【短編小説読み切り】『ギャルは世界をちょっとずつ直していく』いんた~みっしょん
ギャル×観察力×救い。
ミユは、相手の心を瞬時に読み解いて核心へたどりつく。
ワームホールみたいに理解の順番を飛び越えて届く彼女の一撃。
そこに“惚れてまうやろ”の理由がある。
「ワームホール理論で人間関係をぶった斬る @ミユの共感スキルがバグってる件」
3連休の2日目。
たび.は今日も出勤して、広いオフィスにひとり。
休みの日の蛍光灯は、なんだかやけに白い。
コーヒーの香りだけが漂って、心の奥にある“空洞”みたいなものをくすぐる。
なんか最近、胸の真ん中に風が吹きこむ感じがする。
仕事を断れなかった案件が積み重なるたびに、そこが少しずつ削れていくような。
そんな静寂の真ん中に天上の空気が、急に「パリ…ッ」っと割れた。
たび.「…? なんだ⁈」
見上げた瞬間、空間がゆっくりねじれ、渦を巻きながら空気が吸い込まれてゆく。
やがて、くるんと回ってワームホールが小さく開く。
ぽんっ。
まぬけな音といっしょに、金色の毛先がひらりと垂れた。
触れたら消えそうな細い光の粒が、その髪から舞い落ちる。
たび.「え、ちょ…あわばばば…⁈
ええ〜〜…貞子…?…」
次の瞬間、穴の中からミユが転がるように落ちてきた。
靴が床を叩く、軽い着地音。
ふわっと髪が広がって、フルーティーな甘い匂いが一気に広がる。
たび.の目線が、つい下をかすめる。
「……あ!..でも黒……」
ミユ、固まる。
(あ、やば……。オレ、最近こういう軽口すら言えてなかった気がする。)
ワームホールは「ワシ、知らん」みたいな態度でしゅん…と閉じた。
「は? なに色チェックしてんのよ変態。
これ見せパンだし!!
うん? ……じゃ..ない!!」
耳まで真っ赤。
「このエロじじい!! 訴えてやる!!!」
イスをガンっと蹴って回し始める。
「待て待て待て! ちょ、回すなって!!」
「だれが貞子よ。はい回る〜!」
「やめろって! 酔う~🌀!」
止まった反動でたび.がふらつくのを見て、ミユは鼻で笑う。
そのままオフィスを歩き回り、フルーティーな匂いを撒き散らしながら山積みの書類にふれる。
「ねえ、この書類の山なに? 地層? 遺跡?」
「触るな、それ提出前の契約書」
「はい、聞こえませ〜ん!」
ミユ、数枚だけシュバッと抜き取って、紙吹雪みたいに散らす。
「ちょおおお待てって!!」
「ほらほら、こうやって動かすとすぐ崩れる。効率悪ぅ。散らかって困る働き方してる方が悪いんだよ。」
「俺が悪いの?これ、悪いの?」
ミユは知らん顔でコピー機にひょいと座る。
「はい質問タ~イム。
休日にひとりで残って、あんた何の宝物拾えるわけ?」
「質問形式やめろ……ないよ、そんなの。」
「だよねぇぇぇ!!」
その声に反応したみたいにコピー機がブオォンと動き出す。
「何押した⁈」
「知らん! てかあたしが座ると全部動くんだよね〜♡」
スキャンされたのはミユのお尻の輪郭。
「やめぇーーいーー!!」
ミユはゲラゲラ笑って、コピー用紙をひらひらさせる。
「いや~ん保存版♡」
「捨てろ!! おれの作品の世界観がぁ~~!!」
軽くかわして机にぴょんと飛び乗るミユ。
その瞬間、空気が少し静まる。
「ねぇたび.。
あんた、なんでこんなとこでひとりで戦ってんの?」
たび.は言葉に詰まる。
「……別に、戦ってねえよ。」
ミユ「じゃあ負けっぱなしじゃん。」
たび.「言われたくねえわ、キャラに…..」
この“無自覚に刺す言葉”が、地味に効く。
たび.が少し黙ったタイミングでミユが机から飛び降りる。
「よし。じゃ、あとは落ち着いて話すよ。」
「わかったよ…..じゃ、せっかく来たんだから、これでも食べ。ミユの好きなカレーめんだよ。」
ミユはカップめんをひったくると、近くのポットからお湯をそそぐ。
「あんた、これ自分で食べる予定だったんでしょ。」
「ん? まあ、そうだけど。」
「ふーん。」
ミユ、なぜか鼻で笑う。でも目の端だけ、ほんの少しやわらかい。
「……さ、食べよ。あたし腹減ってんだよ。」
「で、さあ
たび.こういうとこだよ。 やさしさの使い方、間違ってんの。」
ミユはくるくる回っていたイスに逆向きでまたがり、たび.を指でツンとさす。
「休日出勤? 頼まれた? 断れなかった?
……は? なにそれ。『嫌です』の一言も言えないの?」
ミユは机をドンッと押す。
「嫌なもんは嫌って言えよ。
言わなきゃ一生パシリ。
“やさしい”んじゃなくてさ、あんた、ただビビってるだけじゃん。」
たび.「……言い方。」
ミユは一瞬だけ目を伏せる。
その声が、さっきより少しだけ柔らかくなる。
「……でもね。ビビるのは悪いことじゃないよ。
怖いから立ち止まるし、休める。
でも“言わないまま”は違う。自分のこと置き去りのまま働いてるの、見ててさ……ちょっと胸が痛いんだよ。」
フルーティーな香りが揺れて、ミユの目がたび.をまっすぐ刺す。
「甘やかしてんのは相手じゃなくて、自分。
自分が傷つく方に逃げたら、“いい人”のフリできるからでしょ?
でもそれ、あんたの人生ほったらかしってだけだよ。」
たび.「……やめろ。静かに刺すな。効く。」
ミユ「効いていいんだよ。効かないと変わんないし。」
彼女はため息ひとつ。
「ねえ、たび.。
あんたさ、自分の人生ほったらかしにして、
誰かの都合ばっか拾って生きてて、
それ……かわいそうだろが。」
めんをふーふーしながら、ミユの声がちょっとだけ静かになる。
「……あたしが来た意味、わかるよね?」
「ワームホールは、あんたの心の穴。
職場で削られて、しんどくなって、ぽっかり空いたその穴に風が吹きこんで、世界がめくれた。」
「あんたが疲れてんの、仕事のせいじゃないよ。
“誰にも気づかれてない”って思ってるせいだよ。」
「ったく、放っとけないんだけど?」
たび.は黙ったまま、目線だけ落とす。
ミユは、カレーめんの器を机に置いた。
コトッ、と小さな音。
「ほんと、そういうとこダサいんだよ。でも嫌いじゃない。……だから言っとく。次は断れ。」
たび.「………ミユ。…」
ミユ 「はい。がんばんな。 ……今日だけ、味方してあげる。」
ミユは立ち上がり、ポケットから缶コーヒーを取り出してたび.の前に置いた。 その言い方はそっけないのに、耳までほんのり赤い。
ミユ「じゃあ、帰るわ。
ワームホール!!
開けんぞ! ゴルアアー!!」
ワームホールが開き、ミユが飛び込む。
その直前。
彼女はふいに振り返って、口元だけ少しゆるめる。
「たび.。……だいじにしろよ、自分の時間。
誰かの都合で削られるほど、あんた安くないんだから。」
ぽんっ。
ミユが消える。
静寂。
コーヒーの甘くて苦い香りだけが残る。
たび.は机に突っ伏したまま、しばらく動けなかった。
胸の奥で何かがほどけていく。
耐え切れずに叫ぶ。
「……ミユ……そんなの……惚れてまうやろーー!!!」
ビルのどこかで、たぶん清掃員がびくっとした。
おわり
「はいはい、今日はこのくらいで許したる。
あんたらさ、あたしの言葉にちょっと刺さってるくせに、顔に出さないんだね。まあ、いいや。 困ったら呼びな。
ワームホールはサービスで開けてあげるし♡」
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