【吹奏楽曲解説】タービン(J.マッキー)
今回はジョン・マッキーの初期の吹奏楽オリジナル作品である『タービン』を紹介をします!
マッキー作品を私のnoteで取り上げるのは『ワインダーク・シー』『アンダートウ』『付喪神』『レッドライン・タンゴ』『サスパリラ』に続いて6作品目です。
■参考音源
久保田 善則指揮/大阪大学吹奏楽団による演奏(2015年12月27日 大阪大学吹奏楽団第45回定期演奏会より)
■作品について
作品解説・作品の基本情報
私は飛行機に乗るのが苦手です。この曲を書くことで、私なりに苦手意識を克服したかったのです。
冒頭の3分間は、荒々しくて、ズキズキするような緊迫感があります。飛行機のジェット・エンジンがスピードを増していき、そのまま滑走路を走りぬけるイメージを、テンポではなく曲の構造(和声と旋律)で表しています。
飛行機が離陸する場面になると、音楽が変わります。そこで私達は、飛行機に乗るのもそんなに悪くはないなと気付くのです。実際、飛行機から見る空の風景は美しいものです。しかしいつも脳裏には、自分がとても高い場所を飛んでいて、自分たちの命や飛行機から見える風景は、巨大な鉄の機械にゆだねられているのだと認識しています。
もしもその機械(曲中ではパーカッションで表現されている)が落ちてしまったら、乗客はみんな大変なことになってしまいます。だから私は肘掛をかたく握り締め、窓の外の雲をみつめ、楽しいことを考えるようにして、エンジン音が止まらないように祈るのです。
原題:Turbine
邦題:タービン
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約8分30秒
難易度:とても難しい(Difficulty - Really hard)
出版:Osti Music
作曲年:2006年
委嘱:SCBDA(The Southeastern Conference Band Directors Association)による委嘱
初演:J.C.バードウェル指揮/ケンタッキー大学ウインドアンサンブル(University of Kentucky Wind Ensemble,J. Cody Birdwell)により2006 年2月24 日初演
楽器編成
楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

楽器編成で特徴的なのは大量の打楽器。なんと演奏者は8名必要です。
スコアの最初のページを確認すると、打楽器に関しては以下のようなマッキーの細かい指示があります。
ブレーキドラムは異なるサイズで用意する。(耳をつんざくような大きな金属製の物体で置き換えることも可能)
この曲はタムタム(銅羅)を何度も擦る。擦る道具は通常はトライアングルのビーターですが、汚いほど良いので代用品を使うことを推奨します。(釘、スプレー缶のキャップの底など、大きなものを考えます。音が奇妙でグロテスクであればあるほど良いです。)
大型のチャイナシンバルは音がすぐに減衰する安っぽいシンバル、またはゴミ箱のフタで代用しても構わない。
上記の細かい指示からも楽曲の中で終始印象的な打楽器のサウンドに関するマッキーのこだわりが感じられます。
初期のマッキー作品の最高難易度作品
マッキー氏自身のホームページ上、作品の難易度は4段階に分かれています。(Easy,Medium,Hard,Really hard)
難易度別にマッキーの人気作を並べると以下のようになります。
Easy:『シェルタリング・スカイ』など
Medium:『付喪神』など
Hard:『レッドライン・タンゴ』『翡翠』『アスファルト・カクテル』『オーロラの目覚め』など
Really hard:『フローズン・カテドラル』『ワインダーク・シー』など
本作品より前に作曲されたマッキーの吹奏楽曲である『レッドライン・タンゴ』『サスパリラ』はいずれも難易度"Hard"なので、マッキーが初めて最高難易度"Really hard"に設定した作品が今回紹介する『タービン』です。
この曲のどんな部分が楽曲の難易度を高いものにしているのか、1つずつ紐解いていきます。
①快速テンポで入り乱れる複数の拍子
マッキーのデビュー作とも言える『レッドライン・タンゴ』でも見られた複数の拍子が入り乱れる楽譜はこの作品でも健在です。
楽曲のテンポは四分音符=184という快速テンポなので目で楽譜を追いかけるだけでも大変ですが、この楽譜の大部分を占めるのは「5/8+2/4拍子」という結合拍子です。
このテンポで結合拍子含む複数の拍子が頻繁に入れ替わるのは慣れるまで非常に大変ですね…。しかも時折2連符(8分音符)〜5連符まで同時に演奏される箇所までありカオスです。

このテンポで独特の拍子感に慣れるのが大変そうです。
②仕事量の多い打楽器セクション
楽器編成の部分でも触れましたが、この楽曲は打楽器奏者が最低8人という編成です。
1人あたり2〜6種類の打楽器を使いますが、全体的に打楽器セクションは叩きっぱなしの楽譜になっています。
楽曲自体分かりやすい旋律があるというよりはリズムパターンを繰り返しながら発展していくような、どこかミニマル・ミュージックを彷彿とさせるような作りになっていますので、リズムを刻み続ける打楽器セクションの負担は中々なものです。

③スタミナ勝負な金管セクションのスコアリング
金管セクションは楽曲終盤がスタミナ勝負な楽譜になっています。
ラスト1分間は高音域かつ息の長いフレーズを要求され、持久力が試される譜面です。
そして1st以外のパートにも高音域が求められているので、トップだけ高い音が出れば良いわけではないというのがまた難しいところですね…。
金管セクション全体として高いレベルが要求されるような譜面です。

Trp1st,2nd・Trb1st,2ndにいずれもHigh Hの音が要求されています。

ホルンパートにチャイコフスキーの楽譜のような音量(ffff)で
ショスタコーヴィチのような音域(High D)が書かれています。笑
■収録CD
『タービン』をノーカットで収録しているCDをオススメ順に紹介します。CDがAppleMusicで配信されている場合はAppleMusicのリンクも紹介します。
クリスティーナ・ムーア・ウルティア指揮/アメリカ空軍西部音楽隊
『Turbine』
クリスティーナ・ムーア・ウルティア(Christina Moore Urrutia)指揮のアメリカ空軍西部音楽隊(The United States Air Force Band of the West)による演奏です。
今回紹介する音源の中では最も快速なテンポの演奏で、それでいて何処か余裕すら感じさせるような安定した演奏です。この作品の音源として自信を持ってオススメ出来る1枚です。
児玉知郎指揮/龍谷大学吹奏楽部
『交響詩「ローマの祭り」』
2023年に行われた龍谷大学吹奏楽部の第50回定期演奏会のライブ録音です。
先に紹介したアメリカ空軍西部音楽隊の音源と比べると、やや控えめのテンポですがこちらも安定感は抜群。金管楽器もパワフルで素晴らしいです。
フィリップ・スパーク『ドラゴンの年(2017年)』、高昌帥『Euphonium Concerto』などの大曲も収録されているので、選曲に惹かれた方はこちらのCDもオススメです。
デイヴィッド・ウェイブライト指揮/フロリダ大学ウィンド・シンフォニー
『Stravinsky & Friends』
デイヴィッド・ウェイブライト(David Waybright)指揮、フロリダ大学ウィンド・シンフォニーによる演奏です。
龍谷大学と同じくテンポはやや控えめ。やや打楽器が大きめに聴こえるかもしれません。
■最後に
今回はジョン・マッキー初期の高難度吹奏楽オリジナル作品の『タービン』を紹介しました。
同じ雰囲気のマッキー作品では『アスファルト・カクテル』の方が圧倒的に人気ですが、こちらの楽曲も中々面白いと思います。
変拍子が得意で大量の打楽器が手配出来て金管がパワフルなバンドはぜひこちらの楽曲にチャレンジしてみてください。笑
他のジョン・マッキー作品の楽曲解説は以下のまとめからどうぞ。
