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Rebecca

高校時代、洋楽ハードロック、とりわけヘヴィメタルの勢いがすごかった。
スポーツに夢中になれなかった私は、当然のように音楽へ傾いていった。
エレキギターを買い、歪ませた音を鳴らす。
デフレパード、マイケルシェンカー、ヴァンヘイレン。
放課後は、そんな名前ばかり口にしていた。
速弾きのギターソロ、ツーバスのドラム、泣きのバラード。
最近コピーできるようになったフレーズを弾いては、自慢し合っていた。
週末はスタジオや公民館の音楽室を借りて、バンドごっこをした。
女子と仲良くなりたかったが、気軽に話しかけることはできない。
教室の後ろで、洋楽ロック好きの男子だけで盛り上がる。
箒をギター代わりに騒いでいる自分たちは、きっと女子にも格好よく見えていると思っていた。
実際には、女子の記憶にも残らない空気みたいな男子だったと思う。

学年には「かわいい」「きれい」だと評判の女子が何人かいた。
アラキさんも、その一人だった。
少し大人びた雰囲気があり、大学生と付き合っているという噂があった。
しかも大学生バンドのボーカルをやっているらしい。
演奏するのはレベッカ。
ハードロック至上主義だった私たちは、
「レベッカかあ」
と、どこか軟弱な音楽みたいに言っていた。
バンド仲間で性格も顔もいい男がいた。
当然のように学年有数の美少女と付き合っていた。
そのつながりで、アラキさんのライブチケットが回ってきた。
「頼むから行ってくれ」
と言われて、結局、いつもの友人たち数人でライブへ行くことになった。

クリスマスが近い、よく晴れた寒い日曜日だった。
芦屋川沿いを歩きながら、
「レベッカなあ」
などと言っていた。

二、三十人も入れば満杯になる小さなライブハウスだった。
聞いていた通り、レベッカの曲が続く。
アラキさんの声は、NOKKOみたいな突き抜ける高音ではなかった。
少しかすれた声で、一生懸命歌っていた。
でも、その感じが妙によかった。
観客も一緒に歌い、狭い店の空気が少しずつまとまっていく。
私は、それを「いいな」と感じていることを、同行した友人たちに悟られないようにしていた。
大学生バンドのボーカルだと聞いて、もっと大人っぽい人を想像していた。
曲の合間に、アラキさんのMC。
黒いワンピースに赤い花がついていた。
お母さんと古着を直して作ったらしい。
「クリスマスやから、赤い花つけようってことで」
と笑っていた。

ライブが終わり、日が暮れた芦屋川沿いを駅へ向かって歩いた。
アンチ日本ポップスの先鋒だった友人に、
「アラキ、いいやつかもな。レベッカもまあまあ良かったし」
と言うと、
「同じこと思ってた」
と返ってきた。
単純な高校生だった。

その後しばらく、学校の廊下でアラキさんとすれ違うたびに、
「こないだライブ来てくれてありがとう」
と声をかけられることを期待していた。
もちろん、向こうはこちらの顔など覚えていない。
結局、一言も話さないまま卒業した。

今でもレベッカの曲を聴くと、あの日の芦屋川の冷たい空気を思い出す。
ただ、不思議なことに、ライブの余韻を抱えたあの夜のことは覚えているのに、場所も時間も、少しずつ形を失っている。

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