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爪がやばくなった【がん治療日記13】

抗がん剤は皮膚もよわよわにする

がんというやつは燃費が悪い上に、まったく何も役に立たない細胞を増やしてくる。
しかし、いらない細胞な割には、排除するには増えすぎていて放っておくと命が脅かされたりする。最悪だ。


アンガーマネジメント上手

後輩に
「かげさんって怒ったりしないですよね。」
とよく言われる。

たしかにあんまりキレたことがない。

教育、患者対応……働いていると

「オイッ!!!!」
と思う場面はあるけれど、

表出するまでに至らないことが多い。

“目の前にいるこの人は
そういう、相手をキレさせる言動や行動を
するのは、それにいたる背景(思考や行動原理)”

があるんだな、
しゃあねぇヤツな〜。

と怒りの感情が出る前に
冷めた思考が降ってきて落ち着いてしまう。

「怒らない」

自分の数少ない長所の一つかもしれない。

アンガーマネジメント、今度転職でもするときはこの言葉で推していこう。

がんを駆逐することに忙しいので
転職する予定はないけれど。

……そういうわけで

他人を怒らない自分だけど、
がんにはもうずっとキレている。

がんに対して

「しゃあねぇな」
とは決してならない。


がん、コイツには生涯に渡り
罵詈雑言を投げてもいいと考えている。

がん、この世で一番強い言葉で拒絶することが許されている存在だと思っている。



爪がへんになってきた

抗がん剤を初めて
何クールかこなしてきたところで、
ふと気づいた。


爪に縦に筋が入って
肥厚…分厚くなってきた。

それまでは吐き気だとか体のだるさで、
最低限の風呂だとかの身だしなみや清潔を整えることに精一杯だったのだ。

気づけば
おばあちゃんの手に一気に近づいてしまったと
衝撃を感じながら、縦縞になった爪をガリガリ横に引っ掻いてみたりするがどうにもならない。

そういえば認定看護師さんに「◯月◯日頃から……爪が割れてくるからそういう時はネイルで補強して…病棟勤務だとし辛いと思うから透明なものを使ったり、上司に伝えたりできるからね」
と言われたのを思い出した。

看護師なのでもちろん爪にガタがくることは知っていたが患者の症状がいつから出るかなんて人それぞれだ。なのに、なぜあの人は分かるのだろうか。何故断言するのか。

次会ったら聞いてみよう。


そして地動説を信じる者になった


その日は
ただ家の中で
歩いていただけだった。

抗がん剤を絶賛投与中の私は
嘔気.倦怠感.疼痛…
体調は相変わらずずうっと悪く

トカゲのようにヌルヌルと
這いつくばりながらトイレまで向かっていた。

こんなんで明日の看護師の仕事はできるのか
休むべきなのか
考えながら
家の中でトイレに向かって歩いていたら

『ペキョ…』

と足の親指に

不快感と

感じたことのない
痛みが走った。

「グァァ…!」
と絶叫して
その声を聞いて家族が
『どうしたの?!』とかけつけてきた。

痛すぎて声も出せずうずくまり、
家族の声に返事もできなかった。

お腹がいたいのか気持ち悪いのか
家族が心配するなか
頑張って状況を伝えようとする


まっ

まって……

「…爪が……
地動説信じた人みたいになっちゃった………」


※BGMにして読み続けてください。いい曲です。


そう、
ちょうど「チ。」の漫画を
読み返していたのだ。


最悪すぎる。

地動説を信じてるのはそうなのだが
拷問される前に
爪が剥がれた。

セルフ拷問かましてしまっている。
最悪だ。

いや普通にこれ
爪が一枚剥がれるだけで

だいぶ痛いのに何枚も剥がされるなんて
狂気の沙汰じゃない。息がつまる。

痛すぎて手で咄嗟に押さえた爪を
おそるおそる見た。

とれてはない。
でも、
ズレてる。

爪というレイヤーを選択して
30度くらい右に回転させた感じになっている。

おいおい
爪レイヤーは身体レイヤーに固定させておけ。

ちなみに血は付着程度だ。

爪レイヤーとか身体レイヤーだかの挿絵
こうなったのもがんのせいです許さん


あまりの痛さに蹲りながら

チ。の登場人物のラファウ君に想いを馳せる。

こんな苦痛を受けてまで信じる
地動説とは……

※【重要】ラファウ君は爪を剥がされてはいませんが、痛すぎてその他の人物に想いを馳せることができませんでした。すみませんがラファウ君が爪剥がされたテイで話が進みます。

ごめんなさい


剥がれてズレた爪をとりあえず圧迫したいのだが

なんせ爪がズレているので

「これは外した方がいいのか?」とズレた爪を浮かせたら、なんと微妙にくっついているのと同時に激痛が走った。

待っ…まじでいたい
痛みには割と強いですと自称してきたのだが爪の前ではなす術がない。

よわよわのよわです。
痛すぎて泣いてる。
この少しの爪と肉体の接続部にはこんなにも痛点が集中しているのか。

今すぐリドカインをこの指の周囲にプスプス刺して注入してほしい。

でももう爪を持ち上げてしまい
外すことはできそうちないので
わざわざずらすわけはなく、
爪を元の位置に戻した。

自分にとってはこの間、「チ。」で言うと
ラファウ君が「合理的な自分ウェイ」
とイキリ散らしているところから
彼が情報流出させたのに
謝罪しないところあたりの経過を辿っていたが
側から見るとただただ呻きながら蹲っている人間がいた。
(履修していない人はコミックスで言うと一巻くらいのボリュームの人生の濃さだと思っていてください。)

「…爪が……
地動説信じた人みたいになっちゃった………」

そしてこの訴えだ。
涙を溜めながら蹲って心配する家族に嘆いた。

「……何?」

あーーーーーーーーーーーーーーーーー!
さらに最悪が重なる。
家族は「チ。」を履修してない。

そのため初めから既に分かりづらい「チ。」の
いうて多用されていない拷問シーンの話をしても案の定全く伝わっていない。

大きく深呼吸して手で覆っていた爪を離した。

爪が全体的に白くなっていた。

家族は爪が剥がれたことを
ようやく理解したようだ。
「爪長くしてたからじゃないの?」と言われた。
そんなことはない。
こう見えてがん病棟看護師なので爪が割れることは見越していつもより深爪を心がけて繊維などにひっかかり爪が割れることを想定して行動していた。しかし実際は割れるどころか爪はもげたしなす術もなくこうして蹲りながら
「爪は…切ってるよ……」としか答えられなかった。
悔しい。看護師として予想をすることが出来て、そして対策をしたのにそれを上回る有害事象。
がん数匹のせいで身体全体がこうして悲鳴を上げている状況が全く腹立たしい。

がん、ほっといても死ぬのだが、
向き合っても死にそうになる。

爪の現在

とにかく痛いものの止血はされていたので
医療用のテープ剤を巻いてアイスノンを当てて冷やした。

数日後、爪は真っ黒になっていた。

これデブリードマンした方がいいんじゃないの?と思ったが、刺激しなければ痛くないためそのままにした。

というのも他の吐き気だか倦怠感で新しい診療科を受診する気にはならなかった。

そして数ヶ月経った今
黒いながらも根本から新しくピンクの爪がせり上がってきた。

組織一本のこして
もげた爪はまた身体と合わさって
何事もなかったかのように伸びている。
どんなに身体に障害を受けても身体は何事もない日常に戻ろうと励んでいるのだ。

自分もがんのせいで大丈夫じゃない精神状態を
何事もない日常に戻れるように
これからも懸命に努力していきたい。

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