キャリア教育教材「新しいプライド」を新しいタイプの道徳授業で考えると…
本教材は、清掃の仕事を恥ずかしいと思っていた主人公が、仕事をする中でやりがいを感じ、誇りをもち始めたことが描かれた話です。
職責を果たす充実感が伝わってくる話です。
構成的には、リード文に仕事内容が描かれ、本文では、①清掃職を恥ずかしく思う様子、②同僚の態度、③義妹に知られたこと、④職に誇りを感じた様子が順に描かれています。
本教材を読むと、自分の仕事に誇りをもって取り組むことの大切さ、意義、すばらしさ、尊さなどを考えることができます。
そうしたことを踏まえると、
本教材からは、恥ずかしいと考えていた仕事にやりがいと誇りを感じるようになった主人公を通して、職務上の役割を果たす意義や尊さを考えてほしいという意図が想像できます。
ここから、授業展開を考えることができます。
内容項目は「勤労」です。
みなさんなら、どのような展開で授業を組み立てますか?
本稿では、本教材を「考察探究型の道徳授業」という展開で実践する方法を紹介します。
ねらいの価値について、広く深く考えることができる展開方法です。
これまでの授業とは異なり、
現在の活動で話し合われた内容が次の活動の材料となり、
次の活動で話し合った内容がその次の活動の材料になる
「重層的な授業構造」に特徴がある展開方法です。
具体的には、
「教材内容の抽出」
「抽出した内容の考察」
「考察した内容の俯瞰」
という三段階の学習過程を通して、価値について考えを深めていきます。
「考察探究型の道徳授業」は、次の書籍で、具体例を挙げて詳しく紹介しています。考察探究型とはどんな授業なのかが分かります。
☆考察探究型の授業構造を詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
各類型の授業構造や思考活動を解説するなど、専門的な内容になっています。
考察探究型には、4分類17種類の授業類型とそれらをミックスさせた展開方法がありますが、本授業はそのうちの「類型4 心に残ったことを考える展開」を利用して授業展開を考えています。
この展開方法では、
1 教材内容から心に残ったことを取り上げる
2 その内容が心に残った理由を話し合う
3 それらの共通点、つながる思い、人物の考えなどから、人の生き方などを想像する
という思考活動を体験することができます。
それによって、
どんな言動が人の心を動かすのか
なぜ、人の心が動くのか
人の言動からは、どのような思いが読み取れるのか
そうした思いや考えをするのはなぜなのか
どうしたら、そうした生き方ができるのか
などの思考方法を身に付けることができます。
本授業では、次の順に学習を進めます。
導入
・東京駅での新幹線清掃の様子(動画)を見て話し合います。
学習課題の確認
「社会人の仕事に対する思いを考えてみよう」を確認します。
展開前段の活動
1 教材を読んで、心に残ったことを発表し合いします。
(教材内容の抽出・整理)
2 心に残った理由を話し合います。
(抽出した内容の考察)
3 新幹線清掃員の仕事に対する考えを想像して話し合います。
(考察した内容の俯瞰・探究)
展開後段の活動
・働く様子を見て凄いと思った経験を想起して話し合います。
終末の活動
・学んだことを振り返り共有し合います。

導入では、東京駅での新幹線清掃の様子を見て話し合います。
はじめに、教材のリード文を読みます。
この部分には、新幹線清掃の仕事の様子が簡潔にまとめられています。
続いて、新幹線清掃の仕事をまとめた動画を視聴します。
検索すると、適した動画が見つかると思います。
動画は、簡潔で長すぎないものを選んでおきます。
必要な部分だけを視聴させることもできると思います。
リード文に続いて、実際の清掃の様子を見ることによって、新幹線の車内清掃の仕事の様子が、具体的に理解できると思います。
動画を見ただけでも心が動く生徒がいると思います。
視聴後には、「動画を見てどう思いましたか?」と問いかけます。
生徒からは、
「てきぱきと仕事をしている」
「集中している」
「効率がすごい」
「真剣な様子だ」
「こんな仕事をしてくれているとは知らなかった」
「新幹線がきれいな理由が納得できた」
「ありがたいと思った」
などの意見が出されるでしょう。
多くの生徒が、新幹線清掃の仕事に興味を持つのではないかと思います。
「心に残ったことを考える展開」では、すごい、えらい、すばらしい、悲しい…といった「心の動き」を利用して、ねらいの価値に迫っていきます。
学習課題「社会人の仕事に対する思いを考えてみよう」を確認します。
学習課題は、活動のブレを少なくする働きをもっています。
考察探究型では、授業の終末で、学習課題に対応する「主題発問」を出して、子どもたちの学びを確認するシステムになっています。
展開前段の活動
考察探究型の授業では、
まず、教材内容を「抽出・整理」する活動を行います。
次に、そうして取り上げた内容を考察する活動を行います。
最後に、それら全体を俯瞰して、価値について考えます。
このように、三段階の活動によって授業が進行します。
現在の活動が次の活動で考える材料となり、次の活動の内容がその次の活動で考える材料になるという展開です。
三段階の学習過程を経て、子どもたちの考えが深まり、教材に含まれる価値が立ち上がってくる展開方法です。
1 教材を読んで、心に残ったことを発表し合いします。
展開前段ではじめに行うのは、教材文から心に残った内容を抽出する活動です。
この活動をスムーズに行うために大切なのは、教材を読む前の指示になります。
まず、教材文のあらすじを話して見通しをもたせ、続いて「教材文の中に、すごい、えらい、すばらしいなど、心に残った部分があったら横に線を引きながら読みましょう」と指示してから教材を読みます。
教材文を読み終えたら、「教材文を読んで、心に残った部分はありましたか?」と問いかけます。
生徒からは、
良い面としては、
「7分間で完璧にすることがすごい」
「百席あって、長さが25mあるのを7分間は信じられない」
「多様な仕事があることに驚いた」
「助け合うところがすごいと思いました」
などが、
良いことでない内容としては、
「『そんな仕事』と言われたのが悲しいと思った」
「『ばれないように』という言葉が酷いと思った」
などが挙がるでしょう。
その他にも
「チームで助け合う」
「困っている人を助ける」
「お客からのお礼」
「客を心配する様子」
がすばらしいと思う。
「妹に見られてはずかしくなる部分が心に残った」
「義妹に褒められたところが心に残った」
「『新しいプライドを得た』という言葉が印象に残った」
などの意見も挙がると思われます。
長い文章ですので、文章のまとまりごとに、「この部分ではどうですか?」と区切って発表させると良いと思います。
区切って抽出することによって、教材文のあらすじも明確になり、教材文に含まれる大切な内容が理解され、意識されていきます。
2 心に残った理由を話し合います。
続いて、取り上げた内容が心に残った理由を話し合います。
良い意味でも、悪い意味でも印象に残る部分があると思います。
それらを、抽出した内容を概観しながら、一つ一つ話し合っていきます。
抽出内容を概観しながら考えることで、一読した段階では気付かなかった内容にも、考察を加えることができると思います。
具体的には、「これらの部分は、どうして心に残ったのですか?」と問いかけます。
生徒からは、抽出した内容のそれぞれに対して、多様な意見が出されると思います。
仕事内容に対しては
・仕事量の多さと効率に関しての驚きや感動
・清掃の仕事だけでなく、お客様を心配している様子への気付きと驚き
・チームワークへの称賛
・考えがすばらしい
等の理由が述べられることでしょう。
実際に、新幹線清掃の動画は、世界的にもバズっています。
主人公やその家族の聖そうという仕事へのイメージに対しては
・偏見を感じる
・このような考えは良くない
・世の中には、確かにこのように考える人もいる
等の意見が出されると思います。
義妹からの意見や新しいプライドに対しては
・妹さんは考えが素晴らしいと思う
・偏見がない
・仕事の大切さを理解している
・目が曇っていない
・プライドとはどんなものなのか、考え直した
・仕事に対して誇りを持っていてカッコいい
・このような仕事への考え方は尊敬できると思う
などの意見が挙がると思います。
教材に描かれた内容を詳しく考察することによって、教材の良さが発揮され、含まれていた「勤労」の尊さやすばらしさという価値が、徐々に浮かび上がってきます。
友達の意見を聞くことによって、仕事への意識、職業に対する考え方などが大きく変わる生徒も少なくないと思います。
3 新幹線清掃員の方々の「仕事に対する考え」を想像して話し合います。
それぞれの内容に対する考察に続いて、登場した清掃に関わる仕事をする方々の「仕事に対する考え」を想像して話し合います。
具体的には、「主人公の所属する清掃チームの方々は、どんな気持ちで仕事をしていると思いますか?」と問いかけます。
前の活動での考察を基にして、「働く」ということに対する考えをリファインする活動をします。
そのために、清掃員の方々の考えを想像するのです。
生徒からは
「運行に間に合わせる誇りを持っていると思う」
「お客のための清掃、大事な仕事と思っていると思う」
「仕事に対して誇りをもってやっていると思う」
「思いやりの気持ちを働かせて、仕事をしていると思う」
「役割遂行への使命感を持って働いている」
「自分の仕事にやる気を持って取り組んでいる」
などの意見が挙がると思います。
小学生の時に、多くの学校ではキャリア教育を経験していると思います。
しかし、
・職業に貴賤を感じている生徒
・単に収入のための手段だと考えている生徒
・収入による上下を意識している生徒
・社会的地位を優先的に考えている生徒
などが、少なからずいると思います。
実際のところ、現実社会には、そうした考えをする大人は数多くいます。
そうした大人に育てられれば、生徒も同じような価値観で物事を見ていることでしょう。
しかし、「働く」ことには、そうした側面だけでなく、それぞれが分業をして暮らしやすい社会を作り上げている側面、誠意ある人々の活動によって支えられている側面があります。
本教材の内容について考えることは、そのような側面に焦点を当てることができ、生徒の「働く」ということに対する考えを、広げ、深め、より良いものにすることに役立つと思います。
考察探究型の「俯瞰・探究」の段階の活動を経験することで、そのような意識をもつことができると思います。
考察探究型の「心に残ったことを考える展開」によって、ねらいの価値が、教材から立ち上がってくるのです。
展開後段では、働く様子を見て凄いと思った経験を想起して話し合います。
教材で立ちあがってきた価値を、自分の生活などに当てはめて考えを具体化し、深める活動です。
ここでは、新しい価値観を基にして、現実社会の様子を捉え直す活動をします。
新たな視点から「働く」ことを考えることで、現実社会には「勤労」のかちを実現している人々が数多くいることに気付かせるのです。
具体的には「皆さんは、誰かが働く様子を見て、凄いと思ったことはありますか。そこからその人のどんな気持ちを感じましたか?」と問いかけます。
生徒からは
「大工さんの技の正確さに驚いたことがある。きれいに仕上げるプライドを感じた。」
「店員さんの笑顔と感じの良さに驚いた。お客を大切にする気持ちが伝わってきた」
など、様々なの意見が述べられると思います。
クラスメートの実際の経験を聞き合うことによって、教材からは得られないリアルさを感じ取ることができ、生徒の心に強く印象が残るのではないかと思います。
多くの生徒が「今度は、そのような観点で世の中を見て見よう!」と考えるのではないでしょうか。
ねらいである「勤労」の価値が鮮明に立ちあがってきました。
終末では、学んだことを振り返り、考えを共有し合います。
一単位時間の学びを振り返る活動です。
ここでは、学習課題を踏まえて
「社会人の仕事に関する思いについて、どんなことを考えましたか?」
と問いかけます。
文章化して、自分の考えとじっくり向き合わせるのも良いと思います。
例えば、
「仕事にはやりがいがあり、誇りがあることが分かった。自分も将来、自分の仕事にやりがいと誇りをもてるようになりたいと思った。」
などの意見が書かれたり、述べられたりすると思います。
いかがでしょうか?
みなさんも、考察探究型の道徳授業をしてみませんか?
☆本稿の授業案は、次の授業案集に掲載されています。
考察探究型については、次の記事で詳しく解説しています。
授業効果を評価してみませんか?
授業効果の良し悪しについては、「道徳科感想分析法」で評価することができます。
道徳の授業は、他の教科と違って、評価テストに当たるものがありません。そのため、授業の様子をもって、授業の良し悪しが語られていた側面があります。そのため、授業の焦点がねらいの価値から大きく逸れている授業が数多く見られます。著名な授業者の授業や授業案でも、時折そのような様子が見られたり、想像されたりします。
道徳科感想分析法は、授業のねらいが達成されたかを客観的に評価する方法です。一度、確認してみるのはいかかでしょうか?
☆各授業類型について、その構造を詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。専門的な内容になっています。
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☆本授業案はダウンロードすることができます。
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