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TIFゴーオンを振り返る 2023年編

2025年7月20日、日本の未来を決める参院選の開票速報が流れた午後8時、僕は岐阜県関ヶ原町で、パラリラダンスを踊っていました。

一応、補足しておくと、僕は期日前投票に行きましたし、毎朝、新聞で政治のお勉強はしています。

……そんな話はどうだっていいんです。

今年も、関ヶ原歌姫合戦に行ってきました。TIFが“1推し”だとすれば、関ヶ原は“2推し”。TIFではもう難しくなったあれこれが許される、貴重な野外フェスなので、毎年通っています。

パラリラダンスは、あいすとこるねの2人組アイドルユニット、「i-COL」の楽曲です。

数あるステージの中から、徳川ステージでi-COLを選んだ理由のひとつに、TIF2023のメインステージ争奪戦がありました。
i-COLと、僕の主現場であるバチュンは、ともに決勝へ進出した“同士”。夏が終わったあとも、お互いのライブにゲスト出演したり、今年(2025年)のTIFではコラボステージが決まったりと、TIFをきっかけに、いまもゆるやかにつながり続けています。

あいすがお土産屋さんで買ったという刀を、こるねと一緒に振り回すのを眺めながら、僕の頭には、まだ一文字も書けていない2023年のTIFが、ふっとよぎっていました。

それは、大勝利の夏でした。

まるでドラマ化されそうなサクセスストーリーで、書こうと思えば、僕でもドラマチックな文章にできそうな気がしていました。

でも、それでは僕が書く意味がないんだろうな、と思います。

僕なりに、僕なりのノンフィクションを、つづっていきます。


1.未完成ナイトライダー

「明日はMerry BAD TUNE.から、いつも応援してくださる皆さんにご報告があります。」

X(旧Twitter)でその告知を見た瞬間、「きた!」と思いました。

"明日"――4月19日は水曜日。TIFの公式から、新情報が毎週正午に解禁される日です。さらに、例年どおりであれば、この時期は第1弾出演者の発表があるタイミング。

これはもう、決まったのではないか。
バチュンが、TIFに出る。

少し不安になって、他のアイドルたちのXもチェックしてみました。
すると、多くのグループが「明日情報解禁」と、同じように告知していて――

その瞬間、僕の中でそれは、確信に変わりました。

2019年に、推しメンが初めてTIFのステージに立ってから――もう4年が経っていました。

「明けない夜空」
未完成ナイトライダーの冒頭に出てくるこの言葉のとおりに、僕はずっと、抜け出せない時間を彷徨っていたのかもしれません。

翌日、正午の1分前から、僕はスマホを握りしめてXをひたすらリロードしていました。

そして正午ちょうど。
「TIF公式X」「TIF公式LINE」「バチュン公式X」
3つの通知が、同時に画面に現れました。

TIF2023 出演者第1弾発表

「嬉しい!」は、前日の告知の時点で吐き出していたので、僕はおそらく、その瞬間にはもう、心のどこかで“あれ”に身構えていたのだと思います。

“あれ”――メインステージ争奪戦。

しかし、その日の発表に「メインステージ争奪戦」の文字はありませんでした。少し拍子抜けして――でも、正直、どこかでホッとしている自分もいました。

争奪戦に出てほしい気持ちが3割。出てほしくない気持ちが7割。
たぶん、そのくらいの心持ちだったと思います。

ただ、薄々わかってはいました。TIFオタクの性といいますか……第1弾発表がTIFの107日前だったので、きっと翌週の“100日前”に、どーん!と来るんだろうなって。

そして、予感は的中しました。
1週間後、4月26日の正午。スマホにどーん!と届いた通知には、こうありました。

 #バチュンガチ夏

「そうですか」
僕はスマホに向かって、ぽつりとつぶやきました。

ちゃんと補足しておくと、決してグループのメインステージ争奪戦への挑戦や、賞レースのシステムそのものを否定したいわけではありません。

僕が思わず嘆息したのは、これから、自分の“立ち位置”を改めて問われることになる。そんな予感がしたからです。

え、なんで?主現場なんだから素直に応援すればいいじゃん。
そう思われるかもしれません。もちろん、応援はします。

でも、どこかに「主現場としての応援とは、もっと全面的であるべきだ」という空気を感じて、少し身構えてしまう自分もいました。

たとえば、SNSでどれだけ言及したか、何人を招待したのか、チケット代をいくら払ったのか。そういったひとつひとつの積み重ねが、「応援の濃度」や「熱量」として測られてしまうような感覚があります。

もちろん、何度も言いますが、この“濃度”があるからこそ、アイドルが夢のステージに立てるというのも紛れもない事実で。そこには、大正義があります。みんなが本気で応援しているからこそ、生まれる尺度なのです。

ただ、僕はそのスケールに、どうしても完全にはフィットできませんでした。

昔からのオタクの知り合いに、「トミーさん、(メインステージ争奪戦の発表を)どう思いますか?」と、やんわり声をかけてもらったとき、僕は「……あ、はいって思ったよ」と、ズルい返事をしてしまいました。

そしてもうひとつ。
今回の争奪戦に連なる文脈に、少しむず痒さを覚えてしまったんです。

推しメンは、これまでに2回アイドルリセットボタンを押してきました。そんな中で「初挑戦」というワードを目にするのは、やっぱりしんどかったし、「リベンジ」は、もっとしんどかった。(いずれも、誰か特定の個人の発言を指しているわけではありません)

もちろん、それは誰かが悪いわけではありません。物語が人を引きつける力があまりにも強いからこそ、生まれた言葉だとも思います。

でも、そうした言葉の中に、自分の気持ちがすっぽり収まりきらない瞬間があって――僕は、少し立ち止まってしまいました。

6月18日
GARDEN 新木場FACTORYにて、メインステージ争奪戦の前哨戦が行われました。

入口付近に向かうと、マリオネッ。やワルエン時代の懐かしいオタクたちの姿がありました。もちろん、どうして彼らがここにいるのか、僕にはわかっています。わかっているからこそ、少しだけ自分のふがいなさが胸に刺さりました。

それでも、「まるでマリオネッ。のユーレイっすね」なんて冗談を交わしながら、久しぶりの再会を嬉しく感じていました。

バチュンが出演したのは2部でした。共演したのは、先ほど紹介したi-COL、そして今や「倍倍FIGHT!」で人気が倍倍急上昇中のCANDY TUNE(キャンチュー)。さらに、特典会で僕が名乗ると「トミー? わたしバンダイ派」と粋な切り返しをしてくれた、仮面ライダー好きの環木あんずさん(当時所属)がいるChick-flick。以上、計4組でした。

特に印象に残っているのは、結果発表前のMCでした。キャンチューやi-COLが会場でいい反応を得ていた中、バチュンにはどこかアウェイ感が漂っていました。そんな時、MCから「他にアピールしたい人いますか?」と問いかけがあり、バチュンのメンバーが迷いなく、すっと手を挙げたのです。(名前を伏せる意味があるのか自分でもよく分かりませんが、ここでは貫きます)

そしてそのメンバーは、1500人の前で「九字印」を披露しました。……すみません、僕も「九字印」が何なのか正確には分かっていないのですが、呪文のようなものを唱えていました。

何が言いたいかというと、アウェイの中でも、気持ちで一切引かなかった彼女に、僕は心を打たれたのです。本人にも伝えました。「また、それ」と返されるくらいには、何回も。

バチュンは新しいグループですが、応援する人たちの中には、それ以前の文脈――マリオネッ。やワルエンといった過去のグループ――をなぞるように見ている人もいます。もちろん、バチュンはその系譜ではありません。でも、そう見えてしまうことが、人によっては苦しく感じられるのかもしれません。

僕自身はマリオネッ。からなので、その気持ちに完全に寄り添うことはできない。

それでも――今回ピンと手を挙げてアピールした“あのメンバー”とは、僕にとってはバチュンからの出会いです。だからこそ、そうした文脈とは関係なく、彼女自身の言葉や振る舞いに触れられたことが、とても嬉しかったのです。

バチュンは、圧倒的な会場票を獲得し、決勝に進出しました。
あらためて、バチュンのオタクってすごいな、と思いました。

僕も、バチュンのオタクなんですけどね。

1か月後――
7月14日正午、TIF公式Xからの通知を見た僕は、会社のトイレへと駆け込みました。

【TIF2023】タイムテーブル公開!

出演は決まった。メインステージ争奪戦にも出る。それは、もう分かっていました。でも、まだ大事なことが残っていたんです――スマイルガーデンに立てるかどうか。

推しメンと初めてTIFの話をしたとき、彼女は「スマイルガーデンに立ちたい」と話していました。
2019年、TIF初出場。しかしその年は、スマイルには立てず。2020年はコロナ、2021年は台風、2022年はグループの解散。――もう、十分でしょう。ここまで、よく耐えたよ。今年こそは!そう願っていました。

だからこそ、タイムテーブルが出た瞬間、僕はトイレへと走ったのです。

個室のドアを、バン!と閉めてTIF公式サイトへアクセス。……が、アクセス過多でまったく繋がらず。「くっそ!」と吐き捨てて、リロードを繰り返す。何度やっても無理。さすがに冷静になって、ブラウザのキャッシュを削除――効果なし。「どーすればいいんだ!」と、藤原竜也ばりに苦悶の表情を浮かべながら、最終的に「ブラウザ表示じゃなくて、PDFファイルをダウンロードすればいい」という単純な真実に気づくまで、8分かかりました。

1日目のタイムテーブル、スマイルガーデンの列を上から指でなぞり、そして・・・

14:25-14:45 Merry BAD TUNE.

「あった」
合格発表のようでした。気づけば、涙がこぼれていた気がします。

そんなふうにして、いくつもの感情とともに、僕の11(+配信1)回目のTIFが始まりました。


2.真夏のユーレイ!!

TIF2023のメインステージ(HOT STAGE)は、6年ぶりに屋外の巨大ステージとなりました。フジテレビの夏イベント開催期間中は、連日、有名アーティストもライブを行う豪華なステージです。

また、コロナ対策による規制も大幅に緩和され、声出しや肩を組むといった、コロナ前のライブの楽しみ方ができるようになったことも、大きな変化でした。

この条件下であれば、あの頃のTIFにまた会えるかもしれない――そんな期待を胸に、バチュンのステージが始まるまで、お台場を歩き回っていました。

1日目の朝で印象的だったのは、chuLaのメインステージでのライブです。数年前からメインステージに立てるグループにはなっていましたが、野外の大きなステージでパフォーマンスする姿には、あらためて胸を打たれました。思わず、いろんな記憶がよみがえりそうになるほどでした。

その後も、定番グループから初見のグループまでを程よいバランスでチェックしていたら、あっという間にバチュンのスマイルガーデンでのライブの時間になっていました。

バチュンにとって、そして推しメンにとって、初めてのスマイルガーデンでのライブです。その瞬間を目に焼き付けようとしました。が、初出演の喜びを差し引いて見ると、どこか物足りなさを感じるライブでもありました。

何が足りなかったかというと――観客です。金曜日という日程のハードルもあるし、バチュン側の訴求力の問題もあったかもしれません。でも、それでも、あの景色にはどうしても空白が目立っていました。

スマイルガーデンという場所は、アイドルだけで成り立つステージではありません。あそこは、“人が集まって初めて完成する”場所です。生意気かもしれませんが、10年以上通っているので、あえて強気に言います。歓声、熱気、振り上げられた腕、ぶつかる視線――そういう全部が揃って、ようやくスマイルガーデンになるのです。

だから、もどかしかった。初めて立ったスマイルガーデンなのに、「もっと盛り上がれたはずだ」って気持ちが拭えなかった。ただ嬉しいだけでは、終われませんでした。

その後も、夕方以降はメインステージ争奪戦の決勝にラストまで拘束されるとわかっていたので、できる限り多くのステージを見て回りました。「お前、本当にバチュンのオタクか?」と怒られそうですが、決勝の裏で行われるステージも魅力的なものが多く、そっちにも行きたかったなと、少し後悔したほどです。

決勝の直前に行われた特典会でも、漫画のようなドラマチックな展開はなく、早々に切り上げて、メインステージの白キャンまで走って行ったほどです。

推しメンの決勝までに、chuLaと白キャンがたどり着いたそのステージを、ちゃんと見ておきたかったから。

そして日は沈み、メインステージ争奪戦の決勝が始まりました。

バチュン、i-COL、ドラマチックレコード、UtaGe!の4組で争います。バチュンの登場を待ちながらも、僕は、それぞれのグループの物語に引きこまれていきました。きっと、このグループたちも、僕にとってのchuLaや白キャンになる。そう確信しながら、ステージのメンバーたちと、客席のオタクたちの声援を、交互に見つめていました。

i-COLは、トークのゆるさも、ポップに見えるダンスも、細部まで計算され尽くしているように見えた。

ドラマチックレコードは、健気で儚い空気をまとっている。でも、メンバーが作詞を手がけた楽曲には、しっかりと地に足のついた強さがあった。

UtaGe!は、場をかき乱すのがひじょうにうまい。オタクをぐちゃぐちゃにして、笑わせられるグループが、フェスでは主役になる。

そして、バチュン。
ここまで他グループの感想を良い感じに書いてしまったので、それ以上の語彙を駆使して魅力を伝えようと考えましたが、どんな言葉もしっくりきませんでした。

ただ、一番よかった。

それは、当然のことなのかもしれません。
歌も、振りコピも、背景も、全部、身体にしみついているのだから。楽しくないわけがありません。

過去をさまよっていた僕の魂も、この瞬間だけは、自分の中にそっと戻ってきた気がしました。

そして、運命の結果発表。
バチュンは、メインステージ争奪戦で優勝しました。

その瞬間、メンバーは大号泣。客席も、大歓声に包まれました。

「おめでとう!」と全力で祝福しながらも、僕の魂は、またすっと身体を離れていき、喜ぶ人たちを、少し遠いところから笑顔で見つめていました。

「やったー」と胸を張るのは、やめておこうと思いました。

2日目、渋谷で開催されたバチュンの祝勝会には行かず、僕はお台場にいました。

なぜなら、TIFが好きだから。

どこか憑き物が取れたように身軽になった僕は、朝から晩まで、
いつものように、少しだけ遠巻きにTIFの景色を眺めていました。

それでも、やっぱりこの場所が好きなんだと思いました。

3.86 SUMMER FILM

2023年8月6日、TIF最終日の朝は快晴でした。

けれど予報は午後から雨。雷注意報も出ていて、空模様はどこか不穏です。「耐えてくれ、お台場!」――そう願いながら、スマイルガーデンでいつも通りのラジオ体操に参加し、音楽にあわせて大きく息を吸い込みました。

その後は、chuLaやマイディアなど、大好きなグループのライブを楽しみながら、少しずつ気持ちを高めていきました。そして向かったのは、バチュンの特典会。前日の祝勝会には参加していなかったので、優勝後に推しメンと言葉を交わすのは、これが初めての機会でした。

「おめでとう」と、シンプルに、控えめに終わらせるつもりでした。なのに、「本当にここまで、いろんなことがあって……」と、気づけば自分でフラグを立てるような言葉を口にしてしまい、こらえきれずに、涙が、ぽろぽろとこぼれてしまいました。

「うわー!」と笑う推しメン。そっちは泣かんのかい!アイドル劇場やろうや!と思わず心の中でツッコミを入れてしまいました。

あらためて、このとき撮った3枚のチェキを見返してみました。

1枚目のサインは「沢山ありがとう!!!」
満面の笑みで、僕とハイタッチする推しメン。

2枚目のサインは「涙ながしていいよ!!」
僕のタオルで涙を拭く(演技をする)推しメン。

3枚目のサインは「かみなりいや・・・!」
正面に向かって、ゴーオンポーズを決める推しメン。

この3枚は、まさにTIF2023年8月6日を象徴する記念写真だと思いました。

推しメンのサインにもある通り、お昼前には雷がゴロゴロと鳴り始めていました。

「絶対に、バチュンのメインステージは大成功する!」

特典会を終えると、悪天候を吹き飛ばすような勢いで、僕はメインステージへと駆け出しました。

そして、メインステージに到着した瞬間、絶句しました。
人、人、人――尋常じゃないほど巨大なステージなのに、すでに入場規制がかかっていたのです。

最終日のメインステージには、AKBグループやイコノイジョイ、坂道グループなど、“大人気アイドル”たちが多数出演するため、早くから人が集まるのは分かっていました。だからこそ、僕も余裕を持って向かったはずだったのに……。
そのときステージでは、クマリデパートが「サクラになっちゃうよ!」を歌っていました。今でもあの曲を耳にすると、絶望がよみがえります。

この時間で入場規制がかかっているということは、もうこのままずっと入れないのでは……と、半ばあきらめかけていました。
けれど、クマリデパートが出演していた「でびぱっぱ夏祭 in TIF2023」が終わると、場内の人が一気に引いていき、なんとか中に入ることができました。

規制の一因となっていたのが、遠い存在の“天空アイドル”だけではなく、普段から親しんでいるアイドルたちの力でもあった――それが分かったとき、胸にこみ上げてきたのは、二重の喜びでした。

なんとか入場はできたものの、そこからは暑さとの戦いが始まりました。湿度100%かと錯覚するほどの蒸し暑さ。全方位に人がひしめき合い、肌が触れ合う距離感です。このまま90分ここで耐久……〇ぬのでは? そんな不安が頭をよぎっていました。

そんな中で登場したのがAKB48でした。
タイムテーブルは、AKB48 → バラエティ企画の公開収録 → バチュン、という並び。つまり、推しメンは憧れのAKBのすぐ後にライブをすることになっていたのです。それが、どれだけ幸せなことなのか。できることなら、ずっと、あの時の気持ちを聞いていたいと思いました。

その次の公開収録では、チェアマンの長濱ねるちゃんがバチュンを紹介してくれたり、元坂道アイドルの原田アナウンサーがインタビューしてくれたり、その様子を、よゐこの濱口さんが笑いながら見守っていたり――。目の前で繰り広げられるそんな場面に、僕はあらためて思いました。

「ああ、優勝って、ほんとうにすごいことだったんだな」って。

そしていよいよ、バチュンの出番です。
雷は止み、雲の切れ間から太陽が顔を出していました。けれど僕の体調は、もう限界に近づいていました。このままじゃだめだ――こんな状態で晴れ舞台を見ても、きっと嫌な思い出になってしまう。苦渋の決断で、後方に下がろうとした、そのときです。そこに、知り合いのオタクたちがいました。

精神的にも体力的にもギリギリだった僕にとって、それは救いそのものでした。「このタイミングで一緒に見たいなんて言っていいのかな?」いつもの遠慮が頭をよぎりました。でも、迷っている場合じゃない。僕は、声を振り絞りました。

「ごめん、そこ入れてもらっていい!?」

大歓声とともに、バチュンのメインステージが始まりました。
「バチュンのオタクって、こんなにいたの!?」
そんな俯瞰の感情も、始まって数秒で吹き飛びました。僕は、オタクたちと一緒に――叫び、跳ね、ぶつかりあっていました。体力を奪っていたはずの夏の暑ささえ、味方に思えるほどに。当時のことは、ほとんど覚えていません。それくらい、あの瞬間、僕は“その場の一部”になっていたのだと思います。

20分間のメインステージは、あっという間に終わりました。僕は自販機へ直行し、アクエリアスを全身で飲みながら、「やっぱ邪魔だったよな……自分」と、ひとりクールダウンしかけていました。

「トミーさん」
そこには、同じ“ひとりのアイドル”を、ずっと見つめ続けてきたオタクが立っていました。長い時間をかけて、いろんな瞬間を共有してきた存在です。目が合っただけで、言葉よりも先に、いろんな感情が押し寄せてきました。

「よかったよね。本当に、ここまでこれてよかったね」

そう声をかけたのは、僕の方でした。
そして僕は、その日2回目の涙を流していました。

ここまでが前半戦です。
ハチロクには、まだまだ続きがあります。

僕は身体を休めるために、Zepp DiverCityのステージ「HEAT GARAGE」へ移動しました。アプガ、まねき、アンスリューム、NANIMONOなどの好きなグループを見ながら、少しずつ脈を正常に戻していきました。だいぶ回復してきたので、「そろそろ外に戻ろうかな?」と思ったその時、スマホに通知が……

屋外ステージ一部中断のお知らせ

屋内にいたので気づいていませんでしたが、ついに夏空が本気を出しはじめ、豪雨と雷鳴が、お台場を襲ったのです。

もし、空が1時間早く暴れはじめていたら――
バチュンのメインステージも、中止になっていたかもしれません。

その点では、天気に恵まれていました。ただ、まだ気は抜けません。夕方、湾岸スタジオ屋上のスカイステージで、最後のライブが控えていたのです。

でも、このときの僕は、どこか余裕のある顔をしていた気がします。10年前――2013年のTIFで体験した、ドロシーリトルハッピーのステージ。雷でライブが中止になったあの年、翌日の振替ステージは奇跡のように成功を収めました。その記憶と、朝から続いてきたバチュンとのドラマチックな一日が、「きっと、雨は止む」と、僕に言い聞かせていたのだと思います。

数分後、空はほんの少しだけ機嫌を直し始め、屋外ステージも徐々に再開されていきました。けれど、スカイステージは屋上という特性上、雨や雷への警戒がより厳しく、僕が屋外へ戻ってきたときには、まだ再開のアナウンスは出ていませんでした。

再開されるか分からないスカイステージの待機列に並ぶか、それとも他のステージを回って、いま確実に楽しめるライブに向かうか――選択肢はふたつ。
僕は、迷いなく前者を選びました。

待機列に並ぶと、Task have Funの「3WD」が聴こえてきました。あのカッコよくて弾けた曲に誘われるように、オタクたちの大声と横移動の気配も伝わってきます。――もう、コロナ禍は明けたんだ。あの頃の熱気が、戻ってきてる。天気だって、きっとバチュンに味方してくれるはず。

そして、その想いは、TIFへ届きました。

メインステージが“動”の熱狂だとしたら、スカイステージには“静”の美しさがありました。ステージへ向かう途中、上からメンバーが手を振っているのが見えました。夕暮れの光を浴びたその姿は、まるで神の使いのように思えました。

夕暮れのスカイステージでライブをしたい――
そんな話を、推しメンとは出会った頃から、ずっとしてきました。
まさかそれが、こんな形で叶うなんて。
「報われた」という言葉が適切かは分かりません。
でも、2023年のTIFは、全てが僕たちの味方になってくれた。
そんな気がして、胸の奥で何度もその思いを噛みしめました。

ライブ中、隣でオタクが泣いていました。
そっか、バチュンって、こんな泣かせ方もできるんだ――そう感心しながらも、ふと自分は泣いていないことに気づきました。
少しだけ、いつもの自分に戻った気がしました。

バチュンの全ステージが終わっても、TIFはまだ終わりません。
スマイルガーデンに戻った僕は、たぎるドーパミンの放出先として、Appare!を選びました。わちゃわちゃの輪に突っ込んでいく――最終日の夕方とは思えない選択でした。

その後もタイムテーブルが続く限り、僕は何かに背中を押されるようにステージを走り回りました。

そして、最後に僕が選んだのは、「スナックうめ子」というトークステージ。元アイドリング!!!の2人がMCを務める、TIF恒例の企画です。2023年を駆け回ったこのTIFを、最後は少し過去とつなげて終えるのも、悪くないなと思ったからです。

その場で、ゲストのよゐこ・濱口さんが、こんな言葉を口にしていました。

「お台場に着いたとき、久しぶりに声出しが解禁されててさ。オタクたちの“うぉー!”って歓声が聞こえてきて。ああ、これがTIFやって……泣きそうになったわ」

その瞬間、僕は大きくうなずいていました。
――そうだ。これが、TIFだ。

たくさんの場面と感情を抱えて、僕の「86 SUMMER FILM」は、まだ帰りたくないオタクたちの笑顔に囲まれながら、少し賑やかにラストシーンを迎えました。


4.ボクらのBAD TUNE.


※実はこの4章、3章よりも先に書いていたものです。 思いのほか3章に熱が入りすぎてしまい、あらためて読み返すと、自分でも少し温度差を感じる文章になっていました。

とはいえ、これも僕の一部です。1章、2章を読んでくださった方には、リンクする部分もあると思いますので、このまま残すことにします(……というか、時間もないのでw)

激動の3日間が終了した夜、僕はこんなポストをしていました。

「楽しかった」ではなく「良かった」と書くあたりが、自分らしいなと思いました。
バチュンがメインステージ争奪戦で優勝し、推しメンが悲願のスマイルガーデンに立ち、そして天気までも味方をしてくれた。
これ以上ないハッピーエンドのTIF2023だったはずなのに、僕は言葉を選んでいました。

たぶんあのときの僕は、「おめでたいから赤飯を炊かないとな」って思うのに似た感覚だったんだと思います。
実際、ちゃんと炊いたんです。
でも、食べてみたら、なんだか味がしなかった。

嬉しいはずなのに、どこか実感がわかない。
そのズレごと抱えたまま、TIFは終わっていきました。

「僕の主現場はアイドルフェスです」――そんなふうに、本気と冗談を半分ずつ混ぜて言うことがあります。ズルい言い回しだな、と自分でも思います。でもそれは、立ち位置を決めきれないオタクの、自衛でもあるのです。

決して良い子ぶるつもりはないのですが、立ち位置を決めてしまうと、誰かを肯定する代わりに、誰かを否定してしまう気がして――
それが嫌で、僕はいつも、ぐるぐると周回しているのだと思います。そして、たぶんそのぐらつきこそが、僕を不安定にしていたのだと思います。

自分にとって、TIFという場はやっぱり大切で。
ある意味、2023年のTIFを“楽しむこと”には成功したのかもしれません。だからこそ、バチュンに気持ちを極振りすることができなかった。きっとあの場には、もっとたくさんの嬉しさや高揚感の断片があったはずなのに、僕はその多くを、拾いきれずに通り過ぎてしまったような気がしています。

2023年の正月、お台場に行って、スマイルガーデンの前で写真を撮りました。そして、こんなポストをしました。

……よく言うよ、と思いました。

未完成ナイトライダーに限らず、曲の途中でシンガロングが始まりそうになると、僕は毎回ドキドキしはじめます。隣の人が、僕と肩を組むのが嫌だったらどうしよう――そんな不安がじわじわとこみ上げてくる、あの感覚。

僕はそれを、勝手に「シンガロングアラート」と呼んでいます。
ひとつになれないオタクが、ひとつになることを願っている。
滑稽だな、と思いました。

でも、笑いながらも、惨めだなーって思いながらも――
それでも、まだ自分が間違ってるとは思えないんですよね。

「自分は何もしてない」みたいな発言をすると、魔法の言葉「そんなことないよ!」が、滝のように降ってきます。
もちろん、それが善意から来ていることは、わかっています。

それでも――

僕は、「そんなことある」から自分を保ってるんだよ、って言いたくなるんです。

いろんなオタクがいます。
推しのために生きているオタク、多動に全力のオタク、
「水飲んだらうめー!YATTA!」でいいのに、いちいち意味づけをしてしまうオタク。

それぞれが、それぞれの音を鳴らして、やがてひとつの現場ができあがっていきます。

僕の音は、少しひねくれていて、よく濁っていて、
拍がずれていたり、途中で小さくなったりもしたけれど。

それでも、ちゃんと鳴っていたと思います。
誰かとぴったり重なりはしなくても、あの夏、TIFのなかに、僕の音も混ざっていた。

それが、

ボクの――

ボクらの……

やめときます(笑) 以上、バチュン大特集回でした!

――

別に、誰かのために書いているわけではないんです。
あえて言うなら、自分のために続けてきたこのnote連載。
2023年編は本当に、どう書くか悩みました。

何度も構成を練り直して、書いては止まり、また書いて――
結果として、耳キーンってなるくらい高低差のある構成になってしまいました。
でも、関ヶ原から帰ってきて、AIに支えてもらいながらも、2日で12000字を書ききった。
それだけは、自分で自分をちょっと褒めてあげたいなと思っています。

そして今回、いちばんの収穫だったのは――
俯瞰者だと思っていた自分が、思っていた以上に“当事者”だったんだと、気づかされたことかもしれません。

次回、いよいよ2024年編。
連載は一旦、そこで区切りとなります。最後まで読んでもらえると嬉しいです。


おまけ
今回のサムネの写真ですが、実はバチュンと縁がある場所です。
分かった人はこっそりおしえてください。何か差し上げます。



【出典リンク】
・TOKYO IDOL FESTIVAL 2023
https://official.idolfes.com/s/tif2023/

・Merry BAD TUNE.公式X
https://x.com/merrybadtune

・関ケ原唄姫合戦2025
https://sekigahara-idolwars.net/

・第27回参議院議員通常選挙 参院選2025
https://www.soumu.go.jp/2025senkyo/

【動画リンク】
未完成ナイトライダー
https://www.youtube.com/watch?v=hjP3lR2Rkzo

・真夏のユーレイ!!
https://www.youtube.com/watch?v=C9EyKBvtbwQ

・86 SUMMER FILM
https://www.youtube.com/watch?v=9GVVQiWuSQg

・ボクらのBAD TUNE.
https://www.youtube.com/watch?v=XHF6-GBSQSc

・【MV】パラリラダンス/i-COL
https://www.youtube.com/watch?v=0-S9di6Sh1I

・陽炎 / ドラマチックレコード
https://www.youtube.com/watch?v=k-j_DBnX6g0

・【MV】さわげ!うたげーしょん! / UtaGe!
https://www.youtube.com/watch?v=81eV5XW62Ww

・クマリデパート / 「サクラになっちゃうよ!」MUSIC VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=GqHgH1Mt62g

【参考リンク】
・はっぱ隊(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%A3%E3%81%B1%E9%9A%8A