痛風疑惑のある足|病院かGoogleか
痛風かもしれん......。
その日から、足より先に疑いが疼き始めた。
40代にもなると足のどこも正常営業していない。踵、膝、足裏......毎朝どこかがメンテナンス中だ。「今日はどこが痛い?」から一日が始まり、 「ズキッ」 とくる踵の痛みに耐えながらペンギンみたいなヨチヨチ歩きでトイレへと向かう。
それが、この日は違った。踵だけでなく、左足の親指の付け根まで痛いのだ。左足を引き摺りながら、なんとか漏らすことなくトイレまで辿り着いたが、あまりの痛さでそのままトイレから動くことができなかった。
最初は「うーん。どこかにでもぶつけたのか?」くらいの軽い気持ちで呑気に構えていた。しかし、何日経とうが一向に痛みは治らないのである。
その日から毎日、左足の付け根を眺めては痛みに不安を募らせていた。左右の足を比べてみると腫れてる感じはしないのに、触れるとわずかに熱を持っている。試しに湿布を貼ってみたけど一向に良くなる気配がない。それどころか、日に日に痛みは増してきたのだ。
スマホを取り出し『親指 付け根 痛い 片足』とググってみた。すると嫌な二文字が目に入り、心臓のシャッターがギュっと閉まる音が聞こえた。
『痛風』
痛風とはかなり厳しいものらしい。知人・テレビ・ネットなどから幾度となくその恐ろしさは伝えられてきた。ある者は「風が吹くだけで痛い」と豪語し、またある者は「ぜいたくのし過ぎだ」と揶揄する。
「......ん?待てよ」
確かに足の付け根は痛い。しかも片足だけ。症状を見る限りこれは痛風に近いのかもしれないが、扇風機を当ててみても痛みは感じない。なんなら痛みが和らぎ気持ちいいくらいだ。なによりも歩ける。触れたら痛いくらいだ。
“もしかしたら、痛風ではないのかもしれん”という一筋の光が差し込んだ。さっそく『痛風 原因』を調べてみると『プリン体を多く含む食べ物を取り過ぎると起きやすい』と書かれてるではないか。
ますます痛風ではない気がしてきた。なぜなら、お酒は一滴も飲めん、レバーや白子も苦手、エビも納豆も食べれんとなると、普段の食生活でプリン体を過剰摂取することがないからだ。そもそも贅沢なんかしとらん。
「やっぱ、どっかにぶつけでもしたんやろ......」と開店準備を始めてたら、再びシャッターが落ちてきた。
『ストレス』
痛風かもしれない......と、気にしてる時点でストレスではないのだろうか。
まぁ、それ以前に、妻の機嫌を伺いながら生活してるのがストレスだ。妻の正解に自分の言動や行動を置きに行くことを続けると、だんだん正解がわからなくなる。正論パンチで殴られまくってるときの方が、付け根の痛みよりよほど痛い。
なぜなぜ分析を喰らってる間、トイレを我慢してたのが原因で尿酸が溜まったのかもしれんと思うと、足だけでなく、膝や肘、なんなら心までズキズキと呻きだしてきたのである。
気もそぞろになり、一日の生活時間の中で、痛風のことを考える時間がかなり増えてしまった。買い物してるときにお酒コーナーの前を通ると足の痛みを思い出す。居酒屋で飲んでる人を見ても「あの人は痛風を我慢しながら飲んどるんやろか」などと思ってしまう。そんなに気になるなら“さっさと病院へ行けばええやんけ”と思うのだが、「病院へ行くほどでもない」という曖昧な痛みであるため、なかなか病院へ行く気にもならない。
なによりも『痛風』と認めたら、その時点で負けな感じがした。花粉症と一緒で認めた途端に悪化されたら、それこそ生活に支障をきたすからだ。
これが決定的な痛みだったら病院へ行っただろう。しかし、60kgを超えたことない体型で「痛風かもしれません」と門を叩いたところで、看護師さんに一笑されるのがオチだ。
そこから営業を再開するための原因究明が始まった。こんなときこそ『なぜなぜ分析』である。検索履歴のうち八十パーセント以上は『痛風 〇〇』で埋められていたのだ。こうなると、苦悩だか生きがいだかわからなくなってくる。とにかくスマホを開けば痛風について調べていた。
まず驚いたのが、尿酸の結晶だ。もっとドロドロした黄色い液体を想像してたのに、実際は針に近かった。この無数の針が結束されたら、そりゃ痛いわ。軒先に無数のマキビシを撒かれてるみたいなもんだ。

先日受けた人間ドックの結果を見ると、尿酸値は6.2だった。「正常範囲ってことは、やっぱ違う?」と自信が湧いてきたのも束の間、『痛風発作を起こしたことのある人が再発を予防するためには,尿酸値を6.0mg/dL以下に抑える必要がある』とも書かれてるではないか。
気づけば『尿酸値 下げ方』をググる時間の方が増えていった。
まずは『水分』の摂取である。今までの生活だと、水分といえばアイスコーヒーかミルクティーしか飲んでこなかった。“もしやミルクティーが痛風の原因では?”とも思い始めたが、それだと糖尿病が先にこなきゃおかしい。
問題は、味のない水を飲むのが想像以上に苦痛だ。飲まなきゃと思いつつ、口の中は味のある飲み物を欲してる。「欲してるものを飲まな、健康にはならんやろ?」と思い、『痛風 お茶』とググると『麦茶』がおすすめと書いてあったのだ。
さっそくスーパーへ行って鶴瓶の麦茶をカゴに入れ、ついでにルイボスティーもおすすめと書かれてたので味変用に飲むことにした。ただ、頻尿が更に促進されたくらいで、痛みがひくことはなかったのだ。
続いてプリン体を摂取しなければいいのだろうと、断食も試みたが効果なし。さすがにお腹も減ってきたので、尿酸が酸性であるなら「アルカリ性やろ」と梅干しとひじきを食べることにした。体内で尿酸がどんどん溶けてゆくイメージがリアルに思い浮かんではいたが、どうしてもお米が欲しくなり失敗に終わったのである。
ちょうどゴールデンウィークだったこともあり、犬たちの散歩も普段の倍歩いた。親指の付け根に刺激が当たらないようにサンダルを履くも、油断すると鼻緒が当たり「ズキッ」と痛みが走る。それなのに犬たちは「どした?」という顔で振り向きはするも、決して歩みを止めようとはしない。
お散歩の後は自転車で走り回ってみたものの、ゴールデンウィーク最終日には、付け根よりも膝が悲鳴を上げだした。
数々の努力も虚しく、ただいたずらに二週間が過ぎていった。『痛風は一日では治らない』と書いてはあったが、『十日ほどで良くなる』とも書かれてたのに。
いったいどうしたら治るのだろう。こんなこと家族にも言えない。バレたところで「さっさと病院行け!」と言われるだけだ。心身ともにかなり疲れてくると甘いものが欲しくなる。
プリン体のことを考え過ぎてたこともあって、どうしてもプリンが食べたくなってきたのだ。ダイエットにチートデイが必要なように、「痛風にこそプリンやろ」とモロゾフへと向かった。
久々の甘味に幸せを感じながらも、プリンの尿酸値が気になり始め『プリン 尿酸値』とググってみた。案の定『プリン体』ばかりがヒットし、最後までプリンの尿酸値はわからず、プリンの由来が『Pudding』から来た外来語ってことを学んだところで、二個目のプリンを開けていた。

親指の付け根の痛みはまだ続いているが、今日も病院へは行かなかった。ここまで来たら、もう痛風かどうかではなく、認めたらそこで営業終了なのだ。
