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竜たちをお迎えした日|多肉植物の名前が厨二病すぎる!第弐話

ホームセンターのガラスに映った私は、どう見ても多肉植物を買いに来た客ではなかった。これから魔王軍の幹部をスカウトしに行く勇者……いや、勇者というよりかは闇落ち寸前の中年である。

それにしても、園芸コーナーにいる人たちは、なぜあんなにも穏やかな顔をしているのだろう。誰もスマホを見ながら歩いていないし、誰もカゴを満杯にしていない。小さな鉢を手に取り、葉っぱの色を眺めては微笑み、土の袋の前で静かに頷いている。あの空間は、世の中の怒りや焦りから切り離されているように見えた。

その中で、私は『暗黒竜』と『無刺王冠竜』のどちらがリーダー向きかを真剣に考えていた。

先日、多肉植物の世界に興味を持った。園芸初心者なら、まずは見た目や育て方を気にするところだが、私は『名前』に撃ち抜かれた。厨二病を的確に狙撃してくる名札が並んでいるからである。その中でも、ひときわ心をざわつかせた名前があった。

それが『暗黒竜』である。


植物なのに暗黒。
しかも竜。

もはや園芸コーナーではなく魔王城の一角である。前回それを見つけたとき「次に来たらお迎えしよう」と心に決めていた。人は四十を過ぎても、暗黒と竜には抗えない。園芸コーナーの蛍光灯の下、ひとり壮大な物語を始めていた。中学生の頃にノートの端へ描いていた謎の紋章は、どうやら心の奥でまだ生きていたらしい。

数日後、再びホームセンターへ向かった。目的はただ一つ。暗黒竜を迎えるためである。園芸コーナーへ直行し、迷うことなく暗黒竜を手に取ると、小さな花が咲いていた。名前は暗黒竜なのに、花は意外なほど可憐である。魔王が休日にクッキーを焼いていたような気まずさがあった。

本来なら、前回見つけた『残雪獅子』と『刺無牡丹玉石化』も一緒にお迎えし、デスクの片隅にダークファンタジー感あふれる小さな鉢を作る予定だった。水やりのたびに「封印はまだ解けていないか」と確認するような魔界感溢れた生活である。

ところが棚を見ても、床を見ても、どこにも彼らがいない。頭の中ではすでに魔王軍幹部として配属済みだったのに、現実では離職率が高かった。魔界もなかなか世知辛い。

暗黒竜を片手に呆然としながら店内を彷徨いていたら、少し離れた棚で新たな竜を見つけた。


暗黒に桜
闇と春
終末と花見

......うん。これはこれで悪くない。ラスボスの暗黒竜が「世界を滅ぼすぞ」と言うなら、美しくも切ない桜竜は「最後の晩餐に一杯」と誘ってきそうである。そこで私は閃いた。

「せや、竜シリーズで揃えよう!」

趣味にハマり始めると、人は統一感を求め始める。

服を買えば同じブランドで揃えたくなり、キャンプを始めればギアの色を統一したくなる。そして私は植物を始めたばかりだというのに、すでにドラゴンズを結成しようとしていた。何事も柔軟性が大事である。計画変更ではない。物語が進んだだけである。

そこから、名札を追って園芸コーナーを何周もした。葉の形も色もまだよくわからない。ただ「竜」の文字を探している。もはやポケモン図鑑を埋める子どもと変わらない。

『不死鳥』も強そうだったし、『鬼雲丸』も気になったが、今回のテーマは竜である。


ここで不死鳥を入れると、炎属性としては申し分ないが、パーティーの方向性がぶれる。

そして見つけたのが『無刺王冠竜』だった。


無刺なのか
王冠なのか
竜なのか

情報量が多すぎる。優しいのか偉いのか強いのか、名前では判断がつかないが、強そうではある。無刺と名乗りながらもトゲトゲは生えており、妙な圧が滲んでいる。「怒ってないよ」と言いながら、目が笑っていない人に近い。王国を背負った竜騎士みたいな雰囲気がある。

こうして、暗黒竜、桜竜、無刺王冠竜の三匹をお迎えすることになった。

帰り道、頭の中ではすでに壮大な構想が広がっていた。この三つを並べることで、ドラゴンボールの世界観も作れるし、ドラクエの竜の巣も作れる。ポケモンのドラゴンタイプ統一パーティーも作れそうだ。

問題は、肝心の鉢が決まっていないことだった。仲間は揃ったのに宿屋がない状態である。

白い鉢では爽やかすぎる。黒い鉢なら暗黒感は出るが、桜竜が沈む。石っぽい鉢なら王国の廃墟感が出る。いや、苔むした城跡も捨てがたい。多肉植物を育てる前に、舞台美術の会議を始めていた。水はけより先に世界観。気づけば暗黒竜にふさわしい住まいを探し、住宅事情まで考え始めていた。

家に帰り、とりあえずの仮住まいとしてモロゾフの空きグラスに入れ、机に並べた。


暗黒竜
桜竜
無刺王冠竜

実に素晴らしい。名前を見れば今から世界を滅ぼしに行きそうな並びである。腕を組みながら満足げに眺めていたとき、暗黒竜の花のついた枝が折れていることに気づいた。家に着くまでのどこかで、ポキッと逝ってしまったらしい。


魔王軍のエースとして迎えた暗黒竜は、初日から花を失っていた。ラスボスが出オチみたいな光景である。お迎えしたその日に悲劇が起きるのは、ダークファンタジーとしては正しいのかもしれない。物語とは、たいてい小さな悲劇から始まるものだ。

多肉植物とは、育成のしやすさと、プニッとした可愛さが人気の秘訣である。

私が始めた物語は、名前に浮かれ、鉢に悩み、世界観を作ろうとして、帰宅早々に枝が折れる。そういう小さな事件をひとつずつ受け入れながら、だんだんと自分の暮らしの中に根を張っていくことになりそうだ。

三匹の竜は、今日もモロゾフのグラスで仮住まいをしている。名前を見れば世界を滅ぼしそうなのに、実際はプリンの空き容器とは、魔王軍の拠点として、だいぶ甘めである。

▶️ 次話はこちら 👇

↩️ 前話はこちら:名前に撃ち抜かれた日

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