TIFゴーオンを振り返る 2023年編
2025年7月20日、日本の未来を決める参院選の開票速報が流れた午後8時、僕は岐阜県関ヶ原町で、パラリラダンスを踊っていました。
一応、補足しておくと、僕は期日前投票に行きましたし、毎朝、新聞で政治のお勉強はしています。
……そんな話はどうだっていいんです。
今年も、関ヶ原歌姫合戦に行ってきました。TIFが“1推し”だとすれば、関ヶ原は“2推し”。TIFではもう難しくなったあれこれが許される、貴重な野外フェスなので、毎年通っています。
パラリラダンスは、あいすとこるねの2人組アイドルユニット、「i-COL」の楽曲です。
数あるステージの中から、徳川ステージでi-COLを選んだ理由のひとつに、TIF2023のメインステージ争奪戦がありました。
i-COLと、僕の主現場であるバチュンは、ともに決勝へ進出した“同士”。夏が終わったあとも、お互いのライブにゲスト出演したり、今年(2025年)のTIFではコラボステージが決まったりと、TIFをきっかけに、いまもゆるやかにつながり続けています。
あいすがお土産屋さんで買ったという刀を、こるねと一緒に振り回すのを眺めながら、僕の頭には、まだ一文字も書けていない2023年のTIFが、ふっとよぎっていました。
それは、大勝利の夏でした。
まるでドラマ化されそうなサクセスストーリーで、書こうと思えば、僕でもドラマチックな文章にできそうな気がしていました。
でも、それでは僕が書く意味がないんだろうな、と思います。
僕なりに、僕なりのノンフィクションを、つづっていきます。
1.未完成ナイトライダー
「明日はMerry BAD TUNE.から、いつも応援してくださる皆さんにご報告があります。」
X(旧Twitter)でその告知を見た瞬間、「きた!」と思いました。
"明日"――4月19日は水曜日。TIFの公式から、新情報が毎週正午に解禁される日です。さらに、例年どおりであれば、この時期は第1弾出演者の発表があるタイミング。
これはもう、決まったのではないか。
バチュンが、TIFに出る。
少し不安になって、他のアイドルたちのXもチェックしてみました。
すると、多くのグループが「明日情報解禁」と、同じように告知していて――
その瞬間、僕の中でそれは、確信に変わりました。
2019年に、推しメンが初めてTIFのステージに立ってから――もう4年が経っていました。
「明けない夜空」
未完成ナイトライダーの冒頭に出てくるこの言葉のとおりに、僕はずっと、抜け出せない時間を彷徨っていたのかもしれません。
翌日、正午の1分前から、僕はスマホを握りしめてXをひたすらリロードしていました。
そして正午ちょうど。
「TIF公式X」「TIF公式LINE」「バチュン公式X」
3つの通知が、同時に画面に現れました。
TIF2023 出演者第1弾発表
「嬉しい!」は、前日の告知の時点で吐き出していたので、僕はおそらく、その瞬間にはもう、心のどこかで“あれ”に身構えていたのだと思います。
“あれ”――メインステージ争奪戦。
しかし、その日の発表に「メインステージ争奪戦」の文字はありませんでした。少し拍子抜けして――でも、正直、どこかでホッとしている自分もいました。
争奪戦に出てほしい気持ちが3割。出てほしくない気持ちが7割。
たぶん、そのくらいの心持ちだったと思います。
ただ、薄々わかってはいました。TIFオタクの性といいますか……第1弾発表がTIFの107日前だったので、きっと翌週の“100日前”に、どーん!と来るんだろうなって。
そして、予感は的中しました。
1週間後、4月26日の正午。スマホにどーん!と届いた通知には、こうありました。
#バチュンガチ夏
「そうですか」
僕はスマホに向かって、ぽつりとつぶやきました。
ちゃんと補足しておくと、決してグループのメインステージ争奪戦への挑戦や、賞レースのシステムそのものを否定したいわけではありません。
僕が思わず嘆息したのは、これから、自分の“立ち位置”を改めて問われることになる。そんな予感がしたからです。
え、なんで?主現場なんだから素直に応援すればいいじゃん。
そう思われるかもしれません。もちろん、応援はします。
でも、どこかに「主現場としての応援とは、もっと全面的であるべきだ」という空気を感じて、少し身構えてしまう自分もいました。
たとえば、SNSでどれだけ言及したか、何人を招待したのか、チケット代をいくら払ったのか。そういったひとつひとつの積み重ねが、「応援の濃度」や「熱量」として測られてしまうような感覚があります。
もちろん、何度も言いますが、この“濃度”があるからこそ、アイドルが夢のステージに立てるというのも紛れもない事実で。そこには、大正義があります。みんなが本気で応援しているからこそ、生まれる尺度なのです。
ただ、僕はそのスケールに、どうしても完全にはフィットできませんでした。
昔からのオタクの知り合いに、「トミーさん、(メインステージ争奪戦の発表を)どう思いますか?」と、やんわり声をかけてもらったとき、僕は「……あ、はいって思ったよ」と、ズルい返事をしてしまいました。
そしてもうひとつ。
今回の争奪戦に連なる文脈に、少しむず痒さを覚えてしまったんです。
推しメンは、これまでに2回アイドルリセットボタンを押してきました。そんな中で「初挑戦」というワードを目にするのは、やっぱりしんどかったし、「リベンジ」は、もっとしんどかった。(いずれも、誰か特定の個人の発言を指しているわけではありません)
もちろん、それは誰かが悪いわけではありません。物語が人を引きつける力があまりにも強いからこそ、生まれた言葉だとも思います。
でも、そうした言葉の中に、自分の気持ちがすっぽり収まりきらない瞬間があって――僕は、少し立ち止まってしまいました。
6月18日
GARDEN 新木場FACTORYにて、メインステージ争奪戦の前哨戦が行われました。
入口付近に向かうと、マリオネッ。やワルエン時代の懐かしいオタクたちの姿がありました。もちろん、どうして彼らがここにいるのか、僕にはわかっています。わかっているからこそ、少しだけ自分のふがいなさが胸に刺さりました。
それでも、「まるでマリオネッ。のユーレイっすね」なんて冗談を交わしながら、久しぶりの再会を嬉しく感じていました。
バチュンが出演したのは2部でした。共演したのは、先ほど紹介したi-COL、そして今や「倍倍FIGHT!」で人気が倍倍急上昇中のCANDY TUNE(キャンチュー)。さらに、特典会で僕が名乗ると「トミー? わたしバンダイ派」と粋な切り返しをしてくれた、仮面ライダー好きの環木あんずさん(当時所属)がいるChick-flick。以上、計4組でした。
特に印象に残っているのは、結果発表前のMCでした。キャンチューやi-COLが会場でいい反応を得ていた中、バチュンにはどこかアウェイ感が漂っていました。そんな時、MCから「他にアピールしたい人いますか?」と問いかけがあり、バチュンのメンバーが迷いなく、すっと手を挙げたのです。(名前を伏せる意味があるのか自分でもよく分かりませんが、ここでは貫きます)
そしてそのメンバーは、1500人の前で「九字印」を披露しました。……すみません、僕も「九字印」が何なのか正確には分かっていないのですが、呪文のようなものを唱えていました。
何が言いたいかというと、アウェイの中でも、気持ちで一切引かなかった彼女に、僕は心を打たれたのです。本人にも伝えました。「また、それ」と返されるくらいには、何回も。
バチュンは新しいグループですが、応援する人たちの中には、それ以前の文脈――マリオネッ。やワルエンといった過去のグループ――をなぞるように見ている人もいます。もちろん、バチュンはその系譜ではありません。でも、そう見えてしまうことが、人によっては苦しく感じられるのかもしれません。
僕自身はマリオネッ。からなので、その気持ちに完全に寄り添うことはできない。
それでも――今回ピンと手を挙げてアピールした“あのメンバー”とは、僕にとってはバチュンからの出会いです。だからこそ、そうした文脈とは関係なく、彼女自身の言葉や振る舞いに触れられたことが、とても嬉しかったのです。
バチュンは、圧倒的な会場票を獲得し、決勝に進出しました。
あらためて、バチュンのオタクってすごいな、と思いました。
僕も、バチュンのオタクなんですけどね。
1か月後――
7月14日正午、TIF公式Xからの通知を見た僕は、会社のトイレへと駆け込みました。
【TIF2023】タイムテーブル公開!
出演は決まった。メインステージ争奪戦にも出る。それは、もう分かっていました。でも、まだ大事なことが残っていたんです――スマイルガーデンに立てるかどうか。
推しメンと初めてTIFの話をしたとき、彼女は「スマイルガーデンに立ちたい」と話していました。
2019年、TIF初出場。しかしその年は、スマイルには立てず。2020年はコロナ、2021年は台風、2022年はグループの解散。――もう、十分でしょう。ここまで、よく耐えたよ。今年こそは!そう願っていました。
だからこそ、タイムテーブルが出た瞬間、僕はトイレへと走ったのです。
個室のドアを、バン!と閉めてTIF公式サイトへアクセス。……が、アクセス過多でまったく繋がらず。「くっそ!」と吐き捨てて、リロードを繰り返す。何度やっても無理。さすがに冷静になって、ブラウザのキャッシュを削除――効果なし。「どーすればいいんだ!」と、藤原竜也ばりに苦悶の表情を浮かべながら、最終的に「ブラウザ表示じゃなくて、PDFファイルをダウンロードすればいい」という単純な真実に気づくまで、8分かかりました。
1日目のタイムテーブル、スマイルガーデンの列を上から指でなぞり、そして・・・
14:25-14:45 Merry BAD TUNE.
「あった」
合格発表のようでした。気づけば、涙がこぼれていた気がします。
そんなふうにして、いくつもの感情とともに、僕の11(+配信1)回目のTIFが始まりました。
(自身)11(+配信)回目のTIFがはじまります pic.twitter.com/a0STNZTngF
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 4, 2023
2.真夏のユーレイ!!
TIF2023のメインステージ(HOT STAGE)は、6年ぶりに屋外の巨大ステージとなりました。フジテレビの夏イベント開催期間中は、連日、有名アーティストもライブを行う豪華なステージです。
また、コロナ対策による規制も大幅に緩和され、声出しや肩を組むといった、コロナ前のライブの楽しみ方ができるようになったことも、大きな変化でした。
この条件下であれば、あの頃のTIFにまた会えるかもしれない――そんな期待を胸に、バチュンのステージが始まるまで、お台場を歩き回っていました。
1日目の朝で印象的だったのは、chuLaのメインステージでのライブです。数年前からメインステージに立てるグループにはなっていましたが、野外の大きなステージでパフォーマンスする姿には、あらためて胸を打たれました。思わず、いろんな記憶がよみがえりそうになるほどでした。
その後も、定番グループから初見のグループまでを程よいバランスでチェックしていたら、あっという間にバチュンのスマイルガーデンでのライブの時間になっていました。
バチュンにとって、そして推しメンにとって、初めてのスマイルガーデンでのライブです。その瞬間を目に焼き付けようとしました。が、初出演の喜びを差し引いて見ると、どこか物足りなさを感じるライブでもありました。
何が足りなかったかというと――観客です。金曜日という日程のハードルもあるし、バチュン側の訴求力の問題もあったかもしれません。でも、それでも、あの景色にはどうしても空白が目立っていました。
スマイルガーデンという場所は、アイドルだけで成り立つステージではありません。あそこは、“人が集まって初めて完成する”場所です。生意気かもしれませんが、10年以上通っているので、あえて強気に言います。歓声、熱気、振り上げられた腕、ぶつかる視線――そういう全部が揃って、ようやくスマイルガーデンになるのです。
だから、もどかしかった。初めて立ったスマイルガーデンなのに、「もっと盛り上がれたはずだ」って気持ちが拭えなかった。ただ嬉しいだけでは、終われませんでした。
その後も、夕方以降はメインステージ争奪戦の決勝にラストまで拘束されるとわかっていたので、できる限り多くのステージを見て回りました。「お前、本当にバチュンのオタクか?」と怒られそうですが、決勝の裏で行われるステージも魅力的なものが多く、そっちにも行きたかったなと、少し後悔したほどです。
決勝の直前に行われた特典会でも、漫画のようなドラマチックな展開はなく、早々に切り上げて、メインステージの白キャンまで走って行ったほどです。
推しメンの決勝までに、chuLaと白キャンがたどり着いたそのステージを、ちゃんと見ておきたかったから。
そして日は沈み、メインステージ争奪戦の決勝が始まりました。
バチュン、i-COL、ドラマチックレコード、UtaGe!の4組で争います。バチュンの登場を待ちながらも、僕は、それぞれのグループの物語に引きこまれていきました。きっと、このグループたちも、僕にとってのchuLaや白キャンになる。そう確信しながら、ステージのメンバーたちと、客席のオタクたちの声援を、交互に見つめていました。
i-COLは、トークのゆるさも、ポップに見えるダンスも、細部まで計算され尽くしているように見えた。
ドラマチックレコードは、健気で儚い空気をまとっている。でも、メンバーが作詞を手がけた楽曲には、しっかりと地に足のついた強さがあった。
UtaGe!は、場をかき乱すのがひじょうにうまい。オタクをぐちゃぐちゃにして、笑わせられるグループが、フェスでは主役になる。
そして、バチュン。
ここまで他グループの感想を良い感じに書いてしまったので、それ以上の語彙を駆使して魅力を伝えようと考えましたが、どんな言葉もしっくりきませんでした。
ただ、一番よかった。
それは、当然のことなのかもしれません。
歌も、振りコピも、背景も、全部、身体にしみついているのだから。楽しくないわけがありません。
過去をさまよっていた僕の魂も、この瞬間だけは、自分の中にそっと戻ってきた気がしました。
そして、運命の結果発表。
バチュンは、メインステージ争奪戦で優勝しました。
その瞬間、メンバーは大号泣。客席も、大歓声に包まれました。
「おめでとう!」と全力で祝福しながらも、僕の魂は、またすっと身体を離れていき、喜ぶ人たちを、少し遠いところから笑顔で見つめていました。
「やったー」と胸を張るのは、やめておこうと思いました。
今日のTIFは贔屓なしで最後のバチュンが1番良かったです!
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 4, 2023
2日目、渋谷で開催されたバチュンの祝勝会には行かず、僕はお台場にいました。
なぜなら、TIFが好きだから。
どこか憑き物が取れたように身軽になった僕は、朝から晩まで、
いつものように、少しだけ遠巻きにTIFの景色を眺めていました。
それでも、やっぱりこの場所が好きなんだと思いました。
3.86 SUMMER FILM
2023年8月6日、TIF最終日の朝は快晴でした。
ギリ間に合った!
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 6, 2023
最終日、どうかステージが中断することなく無事フィナーレを迎えられます様に!! pic.twitter.com/qylSTJ49Rc
けれど予報は午後から雨。雷注意報も出ていて、空模様はどこか不穏です。「耐えてくれ、お台場!」――そう願いながら、スマイルガーデンでいつも通りのラジオ体操に参加し、音楽にあわせて大きく息を吸い込みました。
その後は、chuLaやマイディアなど、大好きなグループのライブを楽しみながら、少しずつ気持ちを高めていきました。そして向かったのは、バチュンの特典会。前日の祝勝会には参加していなかったので、優勝後に推しメンと言葉を交わすのは、これが初めての機会でした。
「おめでとう」と、シンプルに、控えめに終わらせるつもりでした。なのに、「本当にここまで、いろんなことがあって……」と、気づけば自分でフラグを立てるような言葉を口にしてしまい、こらえきれずに、涙が、ぽろぽろとこぼれてしまいました。
「うわー!」と笑う推しメン。そっちは泣かんのかい!アイドル劇場やろうや!と思わず心の中でツッコミを入れてしまいました。
あらためて、このとき撮った3枚のチェキを見返してみました。
1枚目のサインは「沢山ありがとう!!!」
満面の笑みで、僕とハイタッチする推しメン。
2枚目のサインは「涙ながしていいよ!!」
僕のタオルで涙を拭く(演技をする)推しメン。
3枚目のサインは「かみなりいや・・・!」
正面に向かって、ゴーオンポーズを決める推しメン。
この3枚は、まさにTIF2023年8月6日を象徴する記念写真だと思いました。
推しメンのサインにもある通り、お昼前には雷がゴロゴロと鳴り始めていました。
「絶対に、バチュンのメインステージは大成功する!」
特典会を終えると、悪天候を吹き飛ばすような勢いで、僕はメインステージへと駆け出しました。
そして、メインステージに到着した瞬間、絶句しました。
人、人、人――尋常じゃないほど巨大なステージなのに、すでに入場規制がかかっていたのです。
最終日のメインステージには、AKBグループやイコノイジョイ、坂道グループなど、“大人気アイドル”たちが多数出演するため、早くから人が集まるのは分かっていました。だからこそ、僕も余裕を持って向かったはずだったのに……。
そのときステージでは、クマリデパートが「サクラになっちゃうよ!」を歌っていました。今でもあの曲を耳にすると、絶望がよみがえります。
この時間で入場規制がかかっているということは、もうこのままずっと入れないのでは……と、半ばあきらめかけていました。
けれど、クマリデパートが出演していた「でびぱっぱ夏祭 in TIF2023」が終わると、場内の人が一気に引いていき、なんとか中に入ることができました。
規制の一因となっていたのが、遠い存在の“天空アイドル”だけではなく、普段から親しんでいるアイドルたちの力でもあった――それが分かったとき、胸にこみ上げてきたのは、二重の喜びでした。
なんとか入場はできたものの、そこからは暑さとの戦いが始まりました。湿度100%かと錯覚するほどの蒸し暑さ。全方位に人がひしめき合い、肌が触れ合う距離感です。このまま90分ここで耐久……〇ぬのでは? そんな不安が頭をよぎっていました。
そんな中で登場したのがAKB48でした。
タイムテーブルは、AKB48 → バラエティ企画の公開収録 → バチュン、という並び。つまり、推しメンは憧れのAKBのすぐ後にライブをすることになっていたのです。それが、どれだけ幸せなことなのか。できることなら、ずっと、あの時の気持ちを聞いていたいと思いました。
その次の公開収録では、チェアマンの長濱ねるちゃんがバチュンを紹介してくれたり、元坂道アイドルの原田アナウンサーがインタビューしてくれたり、その様子を、よゐこの濱口さんが笑いながら見守っていたり――。目の前で繰り広げられるそんな場面に、僕はあらためて思いました。
「ああ、優勝って、ほんとうにすごいことだったんだな」って。
そしていよいよ、バチュンの出番です。
雷は止み、雲の切れ間から太陽が顔を出していました。けれど僕の体調は、もう限界に近づいていました。このままじゃだめだ――こんな状態で晴れ舞台を見ても、きっと嫌な思い出になってしまう。苦渋の決断で、後方に下がろうとした、そのときです。そこに、知り合いのオタクたちがいました。
精神的にも体力的にもギリギリだった僕にとって、それは救いそのものでした。「このタイミングで一緒に見たいなんて言っていいのかな?」いつもの遠慮が頭をよぎりました。でも、迷っている場合じゃない。僕は、声を振り絞りました。
「ごめん、そこ入れてもらっていい!?」
大歓声とともに、バチュンのメインステージが始まりました。
「バチュンのオタクって、こんなにいたの!?」
そんな俯瞰の感情も、始まって数秒で吹き飛びました。僕は、オタクたちと一緒に――叫び、跳ね、ぶつかりあっていました。体力を奪っていたはずの夏の暑ささえ、味方に思えるほどに。当時のことは、ほとんど覚えていません。それくらい、あの瞬間、僕は“その場の一部”になっていたのだと思います。
20分間のメインステージは、あっという間に終わりました。僕は自販機へ直行し、アクエリアスを全身で飲みながら、「やっぱ邪魔だったよな……自分」と、ひとりクールダウンしかけていました。
「トミーさん」
そこには、同じ“ひとりのアイドル”を、ずっと見つめ続けてきたオタクが立っていました。長い時間をかけて、いろんな瞬間を共有してきた存在です。目が合っただけで、言葉よりも先に、いろんな感情が押し寄せてきました。
「よかったよね。本当に、ここまでこれてよかったね」
そう声をかけたのは、僕の方でした。
そして僕は、その日2回目の涙を流していました。
ここまでが前半戦です。
ハチロクには、まだまだ続きがあります。
僕は身体を休めるために、Zepp DiverCityのステージ「HEAT GARAGE」へ移動しました。アプガ、まねき、アンスリューム、NANIMONOなどの好きなグループを見ながら、少しずつ脈を正常に戻していきました。だいぶ回復してきたので、「そろそろ外に戻ろうかな?」と思ったその時、スマホに通知が……
屋外ステージ一部中断のお知らせ
屋内にいたので気づいていませんでしたが、ついに夏空が本気を出しはじめ、豪雨と雷鳴が、お台場を襲ったのです。
もし、空が1時間早く暴れはじめていたら――
バチュンのメインステージも、中止になっていたかもしれません。
その点では、天気に恵まれていました。ただ、まだ気は抜けません。夕方、湾岸スタジオ屋上のスカイステージで、最後のライブが控えていたのです。
でも、このときの僕は、どこか余裕のある顔をしていた気がします。10年前――2013年のTIFで体験した、ドロシーリトルハッピーのステージ。雷でライブが中止になったあの年、翌日の振替ステージは奇跡のように成功を収めました。その記憶と、朝から続いてきたバチュンとのドラマチックな一日が、「きっと、雨は止む」と、僕に言い聞かせていたのだと思います。
数分後、空はほんの少しだけ機嫌を直し始め、屋外ステージも徐々に再開されていきました。けれど、スカイステージは屋上という特性上、雨や雷への警戒がより厳しく、僕が屋外へ戻ってきたときには、まだ再開のアナウンスは出ていませんでした。
再開されるか分からないスカイステージの待機列に並ぶか、それとも他のステージを回って、いま確実に楽しめるライブに向かうか――選択肢はふたつ。
僕は、迷いなく前者を選びました。
待機列に並ぶと、Task have Funの「3WD」が聴こえてきました。あのカッコよくて弾けた曲に誘われるように、オタクたちの大声と横移動の気配も伝わってきます。――もう、コロナ禍は明けたんだ。あの頃の熱気が、戻ってきてる。天気だって、きっとバチュンに味方してくれるはず。
そして、その想いは、TIFへ届きました。
このツイートを印刷して家のドアに貼ります。 pic.twitter.com/c1j0xYl2IT
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 6, 2023
メインステージが“動”の熱狂だとしたら、スカイステージには“静”の美しさがありました。ステージへ向かう途中、上からメンバーが手を振っているのが見えました。夕暮れの光を浴びたその姿は、まるで神の使いのように思えました。
夕暮れのスカイステージでライブをしたい――
そんな話を、推しメンとは出会った頃から、ずっとしてきました。
まさかそれが、こんな形で叶うなんて。
「報われた」という言葉が適切かは分かりません。
でも、2023年のTIFは、全てが僕たちの味方になってくれた。
そんな気がして、胸の奥で何度もその思いを噛みしめました。
ライブ中、隣でオタクが泣いていました。
そっか、バチュンって、こんな泣かせ方もできるんだ――そう感心しながらも、ふと自分は泣いていないことに気づきました。
少しだけ、いつもの自分に戻った気がしました。
バチュンの全ステージが終わっても、TIFはまだ終わりません。
スマイルガーデンに戻った僕は、たぎるドーパミンの放出先として、Appare!を選びました。わちゃわちゃの輪に突っ込んでいく――最終日の夕方とは思えない選択でした。
その後もタイムテーブルが続く限り、僕は何かに背中を押されるようにステージを走り回りました。
そして、最後に僕が選んだのは、「スナックうめ子」というトークステージ。元アイドリング!!!の2人がMCを務める、TIF恒例の企画です。2023年を駆け回ったこのTIFを、最後は少し過去とつなげて終えるのも、悪くないなと思ったからです。
その場で、ゲストのよゐこ・濱口さんが、こんな言葉を口にしていました。
「お台場に着いたとき、久しぶりに声出しが解禁されててさ。オタクたちの“うぉー!”って歓声が聞こえてきて。ああ、これがTIFやって……泣きそうになったわ」
その瞬間、僕は大きくうなずいていました。
――そうだ。これが、TIFだ。
たくさんの場面と感情を抱えて、僕の「86 SUMMER FILM」は、まだ帰りたくないオタクたちの笑顔に囲まれながら、少し賑やかにラストシーンを迎えました。
TIF2023 3日目
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 6, 2023
ラジオ体操→chuLa→Road to TIFステージ→マイディア→特典会→AKB→ねる取材→バチュン→(仮)→まねき→アンス→NANIMONO→バチュン→uijin→あっぱれ→タイトル未定→ミシェル→女子流→グランドフィナーレ→クラブナイト→スナックうめ子
4.ボクらのBAD TUNE.
※実はこの4章、3章よりも先に書いていたものです。 思いのほか3章に熱が入りすぎてしまい、あらためて読み返すと、自分でも少し温度差を感じる文章になっていました。
とはいえ、これも僕の一部です。1章、2章を読んでくださった方には、リンクする部分もあると思いますので、このまま残すことにします(……というか、時間もないのでw)
激動の3日間が終了した夜、僕はこんなポストをしていました。
3日間ありがとうございました。
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 6, 2023
6年ぶりに言います。
今年のTIFが一番良かったです!
「楽しかった」ではなく「良かった」と書くあたりが、自分らしいなと思いました。
バチュンがメインステージ争奪戦で優勝し、推しメンが悲願のスマイルガーデンに立ち、そして天気までも味方をしてくれた。
これ以上ないハッピーエンドのTIF2023だったはずなのに、僕は言葉を選んでいました。
たぶんあのときの僕は、「おめでたいから赤飯を炊かないとな」って思うのに似た感覚だったんだと思います。
実際、ちゃんと炊いたんです。
でも、食べてみたら、なんだか味がしなかった。
嬉しいはずなのに、どこか実感がわかない。
そのズレごと抱えたまま、TIFは終わっていきました。
「僕の主現場はアイドルフェスです」――そんなふうに、本気と冗談を半分ずつ混ぜて言うことがあります。ズルい言い回しだな、と自分でも思います。でもそれは、立ち位置を決めきれないオタクの、自衛でもあるのです。
決して良い子ぶるつもりはないのですが、立ち位置を決めてしまうと、誰かを肯定する代わりに、誰かを否定してしまう気がして――
それが嫌で、僕はいつも、ぐるぐると周回しているのだと思います。そして、たぶんそのぐらつきこそが、僕を不安定にしていたのだと思います。
自分にとって、TIFという場はやっぱり大切で。
ある意味、2023年のTIFを“楽しむこと”には成功したのかもしれません。だからこそ、バチュンに気持ちを極振りすることができなかった。きっとあの場には、もっとたくさんの嬉しさや高揚感の断片があったはずなのに、僕はその多くを、拾いきれずに通り過ぎてしまったような気がしています。
2023年の正月、お台場に行って、スマイルガーデンの前で写真を撮りました。そして、こんなポストをしました。
初詣
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) January 2, 2023
バチュンと未完成ナイトライダーでシンガロングする場所になりますように pic.twitter.com/Wg6McVcybc
……よく言うよ、と思いました。
未完成ナイトライダーに限らず、曲の途中でシンガロングが始まりそうになると、僕は毎回ドキドキしはじめます。隣の人が、僕と肩を組むのが嫌だったらどうしよう――そんな不安がじわじわとこみ上げてくる、あの感覚。
僕はそれを、勝手に「シンガロングアラート」と呼んでいます。
ひとつになれないオタクが、ひとつになることを願っている。
滑稽だな、と思いました。
でも、笑いながらも、惨めだなーって思いながらも――
それでも、まだ自分が間違ってるとは思えないんですよね。
「自分は何もしてない」みたいな発言をすると、魔法の言葉「そんなことないよ!」が、滝のように降ってきます。
もちろん、それが善意から来ていることは、わかっています。
それでも――
僕は、「そんなことある」から自分を保ってるんだよ、って言いたくなるんです。
いろんなオタクがいます。
推しのために生きているオタク、多動に全力のオタク、
「水飲んだらうめー!YATTA!」でいいのに、いちいち意味づけをしてしまうオタク。
それぞれが、それぞれの音を鳴らして、やがてひとつの現場ができあがっていきます。
僕の音は、少しひねくれていて、よく濁っていて、
拍がずれていたり、途中で小さくなったりもしたけれど。
それでも、ちゃんと鳴っていたと思います。
誰かとぴったり重なりはしなくても、あの夏、TIFのなかに、僕の音も混ざっていた。
それが、
ボクの――
ボクらの……
やめときます(笑) 以上、バチュン大特集回でした!
バチュン本当におめでとう。
— ゴーオントミー (@LetsGoOnTomy) August 6, 2023
僕はアイドルもアイドル運営もアイドルフェスも折れずに続ける人たちに勝って欲しいと思っています。勝ってくれてありがとう。
――
別に、誰かのために書いているわけではないんです。
あえて言うなら、自分のために続けてきたこのnote連載。
2023年編は本当に、どう書くか悩みました。
何度も構成を練り直して、書いては止まり、また書いて――
結果として、耳キーンってなるくらい高低差のある構成になってしまいました。
でも、関ヶ原から帰ってきて、AIに支えてもらいながらも、2日で12000字を書ききった。
それだけは、自分で自分をちょっと褒めてあげたいなと思っています。
そして今回、いちばんの収穫だったのは――
俯瞰者だと思っていた自分が、思っていた以上に“当事者”だったんだと、気づかされたことかもしれません。
次回、いよいよ2024年編。
連載は一旦、そこで区切りとなります。最後まで読んでもらえると嬉しいです。
おまけ
今回のサムネの写真ですが、実はバチュンと縁がある場所です。
分かった人はこっそりおしえてください。何か差し上げます。
【出典リンク】
・TOKYO IDOL FESTIVAL 2023
https://official.idolfes.com/s/tif2023/
・Merry BAD TUNE.公式X
https://x.com/merrybadtune
・関ケ原唄姫合戦2025
https://sekigahara-idolwars.net/
・第27回参議院議員通常選挙 参院選2025
https://www.soumu.go.jp/2025senkyo/
【動画リンク】
・未完成ナイトライダー
https://www.youtube.com/watch?v=hjP3lR2Rkzo
・真夏のユーレイ!!
https://www.youtube.com/watch?v=C9EyKBvtbwQ
・86 SUMMER FILM
https://www.youtube.com/watch?v=9GVVQiWuSQg
・ボクらのBAD TUNE.
https://www.youtube.com/watch?v=XHF6-GBSQSc
・【MV】パラリラダンス/i-COL
https://www.youtube.com/watch?v=0-S9di6Sh1I
・陽炎 / ドラマチックレコード
https://www.youtube.com/watch?v=k-j_DBnX6g0
・【MV】さわげ!うたげーしょん! / UtaGe!
https://www.youtube.com/watch?v=81eV5XW62Ww
・クマリデパート / 「サクラになっちゃうよ!」MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=GqHgH1Mt62g
【参考リンク】
・はっぱ隊(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%A3%E3%81%B1%E9%9A%8A
