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最強の学習法は存在しない

こんにちは、たもちです。 エンジニア兼心理学ライターをやっています。

このnoteでは主に心理学的な観点に基づいたITに関する記事を提供しています。
本記事は100日間連続投稿企画、第5回の内容となります。

今回は心理学寄りの内容、専門的な知識は不要で、資格試験や自己学習など、勉強する多くの人にとって有益なものとなっています。

それでは以下、本編です。


最強の学習法は存在しない

1. はじめに:「最適な学習法」は人によって違う

勉強といえば参考書を読み、問題集を解いて、教室で講義を受ける。
そんな従来の勉強の姿も、近年のインターネットの普及や通信技術の発達に伴って変化を遂げつつあります。

特に、スタディサプリやYouTube、Udemyなどでの講義動画や教材の配信は、今時の学生にとって当たり前のものでしょう。
一方で、紙の参考書や電子書籍での学習も根強い人気があります。

となると、このような学習方法による効果の違いも気になりませんか?

「動画の方が視覚的で分かりやすい」「参考書の方が自分のペースで繰り返し読めて頭に入りやすい」――様々な意見がありますが、ことはそう単純ではありません。

実際のところ、人によって適した学習方法は異なるということが心理学研究から明らかになりつつあるのです。

適性処遇交互作用という考え方

これを示すものとして、教育心理学では、「適性処遇交互作用(ATI: Aptitude-Treatment Interaction)」という概念があります。
これは、学習者の特性(適性)と教授方法(処遇)の組み合わせによって、学習効果が変わるという考え方です。

つまり、「誰にとっても最良」の教材・方法は存在せず、個人の特性(×学習内容)×学習方法の「組み合わせ」で効果が決まるのです。


以下に示すような視覚型の人が動画で成功した体験談も、言語型の人が参考書で成功した体験談も、どちらも「その人には」正しいのですが、万人に当てはまるわけではありません。
「動画vs参考書」などという二項対立的な論争も不毛です。

学習の効果は、学習法単体で決まるものではなく、個人の特性と学習対象・学習法の掛け合わせによって決まるというモデルから、最適な学習法を選び取る方法について、見ていきましょう。


2. 認知特性とは:3つの「思考スタイル」

個人の特性は非常に複合的なもので、性格、知能、動機づけなど、様々な指標が存在しています。
その中で今回取り上げるのが、認知特性、特に「表象スタイル」と呼ばれるものです。

これは、日常生活の中で情報をどのように処理し、思考するかの傾向を表すもので、大きく3つのタイプに分類されます。

物体視覚思考:映像的イメージを鮮明に思い浮かべる

映像や画像として情報を処理するタイプです。小説を読んでいるとき、登場人物や風景が映画のように鮮明に頭の中に浮かぶ人はこのタイプが強いでしょう。
具体的には以下のような特徴があります:

  • 人の体験談を聞くと、その情景が生き生きと想像できる

  • 写真のように鮮明な記憶を持っている

  • 考え事をするとき、絵や映像的なイメージを使うことが多い

空間視覚思考:立体や位置関係の把握が得意

こちらも視覚的な思考タイプですが、こちらは画像そのものよりも、空間的な配置や関係性の理解に長けています。

  • 地図を見るとすぐに自分の位置がわかる

  • 頭の中で立体図形を回転させてイメージできる

  • 建物の見取り図や平面図を描くのが得意

道案内をされたとき、目印よりも「方向感覚」で目的地に辿り着けるタイプです。

言語思考:言葉で考え、文章処理が得意

視覚情報よりも、言葉や文章として情報を処理するタイプです。

  • 文章を書くとき、適当な言葉が次々に浮かんでくる

  • 文章で自分の気持ちを相手にうまく伝えることができる

  • 難しい文章でも比較的速く読める

  • 文章のちょっとした誤りによく気がつく

これらは完全に分かれているわけではなく、人はそれぞれの傾向を程度の差で持っています。ただ、どの傾向が強いかによって、学習方法との相性が変わってくるのです。

3. 認知特性と学習メディアの相性

では、これらの認知特性は学習方法とどう関係するのでしょうか。

視覚型(物体・空間)と動画の親和性

物体視覚思考や空間視覚思考が強い人は、動画学習との相性が良い傾向があります。

動画は視覚情報と聴覚情報を同時に提供するメディアです。
映像的なイメージを鮮明に処理できる物体視覚思考型の人にとって、講師の説明とともに図やアニメーションが表示される動画は、効率的に情報を吸収できる形式と言えます。

また、空間視覚思考型の人は、動画内での物の動きや配置の変化を直感的に理解できるため、特に空間的・立体的な内容を学ぶ際に有利です。

言語型と参考書の親和性

一方、言語思考が強い人は、テキストベースの参考書との相性が良い傾向があります。

参考書は文字情報を中心に構成されており、自分のペースで読み進め、何度も読み返すことができます。
言語処理が得意な人にとって、文章から情報を抽出し、理解し、記憶することは自然なプロセスです。

また、参考書では図や写真は補助的な役割に留まり、主要な情報は文章で説明されます。
これは言語思考型の人が最も効率的に処理できる形式です。

研究からの示唆

実際、私が卒業研究で大学生を対象に行った調査では、視覚イメージ処理の傾向が強い学生ほど、学習において動画メディアを選択する傾向が見られました。

これは、人が自分の認知特性に合った学習方法を(無意識的に)選んでいる可能性を示唆しています。

4. 学習内容による使い分け:相性の良い組み合わせ

認知特性だけでなく、学習する内容によっても適切なメディアは変わります。

動画が特に有効な学習内容

以下のような内容は、動画メディアの強みが最大限に発揮されます:
外国語学習(発音・イントネーション)
英語の発音やリスニング、会話表現などは、実際の音声を聞くことが不可欠です。ネイティブスピーカーの口の動きや抑揚を視覚的・聴覚的に捉えられる動画は、参考書では得られない情報を提供します。

運動技能(フォーム・動作の流れ)
スポーツの技術、ダンス、楽器演奏など、身体の動きを伴う学習では、動画が圧倒的に有利です。テキストで「膝を曲げて、腰を回転させ…」と読むより、実際の動きを見る方が遥かに理解しやすいでしょう。

実験手順や機器操作
科学実験の手順、ソフトウェアの操作方法、料理のレシピなど、時系列で進行するプロセスを学ぶ場合も動画が効果的です。「次にこのボタンを押して…」という説明を、実際の画面や手元を見ながら理解できます。

参考書が特に有効な学習内容

一方、以下のような内容では参考書の利点が際立ちます:

概念理解や理論(哲学、思想など)
抽象的な概念や複雑な理論を深く理解するには、じっくりと考える時間が必要です。参考書なら、難しい箇所で立ち止まり、前のページを読み返し、自分のペースで咀嚼できます。哲学的な深い内容や経済学・心理学などで扱う抽象的な理論を学ぶときは、動画よりも、書籍でじっくり読む方が向いているでしょう。

数式や統計手法(数学、物理、心理統計など) 数式の導出過程や統計分析の手法は、一つ一つのステップを確認しながら理解する必要があります。動画では流れていってしまう式の展開も、参考書なら自分の手を動かしながら追うことができます。

体系的知識の構築
歴史の流れ、生物の分類体系、法律の条文間の関係など、全体像を俯瞰し、各部分の関連を理解する必要がある内容は、参考書が適しています。前後のページを行き来したり、目次から全体構造を把握したりすることで、知識を体系化しやすくなります。

5. 実践的な示唆:自分に合った学習法の見つけ方

では、私たちはどのように自分に合った学習法を見つければよいのでしょうか。

自分の認知特性を知る

まず、自分がどのタイプの思考傾向が強いかを知ることが第一歩です。以下のような簡易チェックが参考になります:

  • 小説を読むとき、場面が映像として浮かぶ → 物体視覚思考

  • 道案内では方向感覚で進める → 空間視覚思考

  • 文章を書くとき言葉がスラスラ出る → 言語思考

より詳しく知りたい場合は、RSI(表象スタイル質問票)などの心理尺度も存在します。

複数の方法を試す柔軟性

自分の傾向がわかっても、決めつけは禁物です。
実際に複数の方法を試して、「しっくりくる」感覚を大切にしましょう。

ある科目では動画が合っていても、別の科目では参考書の方が理解しやすいということは十分あり得ます。
「効率が悪い」「頭に入らない」と感じたら、別の方法を試す柔軟性が重要です。

ハイブリッド学習のすすめ

なお、メディアを組み合わせる「ハイブリッド学習」も効果的です。
例えば:

  • 動画で全体像を把握 → 参考書で詳細を深掘り

  • 参考書で理論を学ぶ → 動画で実践例を見る

  • 動画で発音を学ぶ → 参考書で文法を固める

このように、それぞれのメディアの強みを活かした組み合わせが、最も効率的な学習につながることもあります。

学習コストも考慮する

理想的には、認知特性と学習内容に最適なメディアを選びたいところですが、現実には時間や費用といった制約もあります。

  • 通勤時間には音声メディアやスマホで見られる動画

  • じっくり時間が取れるときは参考書で深く学ぶ

  • 試験直前は要点がまとまった参考書で復習

このように、状況に応じた柔軟な選択も必要です。

6. おわりに:「最適」は一つではない

「最強の学習法」を探し求める気持ちは分かります。
しかし、心理学研究が示すのは、万人に常に最適な学習法は存在しないという事実です。

学習効果は、あなたの認知特性、学習する内容、選択する方法、そして学習環境や目的など、複数の要因の相互作用によって決まります。

だからこそ大切なのは、自分自身をよく理解し、状況に応じて最適な学習デザインを選択する力です。
他人の成功体験に惑わされず、自分に合った方法を見つけることが、最も効率的な学習への近道なのです。

動画も参考書も、それぞれに長所と短所があります。あなたの特性と学習内容に応じて、賢く使い分けていきましょう。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。 次回もお楽しみに!


参考

  • 五十嵐・高橋(2013). 『言語型 ・ 視覚型学習スタイル別にみた課題特性による方略選択』

  • 川原 正広・松岡 和生(2009). 視覚的イメージスタイル質問紙作成の試み イメージ心理学研究 7, 19-31.

  • 鈴木克明(1985). 教授メデイアの選択に関わる要因 視聴覚研究16, 1-10.

など

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