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強引な勧誘に完敗/他人の不幸は蜜の味 #13

「一緒に帰ろうぜ」

こちらは住んでる場所も言ってない、帰りの方向も知らないのに何言ってんだ?

駅までならと思いながら、彼と一緒に歩く。

「オレ、今日は忙しいけど、今度飲みに行こうぜ」彼が言う。

「そのうち行きたいですねー」とテキトーに返事をした。

すると、「じゃあ、電話番号教えてよ」と、彼はケータイを取り出した。

そのうち行きたいなんて言ってしまった手前、教えたくなかったが、断りにくかった。

仕方なくボクがケータイの番号を教えると、相手がワン切りでボクに電話をかけた。

ふと思い返すと、ヒマで仕方ないからこの仕事に来たのに、今日は忙しいのかという不信感。

(たまたまか?)

「普段はヒマだって言ってたのに、今日は忙しいんですね?」と、ボクは意地悪な質問をしてみた。

すると、彼は「今日は新宿ですっげぇ人が話するんだよ。だからそのセミナー聞きに行くんだわ」と言った。

すっげぇ人?セミナー?彼の口からはボクには聞き慣れない怪しげな単語ばかりが飛んでくる。


「まあ、俺もその仕事やってて、それなりに偉い方だけど、今日話す人のセミナーはなかなか聞けねぇからさ」

彼の台詞に対し、「偉い人が派遣かよ」と、心の中でツッコミを入れていると、続けてこうも言ってきた。

「俺がその会社行くと、みんながペコペコ頭を下げて来るけど、今日これから話してくれる人は、そんなレベルじゃないぜ」

彼の言葉に反応して、「そんなすごい人の話が聞けるなんて羨ましいですね」と、ボクは心にも無い言葉を返した。

すると、彼は何か閃いたといった表情を浮かべ、ボクにこう言ってきた。

「それなら今から一緒に行こうぜ、本当はダメなんだけど、俺が頼み込んでセミナーに参加できるようにしてやるよ」

全く想定外の言葉にボクは驚いた。

特に行く気もなく、というよりそんな当日で、いきなり…ボクが答えに困っていると、彼は更に畳みかけて来た。

「セミナーが終わってからなら今日飲みに行けるし、さっきは今度飲み行こうって言ったけど、今度より今日だな」

「なるほど!」とは、思わなかった。


えらく強引な誘い方をしてくる男だな、と思った。

まだボクが行くとも行かないとも言う前に彼はケータイで誰かと電話を始めた。

「何とか席は押さえられたから大丈夫だ、行こうぜ」

断ることも出来たかもしれないが、既に席も押さえてくれたようだし…という申し訳なさが勝ってしまった。

場所は新宿だと言うが、そこに着くまで彼に色々と質問した。

はぐらかされるばかりで、一向にこちらが望んだような返答はなく、不安になる一方だった。

こちらの質問には答えてくれないが、ボクが聞いてもいない年齢の話になり、彼が3つ年上だということが分かったくらいだった。

「行きますけど、何か買わされたりしないですよね?」と、ボクが言うと彼は答えた。

「無理やり何か買わせるとかしねぇよ、そんなこと俺がしたらクーリングオフするか警察にでも連れて行けよ」


妙に強気だったが、確かに最悪は110番に電話だなと思い、ケータイは奪われないようにしようと思った。

場所は正確にいうと西新宿だった。

そして、彼の言う会社が入っているというビルに着いた。

ところが、彼にペコペコする人はおろか、挨拶して来る人すらいなかった。


今日の会場は別にあると言い、そちらに向かう。

その会社があるという場所から少し離れたビルの一室に連れて行かれた。

狭い部屋にはパイプ椅子が所狭しと置いてある。

前にはホワイトボードとプレゼンの資料を映し出すスクリーンがあるくらいだった。

ガヤガヤと人が入って来て、よく見ると椅子に座り切れずに立ち見の人もいた。

遅く来た人は、もう立ち見ですらスペースが空いていなく、入室制限なのか断られていた。

ボクを連れてきた男は「お前に席を譲っちまったから俺は聞けなくなっちまったわ、終わったら電話くれよ」

そう言うと、部屋から出て行ってしまった。

「変な話だったら、セミナー終わった後は電話しないで勝手に帰るとするか」

そう思うと、少しボクの気ボクは楽になった。

ヒトタラヲ

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