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天下を終わらせた男〜短刀の鞘〜第二十四章 盤面

霧の朝。

上田城。

城門の上から、ひとりの男が遠くを見ていた。

真田昌幸。

家臣が駆け上がる。

「徳川軍、接近」

昌幸は小さく頷いた。

「そうか」

わずかに笑う。

「始まったの」

家臣が問う。

「戦で御座いますか」

昌幸は首を振った。

「戦など、まだよ」

遠くを見つめる。

静かな声。

「これは――」

「盤じゃ」

そして小さく呟く。

「治部め」

「よう打ったの」

霧の向こうに、まだ見えぬ戦を見ていた。


徳川本陣。

報せが届く。

「上田にて真田昌幸挙兵」

沈黙。

座している男。

徳川家康。

家臣が言う。

「これは石田方の策かと」

家康は少し笑った。

「……いや」

静かに言う。

「石田治部にそこまでの器量はあるまい」

「秀忠に任せよ」

その声は、まだ余裕に満ちていた。


東軍の陣。

酒。
笑い声。
大声の男。

福島正則。

家臣

「西軍は石田治部がまとめているとか」

正則は鼻で笑う。

「佐吉ぃ?」

杯を置く。

「戦は算盤じゃねぇ」

「槍だ」

豪快に立つ。

「行くぞ」

「治部を討ちにな」

笑い声が上がる。

東軍はまだ

ただの戦のつもりでいた。


大坂城。

西軍総大将。

毛利輝元。

だが、その軍は動かない。

家臣が問う。

「出陣なされぬのですか」

輝元は静かに言う。

「……今はよい」

巨大な駒。

だが、盤の上では動かぬ駒だった。


松尾山。

若い大名が座していた。

小早川秀秋。

手には書状。

差出人。

石田三成。

文は短い。

『頼み申す』

秀秋はしばらくそれを見ていた。

「……頼み、か」

家臣が言う。

「治部殿は何をお考えか」

秀秋は小さく息を吐く。

「分かる」

静かな声。

「私が若いからだ」

沈黙。

秀秋は遠くを見る。

その先。

関ヶ原の方角。

そこにいる男。

大谷吉継。

秀秋は拳を握った。

「……あの御方を」

小さく呟く。

「撃てと申すか」

風が吹く。

若い大名は、まだ迷っていた。

だが。

逃げてはいない。


夜。

静かな部屋。

机の上には地図。

その上に置かれた駒。

毛利。

小早川。

真田。

すべてが配置されている。

座している男。

石田三成。

机の端。

そこに置かれているもの。

短刀の鞘。

三成はそれを見る。

静かに手を置く。

しばし沈黙。

そして小さく言った。

「これで」

少し間。

「これで……」

「終わる」

灯りが消える。

戦は、まだ始まっていない。

だが。

盤は整った。

関ヶ原へ。

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