【短編小説】ギャルは世界をちょっとずつ直していくvol.8
恋だとは思ってなかった。
ただ一緒にいると時間が早く進むだけ のはずだった。
同い年の彼と、なんとなく寄り道した駅前のゲーセン。クレーンゲーム、プリクラ、距離が近すぎる帰り道。
それを「デート」だと認めたくないミユは、今日も軽口でごまかす。
これは、恋に落ちた瞬間を見事に見落としたギャルの話。
気づいたときには、もう負けている。かわいいのに不器用。強気なのに一瞬で赤くなる。
あっ、あと、世界はちょっとも直さない。
自分で手一杯・・・

「それ、もうデートだって気づくまで」
ミユは、自分が恋をしているとは思っていなかった。
同い年の彼は、特別かっこいいわけでも、やさしい言葉をくれるわけでもない。
ただ、話していると時間が早く進む。
それだけの人だった。
「ねえ、まだ帰んないよ」
帰り道でそう言ったら、彼はきょとんとした顔をした。
その顔が気に入らなくて、ミユは勝手に腕を引っ張る。
「ちょ、どこ行くの」
「いいから。ついてきなって」
向かったのは駅前のゲーセン。
ネオンがうるさくて、音がでかくて、なんか落ち着く場所。
「ほら、クレーンゲーム。あんた取って」
「急だな」
「いいから。取れなかったら一生バカにする」
彼は文句言いながらも、真剣な顔でレバーを動かす。
その横顔を見てるのが、なんか楽しい。
一回、二回、三回。
落ちそうで落ちないぬいぐるみ。
「下手すぎ」
「ミユがうるさいからだろ」
「はいはい、言い訳〜」
四回目で、ぬいぐるみが転がり落ちた。
拍子抜けするくらい、あっさり。
「……取れた」
「やればできるじゃん」
ミユはそれを奪うみたいに受け取って、胸に抱えた。
妙にあったかい。
「それ、ミユの?」
「当たり前じゃん。あんたが取ったんだから」
意味わかんない理屈だけど、彼は何も言わなかった。
そのまま流れでプリ機に入る。
距離、近い。
近すぎ。
「落書きすんの下手」
「うるさい、初めてなんだよ」
「は?人生損してるでしょ」
画面に映る二人は、やけに楽しそうで、
ミユはそれを直視できなかった。
帰り道。
ぬいぐるみを抱えて、プリをカバンに突っ込んで、いつもよりしゃべる。
別れ際、彼が言った。
「今日は楽しかったな」
「……そりゃどうも」
平静を装って手を振って、角を曲がった瞬間、ミユは立ち止まって息を吐く。
家に帰って、ベッドに座って、ぬいぐるみを見る。プリを出す。二人で並んで笑ってる。
……これ。
「デートじゃん」
声に出した瞬間、顔が一気に熱くなる。
耳まで赤い。
無理。
明日、どんな顔すればいいの。
目、合わせられる気しないし、
軽口叩いたらバレそうだし、
普通にしたら逆に変だし。
ミユはぬいぐるみを抱きしめて、
ベッドに突っ伏した。
「……もう知らない」
でも、スマホはずっと、彼の名前の画面のままだった。

翌朝。
ミユは鏡の前で三回ため息をついた。
顔、まだ赤い気がする。
というか絶対赤い。
昨日のプリ、昨日のぬいぐるみ、昨日の距離。全部が脳内で再生される。
「無理なんだけど」
そう言いながら家を出て、結局いつもの時間、いつもの場所。
彼は、もういた。
いつもどおりの顔で。
「おはよ」
……それが一番キツい。
「……はよ」
声、ちょっと裏返った。最悪。
沈黙。
気まずい。
ミユは耐えきれず、軽口を投げる。
「てかさ、昨日あんた調子乗ってたよね」
「え、そう?」
「プリとか。距離感バグってたし」
「そうかな」
そう言って、彼は首をかしげる。
本気でわかってない顔。
「昨日、楽しかったな」
心臓、変な音した。
「……は?」
「ゲーセンもプリも。普通に」
普通に言うな。
そんな顔で言うな。
ミユは視線をそらして、早口になる。
「べ、別に? あれは暇つぶしだし? たまたまだし?」
「うん」
「デートとかじゃないし?」
「デートだったら、ダメだった?」
足、止まった。
「……は?」
彼は少しだけ困った顔で笑った。
昨日、クレーンゲームやってたときと同じ顔。
「ミユが楽しそうだったからさ」
それ以上、何も言わない。
ずるい。
ミユはカバンの中を探って、プリを一枚引っぱり出した。ぐしゃっと折れてるやつ。
「……これ」
「なに?」
「持っときなよ。二枚あるし」
「いいの?」
「いいって言ってんじゃん」
彼はそれを受け取って、少し照れた。
その瞬間、ミユは悟った。
あ、負けた。
「……ぬいぐるみ」
「ん?」
「昨日の。あれ」
「ああ」
「……あれさ」
ミユは一瞬だけ黙ってから、ぼそっと言った。
「……ベッドに置いてる」
彼が吹き出した。
「かわいいな」
「うるさい!!」
顔、真っ赤。
完全アウト。
ミユは歩き出しながら、捨て台詞みたいに言った。
「……次は、あんたが連れ回す側だからね」
彼は後ろで笑ってる。
最悪。
でも、胸の奥は、最悪じゃなかった。
つづく
このあとミユは、たぶんこう言う。
「ちがうし」「まだだし」「偶然だし」。
普段は強気で、軽口で、作者を振り回す側なのに、恋が絡んだ瞬間、びっくりするくらいポンコツになるのがミユ。弱ってるいまがいちばん、おもしろい。
だが、
ミユ以上に作者がポンコツでした。
いや、あの、その…
ジジイですが、どうにかしてアオっぽいのを書きたかったのです。ゴメンなさい、ゴメンなさい、もう、しませんからww
最後まで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。
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