【ショートショート】ドーナツ
「はるちゃん、ドーナツ美味しい?」
「別に…」
私が小学校から帰ってくると、お母さんは毎日おやつを用意してくれる。
「はるちゃん、手が汚れちゃうから、ドーナツは紙ナプキンで包んで食べな」
「…」
綺麗好きなお母さんは、ドーナツの食べ方ひとつでいちいちうるさい。
「はるちゃん、今日は学校楽しかった?」
「別に…」
「そう」
お母さんは、いつも決まってこの質問をしてくる。
次の日の午後も、おやつは昨日と同じドーナツだった。しかし、お母さんの様子は昨日までとは違った。
「はるちゃん、どうしてお母さんは毎日ドーナツを食べていると思う?」
「んー、知らないけど」
「それはね、お母さんがドーナツ星から来たドーナツ星人だからよ」
「ふーん、へんなの」
お母さんが急に、変なことを言い始めた。
「はるちゃん、どうして最近ここら辺にドーナツ屋さんが増えたか知ってる?」
「んー、流行ってるからじゃないの」
「いいえ、ドーナツ星人のお母さんがいると自然とドーナツを寄せ付けるからよ」
「…ふーん」
いよいよ様子がおかしい。
今まで、お母さんの冗談は聞いたことがない。
「はるちゃん、どうしてお母さんの肌がこんがりしたドーナツ色なのか分かる?」
「んー、庭仕事をよくしているから?」
「いいえ、お母さん含めてドーナツ星人は、みーんな茶色いドーナツ色の肌なのよ」
「…ふーん」
別にお母さんの肌はそこまで茶色いってほどでもない。少しこんがり焼けているくらいだ。
「はるちゃん、どうしてドーナツは真ん中が空いてるか知ってる?」
「んー、掴みやすいから?」
「いいえ、ドーナツ星の形にしているのよ。
地球とちがって真ん中がぽっこり空いているの。真ん中を覗き込むとちょうど地球が見えるのよ」
「ふーん…。」
2個目のドーナツを持ったお母さんがドーナツの真ん中から私の方を見ている。
お母さんは頭がおかしくなったのだろうか。
お母さんの目をこんなにジッとみたことはないけど、ちゃんと見てみると茶色いドーナツみたいな色をしていて、真ん中に黒い丸があるから本当にドーナツみたいだ。
お母さんはもしかして、そうなのかもしれない。
「どうしてお母さんはるちゃんにこんなお話しするか分かる?」
「んー……。お母さんが実はドーナツ星からきたドーナツ星人だから?」
「ふふふふ。」
お母さんの後ろの棚に置いてある雑誌がボトっと落ちた。
落ちた雑誌をチラッと見ると、
「思春期の娘と話すトークテーマ集10選!」と書いてある。
お母さんと久しぶりに話せたくすぐったい気持ちをドーナツと一緒に飲み込んだ。
