水も飲まずに語り続けた人……ヤンバルクイナの森で出会った、ある思いの話【大人の時間を整える、AI生活デザイン術 #06】
月曜日、私たちはやんばるの森の奥にある「クイナの森」へ向かいました。
ヤンバルクイナは飛べない鳥で、世界でもこの森にしかいない、絶滅危惧種です。
繁殖期だから会えないかもしれない……
そんな案内が出ていたので、半分は諦めながら、ただ施設を見るだけでもいいか、と入っていったのです。
落語家ですか?
中に入って驚いたのは、案内係の方の語りでした。
私たちが入って間もなく、すっと近づいてきて
「これからお話ししますね」と、滔々と語り始めてくださったのです。
落語家ですか?
妻と思わず顔を見合わせるほど、間の取り方が上手な方でした。
水も飲まず、マスクをして、立ちっぱなしで。
私たちのあとから新しいお客様が入ってこられると、自然と視線をそちらへ向けて、「ここまでのお話なんですけれど」と目線を合わせて補足してくださる。気配り、と呼ぶには軽すぎるくらい、身体に染みついた動きでした。
語られる内容も、ただの説明ではありませんでした。
二十年前、ヤンバルクイナは七百羽まで減ってしまったこと。
人間が持ち込んだマングースが森に侵入し、夜行性のハブには出会わず、日中に動くヤンバルクイナばかりを襲ったこと。
それを止めるため、「マングースバスターズ」という方たちが、訓練された犬を連れて、毎日罠を見回り続けていること。
この施設のある国頭村では、三年前から捕獲数がゼロになったこと……。
語られる数字の一つひとつに、誰かの毎日が積み重なっているのが、伝わってきました。
根っこにある、思い
帰り道、車の中で、妻とぽつりぽつりと話しました。
「あの方は、ただ仕事として案内してたんじゃないよね」
そうなんです。
あの語りの根っこには、「ヤンバルクイナを守りたい」という思いが、はっきりと流れていました。
AIに尋ねれば、ヤンバルクイナの生態は一瞬で出てきます。
個体数も、保護活動の歴史も、整った情報として受け取れる時代です。
それでも、毎日森を歩いて罠を見回ること、一羽を森に返すために何度も訓練を重ねること……その毎日は、AIにはできません。
そして、その毎日を「外の人」に伝え続けることもまた、誰かの身体と声を通してしか、届かないのだと感じました。
見えない多くの手

七百羽から、千五百羽へ。
その数字の裏には、案内してくださったあの方一人ではなく、私たちには見えない多くの方々の手が、確かにありました。
結局、人だよね。
森を出るとき、もう一度、そう思いました。
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