【吹奏楽曲解説】サスパリラ(J.マッキー)
今回はジョン・マッキー初の吹奏楽オリジナル作品の『サスパリラ』を紹介をしようと思います!
マッキー作品を私のnoteで取り上げるのは『ワインダーク・シー』『アンダートウ』『付喪神』『レッドライン・タンゴ』に続いて5作品目です。
■参考音源
ドナルド・E・スコフィールド・ジュニア(Donald E. Schofield, Jr.)指揮/アメリカ空軍中部アメリカ音楽隊(United States Air Force Band of Mid-America)による演奏
■作品について
原題:Sasparilla
邦題:サスパリラ
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約8分30秒
難易度:難しい(Difficulty - Hard)
出版:Osti Music
作曲年:2005年
委嘱:ラマー大学のスコット・ワイズが主催するカリフォルニア州立大学スタニスラウス校など合計7つの大学によるコンソーシアム(合同委嘱)
初演:スコット・ワイズ指揮/ラマー大学吹奏楽団(Lamar University Wind Ensemble,Scott Weiss)により2005 年4月17 日初演
楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

『レッドライン・タンゴ』と比べると楽器編成はソプラノ・サクソフォンが減らされ、代わりにコントラバス・クラリネットが追加、Tubaが2パートに分割ということで低音域が拡充されたことが特徴的です。
楽器編成で最も目を惹くのはアコーディオンが使用されている点でしょうか。オプション楽器扱いでアコーディオンが無い場合はスコア上ミュート付きのトランペットで代用と記載されていますが、楽曲の雰囲気を出すためにもアコーディオンを使用したいところですね。
自身が作曲した管弦楽版『レッドライン・タンゴ』を2004年に吹奏楽版に編曲し、それが大ヒットしたことで一躍有名になったジョン・マッキー。
「もっとマッキーの吹奏楽作品を聴いてみたい!」と思った聴衆や吹奏楽関係者が多かったようで、吹奏楽版『レッドライン・タンゴ』を作曲した翌年にアメリカのラマー大学などで吹奏楽団の指揮を振るスコット・ワイズが主体となって7つの大学によるコンソーシアムでマッキーに吹奏楽作品を委嘱することとなります。
委嘱側からマッキーに対して、"new for band"(「バンド向けに新しいもの」を書くこと)という要望があったようで、マッキーはこれを受けて「コンサートバンドだけが作り出すことができる素晴らしいサウンドを活かしたものを書く」という目標を持って作曲に取り組みました。
その結果生まれた作品が今回紹介する『サスパリラ』です。
サスパリラとは?
「サスパリラ」とはアメリカ西部開拓時代の酒場で飲まれていたリキュール酒の一種で、現在ではルートビアというノンアルコールの炭酸飲料のことを指すそうです。

ルートビアという炭酸飲料、アメリカではメジャーな飲み物だそうですが皆さんは飲んだことはありますか?
ルート(Root)="根っこ"の意味する通り、様々な植物の根っこの糖分を用いて醸造した飲み物のようです。
植物の根っこを用いているからか、どうも薬草寄りのクセの強い味がしてしまうようでネットで検索をかけると「飲むサロンパス」「ドクターペッパーに歯磨き粉を混ぜた味」というような散々な感想が次々と出てきます。笑
沖縄では上記で紹介した「A&Wルートビア」も比較的手に入りやすく、ファストフード店などでも提供されているようなので、気になる方はぜひ沖縄で飲んでみてください。
なお、ルートビアの原料となる植物の一種に"サルサパリラ(sarsaparilla)"という植物があります。
サルサパリラには"sarsparilla"と"sasparilla"という2つの俗語(スラング)がありますが、マッキーはこのスラングをもとに『サスパリラ』という曲名を名付けました。
後者のスペリングを選んだのは「印刷したときに見た目が良かったから」という理由からだそうです。笑

(Wikipediaより引用)
ルートビアについては上記の通り現在でも飲むことは出来ますが、"アメリカ西部開拓時代の酒場で飲まれていたリキュール酒"については今となっては飲むことは出来ないので、どんな味かは分かりません。
当時の酒場で出されていたお酒は「カラメル、噛みタバコ、純アルコールを原料とした自家製ウイスキー」「ウイスキーをアンモニア、火薬などを混ぜて薄めたニセ酒」「常温保存のビール」が中心であったことを考えると、あまり良い酒ではなく所謂"安酒"といったものかと思います。
楽曲構成
楽曲はアメリカ民謡「Red River Valley(赤い河の谷間)」を思わせるアコーディオン(もしくはミュート付きトランペット)のソロで始まります。
「Red River Valley(赤い河の谷間)」の民謡は東京ディズニーランドのウエスタンランドのBGMでも用いられているので、この部分を聴いた時にディズニー感を感じる方も多いのでは無いでしょうか?

(東京ディズニーリゾート公式ホームページより引用)
アコーディオンの伴奏でトロンボーン、ユーフォニアム、テューバなどが嬰ヘ長調(Fis-dur)やロ長調(H-dur)といったシャープ系の調でハーモニーを奏でているのも良い味を出しています。
アコーディオンソロによる9小節間の前奏が終わるとテンポを上げて疾走感のある音楽になります。
この部分は基本的に4/4拍子で時折3/4拍子や5/4拍子が入ってくる程度で、
近年人気のマッキー作品や、マッキーのデビュー作『レッドライン・タンゴ』のように拍子が頻繁に変わることはありません。アコーディオン(トランペット)→クラリネット→アルト・サクソフォン→ホルンとソロが受け継がれながらドタバタ感のある音楽が続きます。
冒頭から3分くらい経つとドタバタ音楽がスピードを落とし、ファゴットによる伴奏に導かれゆったりとした音楽に雰囲気が変わります。
カウボーイの乗った馬が疲れた様子でゆったりと歩いている様子を表しているのか、それともほろ酔い気分のカウボーイを表しているのか分かりませんが、いずれにせよ少し力が抜けるような音楽が演奏される場面です。
ここで再びアコーディオンによる長いソロが演奏されます。(アコーディオンが無い場合はクラリネットで演奏されます)
音楽が盛り上がってくるとドラムセットも加わりテナー・サクソフォンによる(楽譜には「ハードブルースで」との指示がある)洒落たソロが演奏されます。
この辺りは西部開拓時代のアメリカの酒場「ウエスタン・サルーン」でカウボーイ達がお酒を飲みながら談笑しているようなシーンですね。
サルーンの雰囲気を出すために、ここで演奏されるピアノも"音程が外れた(調律がされていない)サルーン風のピアノ"で演奏するような指示がスコア冒頭にあります。

(Wikipediaより引用)
楽しい雰囲気の音楽は長く続かず、音楽が落ち着くとlumbering(足取りが重い、動きが鈍い)と指示のあるコントラバス・クラリネットのソロが演奏されます。あまり聴くことのないコントラバス・クラリネットによる最低音域のソロで非常に印象的な部分です。
サルーンで出される安酒を沢山飲んで頭痛を伴う二日酔いになったのでしょうか。
酷い二日酔いを経験したことがある大人ならこの辺りの音楽表現、非常に共感できる部分かと思います。笑
コントラバス・クラリネットのソロが終わると徐々に音楽がスピードを上げて楽曲前半のドタバタ感のある音楽に戻ります。
クライマックスに向け音楽は加速し、ドタバタ感満載のまま勢いを持って曲が閉じられます。
この辺りは迎え酒をして足取りが軽くなったカウボーイの陽気な1日が再び始まるような楽しい印象です。
9分弱でドタバタ劇が展開されていく様子は、昔ながらのアメリカアニメ『トムとジェリー』を見ているような気分にさせられます。

■収録CD
CDは何種類か発売されていますが、楽譜通りアコーディオンを使っているか他の楽器で代用しているかで楽曲の印象が大きく異なります。
ドナルド・E・スコフィールド・ジュニア指揮/アメリカ空軍中部アメリカ音楽隊 『To the Edge of Spase』
冒頭の参考音源で挙げた演奏が収録されたCDです。
楽譜通りにアコーディオンが使用されている演奏でマッキーの表現しようとした楽曲の雰囲気が一番掴める演奏かと思います。
冒頭で紹介したYouTubeの他、以下のAppleMusicでも演奏を聴くことができます。
渡邊一正指揮/東京佼成ウインドオーケストラ
トレジャー・ボックスVol. 1『舞楽』[KOCD-7001]
TKWOの団員による自主企画盤である「トレジャー・ボックス」シリーズの第1弾CD。現在廃盤ではあるものの、流通量は多いためフリマサイトなどで安価で比較的容易に入手出来るCDかと思います。
アコーディオンは使用せず、スコアに記載の代替楽器での演奏です。
演奏自体はUS Air Force Bandよりもクオリティが高いので、楽譜通りの楽器を使用した演奏を聴きたいならUS Air Force Band、楽譜通りで無くともレベルの高い演奏を聴きたいならTKWOといった具合に目的に合わせて聞き分けられるかと思います。
「トレジャー・ボックス」シリーズは上記のvol.1で終了してしまいましたが、選曲良し・演奏良しなだけに続いてほしかったシリーズです…。
以下のAppleMusicでも演奏を聴くことができます。
ユージン・コーポロン指揮/ノース・テキサス・ウインド・シンフォニー
『DISCOVERIES』[CD-1005]
新レパートリーの録音を積極的に行うユージン・コーポロン/ノース・テキサス・ウインド・シンフォニーのコンビニよる録音。
TKWOと同じくアコーディオンは使用せず、スコアに記載の代替楽器での演奏です。
以下のYouTube他、AppleMusicでも演奏を聴くことができます。
なお、同指揮者・演奏団体で別のCD(『John Mackey - Composer's Collection』という2枚組のマッキー作品集のCD)もありますが、演奏は同じもののためカップリングの曲の好みでどちらのCDを聴くか選ぶのが良いです。
■最後に
今回はジョン・マッキー初の吹奏楽オリジナル作品の『サスパリラ』を紹介しました。
マッキー作品を演奏会で取り上げている団体は多いですが、『ワインダーク・シー』のような大曲や、聴いている側も緊張するような高難度のシリアスな楽曲を取り上げていることが多く、この楽曲はあまり演奏されないイメージです。
演奏者も聴衆も楽しめるような『サスパリラ』のような1曲を、箸休めのような位置づけでプログラムに取り入れてみるのも面白いかと思います。
アコーディオンをどう手配するかが肝になりますが、アコーディオン無しでも曲が成り立つよう考慮されていますので、演奏会などでもっと演奏されてほしい1曲です!
他のジョン・マッキー作品の楽曲解説は以下のまとめからどうぞ。
