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【創作】さようなら



月はレコード針の下を回転し続ける。

私は体育座りをしながらそれを眺めていた。
何秒も、何時間も、あなたの想像する何倍も。

私の右足が痺れた頃、月からぶつっぶつっと音が鳴り回転が止まった。


ぼっ、ふり。


それが最初から決まっていたかのように、月は田園の雪絨毯へ落ちてきた。

月だって疲れたのだ。
もう、あの卑しさや怖さはない。
月は私と同じ地上にいてもなお、金色の輝きを放つ。

風に乗った粉雪たちが、さーっと私の肌の上を走った。

「お嬢さん。正解は、Hey Judeだよ」

月は半分土に埋まりながらその言葉を私に与え、土の中へと吸い込まれていった。


「あぁ」


私はその場にへたり込んだ。
あの月が、あの卑しい月が消えた。


これからは、月ではなくそれぞれが業を背負うのだろう。

すべて、明るく終わったのだ。
月のない雪景色も、星たちが輝きの役を担い白くキラキラとしていた。


「さようなら」


本当は喜ぶべきことなのに、私はあの月の不在にめそめそと涙を流した。



私が泣き止んだ頃、空の上に別の月が生まれていた。
新しい月は常識通り山の向こうに沈み、常識通り太陽が顔を出した。


太陽が現れたことで世界は動き出した。

集めた蟻地獄たちは、姿を消した。
昔住んでいた家は、蔦に覆われていた。
蟻地獄を数えていた少年は、満面の笑みで帰っていった。
遠くをまわる電車は、空へ続く線路に吸い込まれていった。



どのように帰るか分からなかったが、私は歩き出した。

歩いた、歩いた。
何ヶ月も、何年も、あなたの想像する何倍も。



家に到着すると、タクミは戻っていた。
久しぶりに会った息子は、「土の中でママの子守唄を聴いたよ」と笑っていた。

私は「何言ってるの」と、さも何も知らないような素振りをし、笑みを浮かべた。



窓の外にはいつも通り月が浮かんでいる。
耳を澄ますと、どこからかHey Judeが聞こえてくる気がした。

目を閉じ、レコードのお兄ちゃんを思い出す。


どうして忘れていたのだろう。
私は地獄へ落ちたことも、天国にいたこともあったのだ。



この世界は、ちっとも怖くない。




夢のような話シリーズ 完

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