【創作】約束のLP
雪は世界の音を奪い、しんしんと降り続ける。
私はなにをしていたっけ。
蟻地獄を探していたかもしれないし、
唐揚げを揚げていたかもしれない。
子守唄を歌っていたかもしれないし、
誰かを探していたかもしれない。
積もった雪たちはなんとなく夜の街を照らしていた。
月は満ち、森は眠り、空気は澄み、街は白く。
神社の階段からそれらを眺めていると、自分が少女姿で夏用のワンピースを着ていることに気がついた。
寒さを感じ、くしゃみを何度かするうちに雪は止んでいた。
山の向こうをぼうっと眺めていると、水色と鼠色の間の色をした巨人が歩いてきた。姿形はぼんやりとしていた。
巨人は何かの約束を果たすように、どすううん、どすううん、と一歩ずつ確実にこちらへ歩いてくる。
雪が積もった田畑の真ん中で、巨人は足を止めゆっくりと空を見上げた。
そして、いつもより大きく見える月を手に取り、私に見せつけるかのようにそこへレコード針を落とした。
昔住んでいたあの家では、階段の上に学生服のお兄ちゃんが住んでいた。お母さんは「知り合いよ」なんて言うけど、私は知らなかった。でも、お兄ちゃんと過ごす時間は嫌いじゃなかった。
急な階段を滑らないように私がご飯を届けにいくと、お兄ちゃんはいつも音楽をかけていた。
そして、あの日は日曜日の昼間のような、穏やかな外国の曲を流していた。
「次で30枚なんだ。今度は新しいLPを聴かせてあげるから」
お兄ちゃんが最後にくれたのは、その言葉だった。
何の曲を聴かせてくれるつもりだったのか。
満月はレコードとなり、空の上から穏やかな曲が降らせる。
巨人はしばし私を見つめたあと、ゆっくりと体の向きを変え山へ帰っていった。
もしかしたらあの巨人はレコードのお兄ちゃんかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でもそんなことはどうでもよくって、私がお兄ちゃんを忘れていないことがとても重要だった。
