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『江戸川乱歩の陰獣』加藤泰~妖艶で倒錯的な世界を独特の映像演出で~

写真引用©1977 松竹株式会社

加藤泰の晩年の作品。おなじみ江戸川乱歩の怪奇ミステリー小説の映画化。加藤泰監督は、独特の映像演出を随所でやっている。普通のショットが少ないぐらい独特の奇をてらったショットが多い。イマジナリーラインを何度も飛び越え、360度カメラがぐるっとあおい輝彦のまわりを回る移動撮影。聞いている香山美子もちゃんと映り込んでいる。得意の目のクローズアップと光と影の照明。お馴染みローアングルも頻繁に出てくる。クライマックスの2階の真っ赤な部屋での二人の絡みのシーンも、天井が映り込む階段下からのローアングル。また、手前にいろんなモノを画面に入れて奥行きのある映像を演出。加藤泰の特徴ある映像を見ているだけでも楽しい。

主人公の推理小説家の寒川光一郎をあおい輝彦。推理小説ファンの妖艶なマダム小山田静子を香山美子。肌を晒しながら熱演している。オープニングから香山美子があおい輝彦の前を通り過ぎる映像を印象的に描き、襟足から覗く意味ありげな傷を映し出す。そう、これはSM的性的嗜好を描いた作品である。小山田静子の夫・小山田六郎を演じる大友柳太郎がロンドン滞在時にヘレン(田口久美)という愛人から教わったSM趣味を、日本に戻ってきた夫の小山田六郎は妻の静子に教えていた。馬術用の鞭で打ちながら、その性的嗜好を植え付けていった。小山田六郎とヘレンが囲碁をしながら盤上に碁石を置く音が、鞭の音に重なっていく。

資産家の妻の小山田静子は、流行作家となった寒川のファンであると言って近づき、エロ・グロ怪奇推理作家・大江春泥に脅迫されていると相談を持ち掛ける。大江春泥は、文壇や編集者たちの前に姿を現さない謎の覆面作家であり、正体が分からない。しかし、静子はかつて付き合って別れた初恋の男が春泥だと告げる。本格的推理作家を目指す寒川にとっては、邪道とも言える怪奇小説家の春泥を認めていない。しかし、美人の奥様から相談され、親身になって話を聞いているうちに、静子夫人の魅力に取り憑かれていく。そして彼女の罠に嵌まっていく。江戸川乱歩自身の作家の二面性が表われた小説とも言える。

大きな屋敷に住む静子夫人は、一人の時に寒川を屋敷に引き入れ、天井裏から覗かれていると告白する。天井裏まで上って確認した寒川は、埃の上についた手の跡や天井裏に落ちていたボタンから、すっかり春泥が覗きに来ていたことを信用する。イニシャル入りのボタン、馬術用の鞭などを使いながら推理が進む。屋根裏、サーカス小屋、ピエロ、まやかしの首なし男、トイレの下水で発見される死体など、続々と江戸川乱歩得意の妖しげな怪奇的世界が展開され、津軽三味線や前衛舞踊まで描かれていく。林静一の挿絵も使われている。小山田六郎が春泥の脅迫通りに溺死体で発見され、春泥の正体を探っていくうちに、寒川は事件そのものが、春泥からの推理作家としての自分への挑戦状だったとことを知る。

赤い部屋で白いスーツと白い着物の二人が向き合いながら、あおい輝彦が最後に真実を暴いていく。香山美子の髪を振りほどいて口を開けさせ、金歯を付けて変装していたことを見抜く。さらに着物を脱ぎ捨て裸身を晒し、「ぶって・・・」と迫る香山美子。そして口笛を吹きながら階段を降りて去って行くあおい輝彦。妖艶で倒錯的で、なかなかシュールな見応えのあるシーンになっている。加藤泰がやりたい放題、乱歩的世界を表現した怪作である。


1977年製作/118分/日本
配給:松竹

監督:加藤泰
脚本:加藤泰、仲倉重郎
原作:江戸川乱歩
製作:白木慶二
撮影:丸山恵司
美術:梅田千代夫
音楽:鏑木創
録音:小林英男 小尾幸魚
照明:三浦礼
編集:大沢しづ
助監督:三村晴彦
キャスト:あおい輝彦、香山美子、若山富三郎、大友柳太朗、川津祐介、中山仁、仲谷昇、野際陽子、田口久美、加賀まりこ、尾藤イサオ、代任田順好、藤岡琢也、菅井きん、松村鈴子、花柳幻舟、倍賞美津子


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