私刑ポスト−その罪、私刑にします−【第3話】
「いったーい」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて手を差し伸べると、ルカぴょんは嫌な顔ひとつせず笑顔で手を取ってくれた。
「私こそごめんなさいっ。ちゃんと前見てなくて」「い、いえ。私も見てなかったので」
ルカぴょんは液晶越しで見るよりずっと可愛かった。肌は陶器のように滑らかで陽に照らされる髪が透き通って見える。
だけど、ルカぴょんは意識不明のはずで……。
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「……っ!」
気づいたらルカぴょんは私の顔を覗き込んでいた。曲線を描いた睫毛はゴールドブラウンの瞳をより大きく見せている。
(あれ? ルカぴょんのほくろってここだっけ)
ふと過ぎった疑問。目の前にいるルカぴょんは左目の下に泣きぼくろがあるけど、SNS上で見るルカぴょんは黒目の真下にあった気がする。
「もしもーし、お姉さーん」
「う、うん、大丈夫ですよ。あなたは?」
「だいじょーぶです☆」
ルカぴょんは右手で作ったピースサインを左右の口角にあて、にこりと微笑んだ。
幼稚な言動が多いルカぴょんだけど、童顔だから許せている部分もある。
それにしても目の前の彼女は表情も仕草もルカぴょんそのもの。
SNSで盛り上がっているルカぴょん説はガセ?
途端に私の心がざわつき始めた。私は恐る恐るそれを口にする。
「あ、あの……ルカぴょん、ですか?」
するとルカぴょんは目を見開き俯いた。
もしやこれは本人の可能性あり?
一瞬、下唇を噛んでいるように見えたけど、ルカぴょんはすぐに顔をあげた。そして眉尻を下げながら明るく言うのだ。
「ハズレですっ。よく似てるって言われるんです」
「そ、そうなんですね」
「それじゃまたねー」
笑顔で手を振るルカぴょん似の子に私も小さく手を振り返す。 本物だったらどうしようかと思ったけど、別人だとわかりどこかで安堵する私がいた。
「ルカぴょんにだけは知られちゃいけない」
あることを危惧する私は震える手でスマホを握る。
ひと呼吸してルカぴょんの遺言投稿を見ると、何やら騒がしくなっていた。
「ウソ……」
入ってきたのは、私刑ポストがルカぴょんをフォローしたという情報。
遺言が投稿されてさほど時間が経っていないうちのフォロー。野次馬たちは歓喜していた。
その効果か、私刑ポストのフォロワーは少しずつ増えていっている。それだけルカぴょんの存在が大きいということ。
焦燥感に駆られる私だけど、事が急に動くはずはない。
ルカぴょんがいなくなって喜ぶ人間なんてごまんといる。
かくいう私もそのうちのひとり。
「事故ったのは可哀想だけど自業自得ね」
思わず笑みが溢れる。
ルカぴょんが意識不明の今、私はあの人と安心して会える。そして崇士と愛海がお泊まりでいない今日は絶好のチャンスというわけ。
自然と足取りが軽くなる。
私刑ポストもあれから投稿が止まっているし、車で移動中なのだろう。
そう思いながら待ち合わせ場所へ向かった。
〒〒〒
MiAと書かれたSNSのメッセージ欄。
そのトップには、ルカぴょんからの通知が光っている。
車の助手席でそれを見る愛海は、ほくそ笑みながら返信するのだ。
ルカ】ターゲットと接触 バレるとこだった
愛海】気をつけてね
ルカ】誰に言ってんの?
愛海】そっちこそ他人のアカウントで楽しそうね
ルカ】もとから私のアカウントだし
愛海】あっちのルカぴょんは生死の境をさまよってるもんね
ルカ】私のものに手を出した罰
愛海】どの口が言ってるの
ルカ】そっちこそ いいの撮れたってさ
その文のあとに一枚の盗撮画像が添付される。
煉瓦造りの駅舎の前で、仲睦まじそうに歩く男女の後ろ姿。
帽子を目深にかぶるエイトの隣には着飾った――紗英。
それを確認した愛海は不気味に微笑むのだ。
「――誰から?」
愛海の様子が気になった崇士は運転しながら横目で見やる。愛海は申し訳なさそうに言った。
「友達! ごめんねデート中なのに」
「酔わないならいいよ」
「え?」
「紗英はスマホ見て酔うからさ」
「乗り物酔いってやつ?」
「そんなとこ」
「ふーん」
愛海は空返事。綺麗にネイルされた指先を液晶に滑らせ、先程送られてきた画像に「いいね」のスタンプを押しスマホを伏せた。
そして空いた右手で崇士の左手と恋人繋ぎをする。
「紗英ちゃん、私たちのこと気づいてるかなー」
「まさか。あいつ鈍いし」
「だーよねー。今夜はいっぱいイチャイチャしようねたーくん♡」
「寝かさないから覚悟してて、あみたん♡」
「もう〜♡」
車内でイチャつくふたり。
伏せた愛海のスマホには、一件の投稿通知。
【私刑ポストさんが新しい投稿をしました】
添付されたのは、モザイク処理された先ほどの盗撮画像。
その投稿には〈私刑のはじまり〉と添えられていた。
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