ヘトヘトになりました。とりあえず、アルマトイにはもう一泊、計3泊することにして、フロントで連泊の手続きを済ませます。
次はタシケントへ向かうにしても、もう少しこの街で足を止めていたい。
私がもし5歳若ければ、すぐに先へ進もうとする気力と体力があったかもしれない。けど、このときは「もう少しだけゆっくりしよう」と決めました。
本で読んだ、憧れのオープンサンド
佐藤優さんの著作『十五の夏』の中に、東欧か旧ソ連のどこかでオープンサンドを作って食べる場面があります。
ありふれた食事のシーンですが、佐藤優さんの文体を通して読むと、めちゃくちゃ美味しそうに感じられたんですよね。それを読んで以来、外国で(できれば旧ソ連で)オープンサンドを作ることが、ちょっとした憧れでした。
そんなわけでバザールで買った材料を使って、憧れのオープンサンドを作って朝食にしました。

パン、サラミ、馬肉の燻製、チーズを適量ずつ購入して、全部で1,000テンゲほど。サラミやチーズを切るための簡易的なナイフ(プラスチック製)も一緒に買い、こちらは200テンゲでした。

食べてみると、想像していた通り、いやそれ以上に美味しい。素材の味がはっきりしていて、朝からしっかりとした満足感があります。旅先で、こんなふうに自分で食事を用意する時間があるのは、なかなか贅沢なことだと思います。
次の街へ進む準備──タシケント行きの切符を買う
次へ進むため、タシケント行きのチケットを買いに駅へ向かいました。
カザフスタンホテル近くのバス停から141番の市バスに乗り、アルマトイⅡ駅で下車します。駅前の大通りに入ったところで、他の乗客と一緒に降りました。

正直なところ、チケットをどこで買えるのかはよく分かっていませんでした。駅にカウンターがあるものだと思い込んでいましたが、駅前を歩くと、それらしき建物があり、入ってみると旅行代理店のようでした。中にはカウンターがあり、ここで列車の予約ができるようです。
近くにいたスタッフに列車の予約をしたいと伝えると、英語を話せる女性が対応してくれました。バルと名乗る、私と同じくらいの年齢の女性で、カザフ系の顔立ちをしています。
アルマトイからサマルカンドやアクタウまで一気に進んでしまうのも楽そうでしたが、あいにく都合のいいチケットがありません。相談した結果、タシケント行きを購入することにしました。明日の朝8時にアルマトイⅠ駅を出発し、翌朝7時にタシケントへ到着します。
アルマトイⅠ駅は、今いるアルマトイⅡ駅からは少し離れていること、そして出発の30分前には駅に着いたほうがいいことなど、必要な情報はすべてバルが丁寧に教えてくれました。とても頼りになる存在で、最後に連絡先を交換しました。
切符を買い終えると、気持ちがふっと軽くなりました。
日本人抑留者墓地
アルマトイで最も行きたかった場所、日本人抑留者墓地へ向かいます。
終戦後、ソ連に抑留され亡くなった日本人のための墓地です。ここで手を合わせることが、シルクロードの旅の目的のひとつでした。(この後のウズベキスタンでも日本人墓地を訪れます)

アルマトイⅡ駅から141番のバスに乗り、大通り(Rayimbek Ave)を西へ進みました。運転手に行き先を書いたメモを見せると、意図を理解してくれたようで、降りる場所の少し手前で教えてくれます。バスを降り、少し歩くと墓苑の入口が見つかりました。

門をくぐると、管理人らしき人がいて、「ヤポン」と一言告げると、日本人墓地の方向を指さしてくれました。墓苑の奥にあるようです。
地元住民の墓を見ながら、ぬかるんだ道を進んでいきます。15分ほどで目的の場所に到着。少し背筋が伸びました。
生い茂る木々の中に、墓石が整然と並ぶ一角があります。腰ほどの高さの柵に囲まれた、かなり広い区画でした。縦2メートル、横1メートルほどの墓石が等間隔に並んでいます。ひとつの墓石に6人が眠っていると聞きます。単純に数えるだけでも、200人以上が埋葬されている計算になります。
墓石の周囲では、カザフ人らしき男性が草刈りをしていました。柵の外には祈念碑があり、そこには次のように刻まれていました。
第二次世界大戦後に当地で亡くなられた日本人抑留者の英霊を悼むとともに
墓地改修を支援頂いたアルマトイ市民並びに
本墓地を守っていただいたカザフスタンの方々に感謝いたします
2011年11月18日
この場所が、今もカザフスタンの人々によって守られていることに、ただただ感謝。しばらく立ち止まり、静かに手を合わせました。祖国への帰還を望みながら無念にもこのカザフスタンで亡くなられた方々に、心より哀悼の意を捧げました。私が今、こうして気楽にアルマトイを旅行できていることは、そういった歴史の積み重ねの上にあるのだと思いました。
なんとなく、墓で写真を撮るのは気が引けて、最後までカメラを出すことはありませんでした。
サウナ後のコーラは至高
旅の疲れを癒やしにサウナへ行ってみることにしました。

アルマトイで最大規模のスパ施設
Arasan Wellness & SPAという名前で、アルマトイで最大規模のスパ施設です。巨大な建物の中にあり、料金は1時間1,800テンゲ、2時間で3,100テンゲ。マッサージは9,000テンゲで、スリッパとタオルは150テンゲで借りられました。
受付を済ませて中に入ると、広いロッカールームがあります。着替えて奥へ進むと、いくつものサウナに水風呂、プール、マッサージ室が並んでいました。いわゆる浴槽はなく、純粋なサウナ施設です。とにかく広い。体格のいいカザフスタン人たちが大勢いました。

サウナは3種類。高温で扉を開けただけで熱風が体を切り裂くロシア式、室内がスチームで充満しているトルコ式、そしてフィンランド式です。中でもロシア式は桁違いに熱く、私は5分も耐えられませんでしたが、カザフの人たちはその中で体を動かしたり、オークの葉でできた団扇(ヴィヒタ)で体を叩き合ったりしています。うなり声があちこちから聞こえ、見ているだけで圧倒されました。サウナの中には、ヴィヒタで体を叩く役割のスタッフもいて、よくこの熱気に耐えられるものだと感心します。
ロシア式サウナを出て、桶に溜められた冷水で体を流すと、一気に頭がスッキリしました。円形のプールはドーム状の高い屋根に覆われていて、水深は2メートルほどありそうです。勢いよく飛び込む勇気はなく、そっと身を沈めました。サウナと冷水、プールを何度か繰り返すうちに、国境越えからずっと張っていた肩と背中が、はっきりと楽になっていくのが分かります。これなら、明日の列車移動もたぶん大丈夫です。

サウナを出たあとは、併設されたバーでコーラを頼みました。火照った体に流し込む冷たいコーラほど美味しいものはない。アルマトイでの一日を、これ以上ない形で締めくくれた気がしました。
同じ食堂へ3日連続で行く効用
この日も、3日連続でASHANA SOFRAへ向かいました。店に入ると、いつものレジの女性がいて、相変わらず笑顔が印象的でした。こうして顔を覚えられるだけで、店に入るときの緊張がすっと消えます。
支払いの際には、クレジットカードの暗証番号を入力する必要があります。決済端末が客の手の届かない位置にあるため、これまでは彼女が電卓を差し出し、そこに私が番号を入力して伝えていました。3回目ともなると、どうやら私のカードの暗証番号を覚えてしまったようで、少し得意そうな表情をしています。セキュリティはガバガバです。ありがたいような、少し複雑な気持ちにもなりました。
記念に一枚、写真も撮らせてもらいました。同じ店に3日も通うと、店の人との距離がぐっと縮まり、「この街に受け入れられている感覚」さえあります。

美味しい上に店員さんとも顔見知りになれた
この日の夕食は、ハンバーグとピラフ、ジャガイモとニンジン、肉の入ったスープに、食後のコーヒー。どれも美味しかったです。けど、やっぱり味付けはちょっと濃い。それでも3日間通って、飽きることなく食事を楽しめたのは、素直に幸せなことでした。
次回:タシケントへの国境越え鉄道の旅!
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