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【吹奏楽曲解説】ターニング(ジョン・マッキー)

今回の吹奏楽曲解説は『ターニング』を紹介をします。

マッキー作品の中では割と初期(2007年)に作曲された作品で、演奏頻度も知名度も低い作品ですが後に作曲された『フローズン・カテドラル』(2013年)や『吹奏楽のための交響曲「ワインダーク・シー」』(2014年)のような響きを狙った面白い作品です。

■参考音源

リチャード・クラリー(Richard Clary)指揮、フロリダ州立大学ウインド・オーケストラ(Florida State University Wind Orchestra)による演奏。

■作品について

作品解説・作品の基本情報

作品の基本情報は以下の通りです。

原題:Turning
邦題:ターニング
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約9分
難易度:とても難しい(Difficulty - Really Hard)
出版:Osti Music
作曲年:2007年
委嘱:ジョシュ・トンプソンが中心となって結成された複数の団体による共同委嘱
初演:ジョシュ・トンプソン指揮/セント・チャールズ・イースト高校、レイク・チューリッヒ高校の合同バンドにより2007年2月27日初演

マッキーによる吹奏楽作品で難易度が「とても難しい(Really Hard)」なのは『タービン』に続いて2作品目です。

マッキーによる作品解説は以下の通りです。

(原文:ジョン・マッキー公式ホームページより引用)
“Turning” was commissioned by a consortium led by my high school friend, Josh Thompson, who is now a high school band director in the Chicago area. The overriding idea when writing the piece was to convey “strong” beauty as well as loss, rather than traditional “pretty” lyricism.
I chose the title “Turning” for this piece because the word can mean any number of things, all of which might be heard in the piece itself. It could refer to the turning of a massive, prehistoric planet, as the first signs of life begin to bubble up from cracks in the ground. It could refer to the turning of leaves in the fall, a beautiful – but melancholy – thing to see. Or, in the piece’s darkest moments, the title could refer to the turning of a knife into one’s chest.
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(日本語訳)
《Turning》は、シカゴ周辺で高校のバンドディレクターを務めている、私の高校時代の友人ジョシュ・トンプソンが中心となって結成されたコンソーシアムの委嘱によって作曲された作品である。この曲を書くにあたっての根本的な発想は、伝統的な「美しく整った」叙情性ではなく、「強さ」を伴った美しさ、そして喪失感を表現することだった。

この作品に《Turning》というタイトルを付けたのは、この言葉がさまざまな意味を持ち、それらすべてが楽曲の中に聴き取れると考えたからである。例えば、巨大で太古の惑星が回転し、大地の割れ目から最初の生命の兆しが立ち上ってくる、その「回転」を指すとも解釈できる。あるいは、秋に葉が色づき、変わっていく様子――美しくもあり、同時に物悲しさを伴う光景――を意味するとも取れる。さらに、この曲の最も暗い瞬間においては、胸に突き立てられた刃が「ねじ込まれる」動作を指しているとも解釈できる。

上記はジョン・マッキー公式ホームページの『ターニング』の楽曲解説から引用していますが、やや抽象的な解説ですね。

マッキーによる以下のブログの中にも『ターニング』のアイデアのもとになった要素について触れられていたので合わせて紹介します。

The original ideas for “Turning” came from two sources: 1) a new sample library I purchased that contained an instrument called a “Waterphone,” and 2) the beautiful brass chorale by Bjork that opens the film “Dancer in the Dark.”  Waterphone = creepy.  Bjork (really, any Bjork) = beautiful, haunting, and… well, creepy.  So my first thought was, why not combine waterphone and Bjork, resulting in music that sounds almost like the score for a horror film?
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Turning の原初のアイデアは 2 つの素材から来た。
1. 購入した新しいサンプルライブラリーに含まれていた楽器「Waterphone」
2. 映画 Dancer in the Dark の冒頭にあるビョークの美しい金管コラール

Waterphone は不気味な音がする楽器で、ビョークの響きも「美しく、記憶に残り、しかし不気味」だ。そこで私は、Waterphone と ビョーク的なサウンドを組み合わせれば、まるでホラー映画のサウンドトラックのような音楽になるのではないかと思った。

ジョン・マッキーのブログ
『August 25, 2010 Turning — revisited』より引用

マッキーは作曲当初からパソコンの作曲ソフトを使用しているので、ここで触れられている「購入した新しいサンプルライブラリー」とは作曲ソフトのサンプル音源のことでしょう。

「映画 Dancer in the Dark の冒頭にあるビョークの美しい金管コラール」はアイスランド人のミュージシャンであるビョークが作曲した映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のオープニングで流れる「序曲」のことですね。

一聴すると綺麗な音楽なのですが、この映画、「鬱映画」「胸糞映画」などと評される作品で冒頭の低音楽器の持続音がどこかほの暗いストーリーを暗示させるような音楽です。

つまり「パソコンの作曲ソフトの中に珍しい楽器があったから、美しく不気味な雰囲気の音楽と組み合わせたら良い感じの曲が出来るのでは?」という発想から出来上がった楽曲という訳です。

マッキーの探究心というか好奇心が溢れるエピソードで中々面白いですよね。笑

マッキーの吹奏楽作品の楽曲はこれまでは『サスパリラ』『タービン』『翡翠』などビート感の強烈な作品が多かったのですが、探究心・好奇心から生まれたこの楽曲は今までに無かった新しい雰囲気の楽曲となりました。


楽器編成

楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

ジョン・マッキー公式ホームページより引用

委嘱元の団体の編成に合わせてなのか、特に木管楽器の編成が大きめです。

フルート属がピッコロ+フルート4本(※)で5管編成なのは珍しいです。クラリネットもE♭1、B♭4、Bass2、contrabass1と中々見ない大編成。
※なお、スコア冒頭の楽器編成には書かれていませんが、曲の終盤でフルート1,2番はしれっとアルト・フルート持ち替えの指示があります。

そして打楽器で目を惹くのは先ほどから触れられている「ウォーターフォン」。安価で入手出来る「オーシャン・ハープ」での代用も可能の読み取れる注釈も記載されています。

音を聴くと「ああ、これか!」となる楽器ですが、吹奏楽曲の中で使用されるのは(少なくともこの曲が作曲された時点では)かなり珍しかったのではないでしょうか。

マッキーはその後『フローズン・カテドラル』でもこの楽器を印象的に使用しています。

楽曲構成

曲は2分音符=48というかなり遅いテンポでスタートします。曲中で何度か微妙にテンポが変わるものの、冒頭を除くと2分音符=34~39という狭い範囲でのテンポ変化で全体を通して「スローピース」的な作品と言えるでしょう。

一般的にスローピースの作品はコラール的な曲調で演奏の易しい曲が多いと思います(実際、マッキー自身もこの曲を作るまでは「テンポが遅い音楽=易しい音楽」と考えていたそうです)が、この作品はそうではありません。

まず、冒頭1-2小節目からいきなりトロンボーンに極端な音域と極端な音量が要求されます。(フォルテ4つで1st・2ndはハイB♭、3rd・BassはハイHまで駆け上がるグリッサンド)

トロンボーンに要求される極端な音量・高音域のgliss.
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

私もトロンボーン吹きなので分かりますが、この音域を曲の1音目に無伴奏で要求してくるのはかなり酷ですね…😇笑
グリッサンドで狙いやすく書いてくれているとはいえ、音が上がりきらなかったら終わりなので誤魔化しが利かない楽譜かと思います。

トロンボーンの呼びかけとそれに呼応する金管楽器の強烈なクレッシェンドの音型が何回か続くと、ウォーターフォンの音が聴こえてきます。

ウォーターフォン以外の楽器はフルートと時折クラリネットが小さな音で薄ーく不響和音を重ねる程度なので、テンポも調も旋律も無い現代音楽的な響きがしばらく続きます。

冒頭から1分半ほど経ったあたりでようやくフルートが旋律のようなものを演奏し始めますが、それもすぐに冒頭のトロンボーンのグリッサンドの音型でかき消されてしまいます。(ここのトロンボーンもハイC、ハイH、ハイB♭でぶつけるという演奏者目線でかなり嫌な楽譜です…笑)

フルートが奏でた音型は徐々に他の木管楽器に波紋のように広がっていきますが、未だにテンポ感はなく調も掴めないような雰囲気が続きます。

冒頭から3分弱ほど経ったあたりでようやくソプラノサックスが音楽に推進力を与えてくれます。その後tutti(全奏)で中間部の山場となりますが、それも長くは続かずディミヌエンドで収まっていきます。

冒頭から5分ほど経ったあたりで木管楽器はピアノ4つというこれまた極端な音量で気の遠くなるようなロングトーンが奏でられます。(楽譜通りに吹こうとすると1分弱のロングトーンになるので適宜周りと合わないように息継ぎをするよう指示があります。)

木管楽器の1分弱のロングトーン。
狭い範囲で音が密集しています。
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

このロングトーンがまだ狭い音域で重なっているので不響和音が凄まじいですね。後の代表作『ワインダーク・シー』での不響和音を彷彿とさせます。

曲はその後徐々に盛り上がっていき、冒頭のトロンボーンによるグリッサンド、前半部でソプラノサックスによって演奏された音型の再現(ホルン)、中間部のtutti(全奏)での盛り上がりの再現などが入り乱れカオスな雰囲気で終盤に差し掛かります。

曲の終盤ではアルトフルートの伸ばしの上にクラリネットが薄く音を重ねます。曲の前半部の再現となり、ここでも印象的なのはやはりウォーターフォンの響きです。
ウォーターフォンは最後まで響きを残すように指示があり、なんとも言えない不気味な雰囲気で曲が閉じられます。

■収録CD

このnoteを執筆している時点では『ターニング』を収録したCDはリリースされていないかと思います。

YouTubeで検索をすると冒頭に参考音源として紹介したフロリダ州立大学ウインド・オーケストラの演奏の他にいくつか海外の演奏団体の音源が出てきます。

日本での演奏情報は探しても見つからなかったので、作曲から20年近く経つマッキーの日本未初演作品ということになるのでしょうか…?
(数多くのマッキー作品を日本初演しているJWECCでも取り上げていません。)

日本での演奏情報をお持ちの方はぜひコメントください🙏

■最後に

ピアノ4つからフォルテ4つまでの極端なダイナミクス、トロンボーンを中心とした金管楽器に要求される極端な音域、そして楽曲全体を支配する暗く不協和な雰囲気という正直言って取っ付きにくい作品だとは思います。

しかし、ウォーターフォンの使い方は後に作曲される『フローズン・カテドラル』を想起させ、曲中の不響和音の重ね方は『ワインダーク・シー』を彷彿とさせるなど、後のヒット作の要素が垣間見えるので聴いている分には色々と発見があり面白い作品かと思います。

また、この作品をマッキーの要求通りに演奏出来たとしたら「美しさと恐ろしさ、不安感が同時に存在する音楽」になるのではないかと感じます。

大人の実力のあるバンドでしっかりと演奏したら、聴いていてぞっとするような作品になるのではないでしょうか。プログラミングが難しい楽曲ですが、腕利きのバンドの皆さんぜひ挑戦してみては…!


その他、ジョン・マッキー作品の解説noteは以下からどうぞ。

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