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身を屈めて、語ってくださった人……ある博物館で出会った、一人の学芸員さんの話【大人の時間を整える、AI生活デザイン術 #05】

朝九時半、私たちは沖縄県立博物館・美術館(通称「おきみゅー」)へ車を走らせました。

混む前に着きたかったので、高速を使って。
駐車場に着いたのは、十時半でした。

受付で勧められたのは、常設展・企画展・美術館の三つすべてを見られるワンデーパスポート。
一人千四百円です。

まず屋外の展示エリアへ。
赤瓦のおうちに、靴を脱いで上がれることに、妻はとても喜んでいました。「ずっと知ってたけど、入ったことはなかったから」と。
畳の感触、板張りの音、機織り機、かまど……
知識として知っているものを、身体で確かめていく時間でした。

私たちは学生時代の四年間を、沖縄で過ごしています。
三十五年から四十年前のこと。
当時は感じきれなかった沖縄の歴史が、四十年越しに自分たちの中で繋がっていく……
そんな感覚を、この日ずっと味わっていました。


DX化された常設展で

常設展に入ると、想像以上にDX化が進んでいました。

琉球列島の成り立ちを、プロジェクターの映像で大づかみに教えてくれる導入。
各展示の前には、ボタンを押すと光る仕組みや、座って観られる動画。
説明文を読むだけでは伝わりにくい時代の流れが、丁寧に整えられて目の前に置かれていました。

二時間で回れるとAIに言われていた常設展を、私たちは三時間半かけてもまだ半分しか進めませんでした。

途中で昼食をはさみ、自然史のセクションも回り、もうお腹いっぱい……
というところで、三階の企画展に上がりました。
新しく寄贈されたり、買い求められたりした品が並ぶ、こぢんまりとした展示です。

「これ、ちょっと見えませんよね」

二人で、ある漆器の前で足を止めていました。

そのとき、近くにいらした女性の方が、すっと近づいてこられたのです。

「これ、ちょっと見えませんよね」

身を屈めて、展示ケースの中を指さしながら、語り始めてくださいました。学芸員の方でした。

「沈金の技術者は、各地にいますけど、堆錦(ついきん)は沖縄だけなんですよ」

そう言って、漆の表面のわずかな盛り上がりの意味を、丁寧に教えてくださいました。

そのあとも、三回、四回と、私たちが立ち止まるたびに近づいてきてくださって。

私たちが熱心に見ていたことを、気にかけてくださったのかもしれません。

亀甲墓の墓じまいを見せてもらったときの話もしてくださいました。
骨壷の中に、珊瑚のかけらや石ころが入っていたそうです。
理由を尋ねたら……沖縄戦で遺骨が見つからなかった人の、骨壷なんです、と。

展示物の中にも、同じような骨壷がありました。

ああ、これは過去の話じゃないんだ。
今もこうして、誰かの祈りとして生きているんだ……
そう感じた瞬間でした。

一人の人として、目の前に

話していくうちに、その学芸員さんが、私たちの暮らす土地にも縁があったことが分かりました。

「あのお店、まだあるんですか?」
「ありますよ、変わらず」……

展示の前で、そんな会話がぽんぽんと続きました。
地元の景色や、よく行ったお店の名前が、お互いの口から次々と出てきて、思わず顔を見合わせて笑ってしまうほどでした。

旅先で、こんなにも沖縄の方とお話しできるとは、思っていませんでした。

そして、その会話を通して、その方が、ただ展示を案内してくださっているのではなく、一人の人として目の前に立っていてくださることを、はっきりと感じたのです。

情報じゃなくて、関係が生まれていた

帰り道、車の中で妻と話していて、ふと気づいたことがあります。

あれだけDX化が進んだ常設展でも、これだけ充実した展示文でも、心に強く残っているのは、あの学芸員さんが語ってくださった言葉だったのです。

堆錦のこと。
骨壷の中の、珊瑚のかけら。

説明文には、たぶん同じ情報が書かれていたのだと思います。
AIに尋ねれば、もっと整理された答えが返ってくるかもしれません。

それでも、目の前で、身を屈めて、声に乗せて語ってくれた言葉には、敵わない何かがありました。

情報じゃなくて、関係が生まれていたんです、あのとき。

やっぱり、人が語る声には

やっぱり、人が語る声には、敵わないのだと思います。

館を出るとき、もう一度三階の方を振り返りました。
あの方はきっと、今日もまた、別のどなたかのところへ近づいて、身を屈めて、語り始めていらっしゃるのだろうな……

そう思いながら、私たちは静かに駐車場へ向かいました。




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