(仮)ブラック企業リベンジャーズ
プロットに近い状態です。
今後、別ページにて有料化、11万文字前後になります。
有料部分は、主人公が働いていた企業の法的NG部分になります。
【第1章:勇者降臨-転生したらブラック企業-】
「よくぞ戻った勇者よ!!」
……あぁ、ホントに
俺たちは勇者様一行だ。
相棒として背中を任せた魔術師から進化を遂げた賢者の幼馴染み。
「さぁ、歓迎会だ。
歓迎会のメインイベントが、我々の願いを王が聞いてくれる流れになる」
疲れて適当に聞いていたけど、しっかり聞いててくれた相棒には、頭が下がる。
武道家からクラスチェンジした女怪盗も、珍しく肌が見える服を着ていた。
何度も導いてくれた魔術師も、布面積は変わらないが、透ける素材の服にしていて、エレガントな空気を醸し出していた。
「まだ、疲れが取れてないの?勇者さん?」
「ん~」
疲れかなぁ?
何かがしっくりこない。
歓迎が?いや……だって、小さな村だろうと、城壁に囲まれた町だろうと、歓迎はされてきた。
しかし、何かがモヤモヤする。
そう、【また。】
「まだ、疲れが取れてないの?勇者さん?」
「ん~。なんか、またか、って気がして」
「また、って?」
「いや、歓迎会が、だよ。
小さな村でも、城塞都市でも、みんな俺たちを歓迎してくれただろ。
でも、王都の歓迎会ってのは、なんかゴールの後の手続きって感じでさ」
相棒は目を丸くした後、クスクスと笑った。
「それは勇者さんの性格だからよ。
でも、今日は大事な褒美の話があるんでしょ?」
そうだ。今日は王様の願いを叶える流れの後に、正式な褒美の話がある。
それよりも、この歓迎の熱気に、俺は疲労とは別の違和感を覚えていた。
「よくぞ戻った勇者よ! 伝説の魔王を打ち倒した、真の英雄たちよ!」
王様は玉座から立ち上がり、感動の面持ちで両手を広げた。
その合図で、給仕が大きなトレーを運び込んできた。
トレーの上には、城に代々伝わるという宝飾品の数々が並んでいる。
「これらは、我が国が誇る最高の工芸品。
好きなものを一つ選び、望みを言え!
勇者たるお前たちの願いは、すべて我らが叶えよう!」
目の前に並ぶのは、眩いばかりの宝石。
疲労で早く寝たい俺は、一つも見ずに進言を始めた。
「陛下。我々勇者一行は、長旅と激戦の果てにございます。
その功績に見合う褒美を選ばせていただくのは明日以降に……」
その時だった。
トレーの中央に置かれていた、シンプルな銀のペンダントが、突如として青白い光を放った。
『ピカッ!』
光は線香花火が弾けるような音を立て、真っ直ぐに俺を包み込む。
「さすが勇者だ! 神の加護がある!」
「見ろ! 勇者様が選ばれた!」
「おお、これは吉兆!」
会場中が歓喜の声で騒然となった。
王様も、俺の仲間たちも、式典に参加していた貴族たちも、この神々しい光景に膝をついて喜んでいる。
(いや、選んでねぇよ。
あと、俺の鑑定スキルに反応したのは、そのペンダントだけじゃなくて、王様の指輪も、その奥の魔術師の杖も……)
俺は思わず瞳をきつく閉じた。
鑑定スキルが発動した直後、全身がまるで熱湯に浸されているかのように熱くなった。
次の瞬間、体の底から魂が引き剥がされるような強烈な浮遊感に襲われた。
「また、か」
俺がそう呟いたかすかな声は、歓喜の喧騒にかき消された。
光が消えた後、静寂が訪れる。
王座の間の玉座の間には、勇者・佐藤リベンジの姿はどこにもなかった。
目映い光に包まれた直後、俺は意識を失うまいと必死に堪え、瞳をきつく閉じていた。
――一瞬。
騒々しい王宮の声、歓喜の雄叫び、仲間の心配する声、そのすべてが一瞬で消えた。
「……静かすぎだろ」
誰もいない、無音の状態。
違和感に耐えられず、俺はゆっくりと瞳を開いた。
俺の視界に飛び込んできたのは、見たこともない超高層ビル群だった。
そびえ立つ鋼鉄とガラスの塔、どこまでも伸びるアスファルトの道、そして、聞いたこともないエンジン音。
「……は? ここは、どこだ?」
魔王領の遥か彼方の果てにある秘境か?
いや、俺の【鑑定スキル】が即座に反応した。
『素材:鉄、ガラス、プラスチック、コンクリート。
魔力:ゼロ。
文明レベル:極大。』
そして、自分の身体にも反応する。
『名前:佐藤リベンジ(25歳)。
スキル:鑑定、高速再生、転生者(現代・令和)。』
――俺は、異世界で魔王を倒したその直後、令和時代の日本に、いわゆる【転生】させられたのだった。
【第2章:現代転生-ブラック企業への面接と入社-】
俺――佐藤リベンジは、転生先の日本で「普通のサラリーマン」という夢を追っていた。
ハローワークで紹介されたのが、内装工事をメインとする建設会社、フナケンだった。
なぜフナケンを選んだか? 理由は一つ。
『キャッチフレーズ:「家族のような会社!」、給与:手取り30万円〜、職種:施工管理(店舗改装)。』
これだ。
異世界では命を張って国を救った。
現代では、その代償として高めの給料を貰って平和に暮らす権利があるだろう。
そして今日、採用面接の日。
フナケンから指定されたのは、Zoomを使ったオンライン面接だった。
「指定された時間は午後三時。
五分前行動が基本だ」
これは、魔王討伐の際に定めた、パーティの作戦開始時刻の鉄則だ。
俺は午後二時五十五分にはZoomの待機画面で、スーツ姿で姿勢を正していた。
三時。
時刻ぴったりに、画面には何も変化がない。
三時五分。
依然として誰も現れない。
「……五分遅刻。
魔王軍の雑魚ですら、開戦の時間は守ったぞ」
リベンジは溜息を一つ吐いた。
ここは現代日本。
「時間通り」という規律は、魔物との戦闘より緩いのかもしれない。
そして三時八分。
ついにリベンジは動いた。
「戦場に穴を空けるのは、勇者としてあるまじき行為だ」
俺はスマホを取り出し、面接案内に記載されていた緊急連絡先に電話をかけた。
『プルルルル……』
コールが途切れる前に、やけに甲高い声が電話口に出た。
「はい、フナケンでーす!」
「佐藤リベンジです。本日午後三時からのZoom面接の件で、現在待機しているのですが、御社にお繋ぎができていないようです」
電話口の向こうが一瞬沈黙した後、ガチャガチャと騒がしくなる。
「あ、あ~! 佐藤さん! ごめんなさい! 申し訳ございません!」
その声こそ、採用担当兼、会社のナンバー2とされるカズデ・ケチ夫 副社長だった。
「ちょっとメインバンクの担当者とのトラブルがありまして、対応に追われていたんですよ。
すぐ繋ぎ直しますんで、切らずに待っててください!」
一方的な謝罪と説明が、矢継ぎ早にリベンジに浴びせられる。
電話は切られなかったものの、ケチ夫は電話をどこかに置いたらしく、遠くで「クソッ、融資の件、どうすんだよ!」という焦った声が聞こえてくる。
(メインバンク担当者とのトラブル? 融資?)
俺はそっと【鑑定スキル】を発動させた。
『カズデ・ケチ夫:38歳。役職:副社長。
【特性:給与詐欺師】、【特性:責任転嫁Lv.8】、【特性:すっぽかし魔人】。
抱える負債:多大。』
「……魔王より詐欺師だとよ」
リベンジは呆れを通り越して笑いがこみ上げてきた。
魔王が「お前の国は滅ぼす」と正直に宣言していたのに対し、この男は「家族のような会社!」と言いながら、給与を詐欺っている。
やがてケチ夫は焦った様子でZoomに入室してきた。
「いやぁ、ごめんね、佐藤くん! ちょっとトラブル対応で!
君みたいな時間厳守の真面目な人は、ぜひうちに必要だ!
うちに入ってくれたら、君は間違いなくエースだよ!」
ケチ夫は汗を拭いながら、リベンジの「時間厳守」を褒め称える。
リベンジは冷静だった。
「では、すぐにトラブル対応をされた貴方様は、優秀な人材なのですね」
「ハッハッハ! そうだね! 私の右腕として、君を迎え入れたい!」
そして、ケチ夫は面接の終わりに「キミは手取り30万円スタートで間違いないよ!」と、高らかに宣言した。
リベンジは、面接の最中も、入社してからも知ることになる。
ケチ夫が融資を受けているメインバンクの担当者とのアポイントメントは、十回のうち九回はすっぽかす人間だった、ということを。
そして、この「トラブル」対応とは、そのすっぽかしに対する銀行側からの最後通告であったことを。
しかし、この時点では「まあ、魔王よりはマシな職場だろう」と、転生者の楽観的な一般化が勝っていた。
【第3章:給与詐欺-魔王よりヤバい内訳-】
フナケンのオフィスは、妙に小洒落た内装と、カフェミュージックという”偽りの平穏”で満たされていた。
「ようこそ、佐藤くん! 今日から君も、フナケンという家族の一員だ!」
副社長のカズデ・ケチ夫は、昨日Zoomで見た時と同じ、やけにハイテンションな笑顔で俺を迎えた。
俺の鑑定スキルは、その笑顔の裏側で渦巻く【邪悪な計算】をしっかりと検知していた。
『特性:偽りの歓迎Lv.9』
「うちは、社長も会長も、みんな家族同然。
だからさ、残業代ゼロが愛の証! なんだよね」
ケチ夫はそう言いながら、机の上に薄っぺらい書類を広げた。
「これが雇用に関する書類。
細かいことはいいから、とりあえず目を通しておいて。
サインは後で大丈夫だよ! それよりも、君へのサプライズだ!」
ケチ夫は契約書へのサインを曖昧にし、別の封筒をドヤ顔で俺に手渡してきた。
「はい! これが君の初月分の給与明細だ!
ペーパーレス化が叫ばれてる時代だが、うちはやっぱりこういうのは紙で渡したいんだよね。
情熱がこもってるだろ?」
(契約書は結ばせないのに、給与明細は紙で手渡し……逃げ道を塞ぐ高等テクニックか?)
リベンジは嫌な予感を覚えながら、その紙の給与明細を開いた。
『佐藤リベンジ様 基本給:240,000円 役職手当:0円 固定残業代:0円 その他:0円 総支給額:240,000円』
俺の視線が、「手取り30万円〜」という面接での約束と、この「総支給額:240,000円」という数字を往復する。
俺はすぐさま、目の前のケチ夫の顔に【鑑定スキル】を全力で発動させた。
『カズデ・ケチ夫:【特性:給与詐欺師】の真髄発動中。
【スキル:平然とした嘘Lv.MAX】』
「……副社長。
面接で、手取り30万円とお聞きしたのですが」
リベンジは冷静を装ったが、声はわずかに震えていた。
これは魔王に勝てるかどうかの瀬戸際でこそ出す、極限の怒りだった。
ケチ夫は、額に薄っすら汗をかきながらも、ニッコリと、この世で最も憎たらしい笑顔を返した。
「あれ? 手取りじゃなくて、額面でって言ったはずだけどな~。
ま、大した違いじゃないでしょ? 君みたいな若者は、額面か手取りかなんて気にしない!
大事なのは、家族のために働く情熱でしょ!」
(大違いだ! これは手取りだと20万円を切る!
この男、魔王軍が敗戦後に約束した『豪華な城の譲渡、ただし家具なし、屋根もなし』よりタチが悪い!)
「情熱で家賃は払えません」
リベンジは冷たく返したが、ケチ夫は完全に勝利を確信していた。
彼は休憩スペースから高級そうな箱を持ってくると、高笑いしながら俺の目の前に置いた。
「ま、今月は研修期間だし! 来月になったらドーンと給料も上がるからさ。
あ、そうそう、今日ちょうど、リニューアル工事が終わったアパレル店舗のケーキがあるんだけど……」
ケチ夫は、ニヤニヤしながら俺の肩に手を置いた。
「どう? 佐藤くん。
今日の給料は、この美味そうなケーキでいいよね?
その分、残業も頑張れるだろう?」
目の前でケーキの箱を突き出されるという、非現実的なギャグ展開。
俺の脳裏で、鑑定スキルが警鐘を鳴らした。
『【特性:非常識な提案Lv.10】発動中』
「魔王の詐欺よりひどい!」
俺は異世界でのツッコミをそのまま口に出してしまった。
ケチ夫は一瞬戸惑ったが、すぐに愛想笑いで誤魔化した。
「あはは、魔王? 面白いジョークだね!
ま、そういう熱い気持ちを仕事にぶつけてくれよ!
明日から、早速現場に出てもらうからさ!」
俺は即座に「よくある詐欺話」と一般化することで、自分の正体を隠した。
だが、心の中では復讐の炎が静かに、そして激しく燃え上がっていた。
このフナケンという名の魔王城は、俺が必ず内側から攻略してやる。
復讐の炎が、転生勇者の心に静かに、そして激しく燃え上がったのだった。
【第4章:トイレの悲劇-魔王の落とし物と監視呪術-】
「フナケンは家族同然! つまり、家族の世話をするのは当然だよね!」
そう言って副社長のカズデ・ケチ夫は、入社二日目の俺に、いきなり給湯室の清掃当番と、オフィス内の植木の水やりを押し付けてきた。
もちろん、残業代なんて出るはずもない。
「ブラック企業あるあるの王道だな……」
だが、俺の異世界での経験からすれば、これはまだ序の口だった。
本当の“魔王の試練”は、別の場所で待っていた。
入社二日目の午後。
リベンジは昼食後の生理現象に逆らえず、トイレへと向かった。
フナケンのオフィスは狭いワンフロアで、当然のようにトイレは男女共用だった。
「まあ、これは小さな城の設備と思えばいいか」
リベンジは異世界基準で納得しようとしたが、個室のドアを開けた瞬間、その楽観主義は打ち砕かれた。
「……え?」
便器の中には、まるで魔王が城の地下深くで寝かせたかのような、巨大で異様な存在が、流されることなく鎮座していた。
『【魔王の落とし物】:流体力学を完全に無視した硬さとサイズ。
フナケンの古い排水設備では、もはや異物として認識されている。』
俺の鑑定スキルが、そんな余計な情報を表示する。
「まさか、こんな現代日本のオフィスで、流れない大便に遭遇するとは……魔物よりタチが悪いぞ!」
勇者として幾多の魔物を打ち倒し、どんな修羅場もくぐり抜けてきたリベンジだが、流れない“落とし物”にはさすがに戸惑いを覚えた。
水を流しても、その物体はビクともしない。
リベンジは仕方なく、その場をそっと離れたが、翌日、そしてそのまた翌日も、同じような悲劇が繰り返された。
誰かが流し忘れるのではなく、物理的に流れていかないのだ。
そして一週間後。
「おい、聞いてるか、佐藤くん!
トイレが詰まりすぎて、とうとう営業の女性が泣きながら帰っちまったぞ!
これ、清掃業者呼んだら経費が! 経費が!」
ケチ夫は血相を変えて喚いた。
リベンジの鑑定スキルが、彼の頭上に新しい特性を検出した。
『【特性:経費の亡者Lv.99】』
「よし、決めた! 佐藤くん! 経費節約のためだ!
今日からトイレに監視カメラを設置する!」
「は?」
リベンジは耳を疑った。
トイレに監視カメラ?
「いや、副社長! それは……」
「いいんだ! プライバシーだなんだというが、うちの会社は家族だろ?
家族がお互いの動向を知って何が悪い!
これで犯人を特定して、清掃費用をそいつから徴収する!」
ケチ夫は、まさに魔王が領民を支配するために使う【魔王の監視呪術】そのものを、笑顔で発動させた。
(トイレまで監視対象だと!?
魔王軍ですら、トイレの個室にまでは手を出さなかったぞ!)
その日、俺は勇者としての正義感と、サラリーマンとしての生活費を天秤にかけ、一つの決断を下した。
夜間、誰もいなくなったオフィス。
リベンジは意を決して、再び流れない便器へと向かった。
「仕方ない。
現代の常識が通用しないなら、異世界の常識で対抗するしかない」
俺は静かに魔力を練り上げた。
「浄化スキル――発動!」
異世界の勇者だけが使える【浄化スキル】。
それは、あらゆる邪悪な物質、不純物、そして……流れない大便を、瞬時に無害な水へと分解し、消滅させるスキルだった。
『【浄化スキル】:成功。便器内、清浄化完了。』
悪臭は消え、便器は新品のように輝きを取り戻した。
俺は監視カメラに向かって、静かに中指を立てそうになるのを堪え、満足して個室を出た。
翌朝。ケチ夫は目を丸くした。
「おい、佐藤くん! トイレが、トイレがピカピカだ!
まるで誰かが清掃してくれたみたいだ!」
「さあ、誰でしょうね」
リベンジは平静を装った。
しかし、その日の夕方。
リベンジの社内メッセージに、ケチ夫から追撃の連絡が届いた。
『佐藤リベンジ様。 昨日の清掃、本当に助かりました!
つきましては、経費として計上しますので、清掃費10,000円を今月の給与から雑費として天引きさせていただきます。
家族への奉仕、ありがとう!』
「……は?」
俺の怒りは、もはや魔王を倒した時の高揚感すら上回っていた。
「家族への奉仕、ありがとう!
じゃねえよ!
こんな会社、よくある話で済まされるか!」
勇者の「忍耐スキル」は、限界へと近づいていた。
【第5章:闇の工事呪縛と混沌の書庫-多すぎる業務内容と三日間の清掃地獄-】
給料が詐欺で、トイレ掃除が天引き。
俺、佐藤リベンジの「普通のサラリーマン生活」は、早くも崩壊の危機に瀕していた。
しかし、このフナケンという魔王城は、俺の想像の遥か上を行く。
俺が面接で受け取った採用条件通知書には、こう記載されていた。
『業務内容:営業補佐、見積業務、現場対応、発注業務、図面作成、製図補助、資料管理、雑務』
多すぎる。
異世界の魔術師ギルドの受付嬢でも、ここまで業務を羅列しなかった。
そして、入社した俺を待っていたのは――。
「佐藤くん。
まずは会社に慣れてもらわないとね」
ケチ夫はそう言って、俺に清掃用具一式を押し付けた。
「入社して最初の三日間は、トイレの大便掃除含めた清掃のみで!
みんなが気持ちよく働けるようにね!」
三日間の清掃漬け。
もちろん、これは「雑務」に分類されるのだろうが、勇者の【鑑定スキル】は、この状況に対して即座に警告を発した。
『状態:パワハラ採用の疑い(労働契約法5条違反の可能性あり)。』
「……これって、パワハラ採用っていうんじゃないのか?」
俺がぼそりと呟くと、ケチ夫は聞こえないふりをして、社内をウロウロし始めた。
「なにか佐藤くんにやらせることない?
暇を持て余すのは、家族への冒涜だよ!」
副社長自ら、社員一人一人に聞いて回る。
その結果、俺には、賞味期限切れの茶葉の整理、壊れた電球の交換、そして誰も使わない備品のカタログ化といった、意味のない業務が次々と降り注いだ。
(魔王軍の幹部ですら、部下にそこまで無意味な業務を押し付けなかったぞ!)
俺は勇者の「忍耐スキル」をフル活用し、この理不尽な清掃と雑務地獄に耐えた。
◆混沌の書庫呪縛とショートカット魔女
四日目。
俺はついに本業と思しきデスクワークを与えられた。
「佐藤くん! 共有フォルダを整理しろ!」
ケチ夫は、まさに混沌の書庫呪縛そのものを、俺に押し付けてきた。
フナケンが扱うのはアパレル店舗改装の案件。
その図面や資料が格納されている共有フォルダは、まるでダンジョンのように複雑で、古いトラップが山積みだった。
「なんでここ、ショートカットのショートカットのショートカットなんだ……」
同じファイルへのショートカットが、様々な階層に大量に乱造されている。
これを整理しないと、新規案件の度に過去の図面を探すだけで、日が暮れてしまう。
「任せてください。
勇者の整理スキル、見せてやりますよ」
俺はすぐに社内魔法メール(アナタンス)で全社員に通達した。
『件名:共有フォルダ整理開始のお知らせ 佐藤リベンジです。
20日後からフォルダ階層の整理を開始します。重要な書庫(案件ファイル)は、最上階層の【保存フォルダ】に移動します。』
これは、「俺が整理したら文句言うなよ」という、勇者なりの事前通告だった。
しかし、そのメールが届いた直後、俺のデスクに一人の女性社員が仁王立ちした。
総務経理担当の彼女は、フナケンにおける「ショートカット魔女」の異名を持つ人物だった。
「ちょっと! 新人の佐藤くん! 勝手に動かさないで!
営業がどこに資料があるかわからなくなって困るでしょ!」
「魔女」は、その鋭い眼光で俺を睨みつけた。
彼女こそが、ショートカットを乱造し、フォルダを混沌化させている元凶だったのだが。
リベンジは鑑定スキルを発動させた。
『【特性:過剰な防衛本能】。
【スキル:ショートカット乱造呪術Lv.10】』
「しかし、このままでは業務に支障が……」
「いいから、触らないで! うちのやり方に口を出さないで!」
魔女はそう吐き捨てて去っていった。
総務経理からの正式な「ブロック呪文」だ。
その直後、営業部門のエース社員がこっそり俺のデスクに来た。
「佐藤くん。
君、フォルダ整理してくれるんだってね? 本当に助かるよ!
総務経理のショートカット乱造で、うちの部署、いつもイライラしてたんだ!」
(やっぱり、ショートカット魔女が原因じゃないか!)
勇者の「忍耐スキル」は、清掃地獄に加えて、このカオスな社内政治にも対応しなければならなかった。
◆闇の工事呪縛と仮眠魔法
そして、本業の現場対応が始まった。
フナケンが手掛けるアパレル店舗改装は、営業後の夜間工事がメインだ。
「佐藤くん。
今日からこの図面通りに現場を動かすから。
朝は10時出社でいいけど、夜間工事は夜6時から深夜2時までだからね!」
これがフナケン流の【闇の工事呪縛】だった。
朝10時出社でも、深夜2時までの労働は、すでに軽く12時間オーバーだ。
深夜2時。
工事が終わり、帰宅しようにも馬車(電車)はもう動いていない。
「じゃあ、佐藤くん。
疲れただろ? 車で仮眠して、そのまま次の現場に直行な!」
リベンジは、異世界から持ってきたボロボロのオンボロ軽自動車の中で、勇者の「仮眠魔法」を使うしかなかった。
「……睡眠の質は最悪だが、魔王軍との野営に比べればマシか」
しかし、翌月の給与明細に書かれていたのは、衝撃の文言だった。
『雑費:仮眠費1,500円(車中泊)。』
ケチ夫は満面の笑みで言った。
「仮眠も立派な経費だからね!
家族への愛だよ!」
リベンジは、もはや自分が何時間働いているのかわからなくなっていた。
タイムカードは、「時間隠蔽魔法」によって存在せず、ケチ夫は月末にこう言い放った。
「佐藤くん。今月は残業が100時間超えてるけどさ、自主的に半分くらいに減らして申請してくれるかな?
家族のために、愛の奉仕を頼むよ!」
リベンジの「正義感スキル」は、ついに限界を突破した。
給与詐欺、トイレ監視、清掃天引き、フォルダ整理妨害、そして愛の奉仕と称した残業100時間自発的減申請。
「フナケン……この会社は、俺にとってのラスボスだ」
しかし、勇者は知っている。
ラスボスを倒すには、力ではなく戦略が必要だということを。
リベンジの心の中で、復讐の物語のプロットが、静かに紡ぎ出され始めたのだった。
【第6章:不当解雇と反撃の火蓋-Xバズの呪い-】
リベンジが「愛の奉仕」と称して残業100時間超を自発的に減申請した、その給与支給日の翌日だった。
俺はデスクで、次のアパレル店舗改装の図面を見ていた。異世界の魔術師が描く魔法陣よりも複雑な製図作業も、勇者の「集中スキル」のおかげで、もはや苦ではなかった。
そこに、神妙な顔つきをしたケチ夫がやってきた。
隣には、常に影のように存在感を消している雇われ社長「ヨコバー・ノーパワー」が立っている。
「佐藤くん。話がある」
ケチ夫は、昨日までのようにケーキの話をすることも、笑い飛ばすこともなく、静かに切り出した。
それが逆に、リベンジにとって不気味だった。
「キミの働きは、確かに優秀だった」
ケチ夫は、ヨコバー社長をチラリと見た後、さらに言葉を続けた。
「だが、フナケンの家族としては、ちょっと『個性が強すぎる』というか……」
(個性?
トイレの流れない落とし物を浄化して、経費天引きされたのが個性か?)
「……簡単に言おう。
クビだ。」
不当解雇。
理由も根拠もなく、ただ「個性が強い」という曖昧な言葉で、勇者は職を失った。
「用済み、ってことですね」
リベンジは冷静だった。
「ま、そう悲観しないで!
キミにはこの『退職合意書』にサインしてもらおうか」
ケチ夫は、リベンジの給与明細よりも薄い紙を差し出してきた。
「ここにサインしてくれれば、特別に、リニューアル工事が終わったばかりの高級ブランド店のケーキを二個つけてあげよう!
どうだ、太っ腹だろ?」
給料詐欺、トイレ監視、残業強要、そして不当解雇の圧力を、たった二個のケーキで処理しようとする男。
俺の【鑑定スキル】は、ケチ夫の頭上に、もはや魔王すら持たないだろう【特性:ブラック企業魂Lv.999】を表示していた。
「結構です」
リベンジは合意書を押し返した。
「ケーキは要りません」
「え? なんでだよ!
これ、一個三千円はするんだぞ!」
ケチ夫が慌てた様子を見せる。
リベンジは静かに立ち上がった。
「俺の復讐は、ケーキなんかじゃ収まりません」
リベンジはそのままオフィスを後にした。
彼の背後で、ケチ夫が焦燥に満ちた声で叫んだ。
「お、おい! 何もするなよ!
訴えるぞ! フナケンの名誉を傷つけたら、ただじゃ済まないぞ!」
◆Xバズの呪い:俺の物語で勝つ!
その夜。
リベンジはパソコンに向かい、小説投稿サイトの準備を進める傍ら、現代の最強の武器であるX(旧Twitter)に手を伸ばした。
「勇者が魔王を討伐するのに、力だけではダメだ。
世論を味方につける。これが現代の戦い方だ」
リベンジは、フナケンで体験した「ブラック企業あるある」の真髄を、ファンタジー風に変換して投稿した。
「#ブラック企業あるある」
異世界勇者が転生した先はブラック企業。
ラスボス(副社長)の口癖は「給料はケーキでいいよね?」。
トイレには流れない「魔王の落とし物」と「監視カメラの呪術」。
「愛の奉仕」と称して深夜の工事で残業100時間超を減申請。
そして、「フォルダ整理」を妨害する「ショートカット魔女」。
不当解雇されたので、この経験をラノベにして復讐します。
#異世界転生
投稿からわずか数時間後。
『ピーッ!』
スマホが異常な音を立て始めた。
通知が止まらない。
Xバズの呪いが、フナケン、そしてケチ夫を襲い始めたのだ。
1万RT突破。
コメント数:5,000件超。
「給料ケーキw」「トイレ監視は本当にやばい」「建設業あるあるすぎて泣いた」
フナケンという企業名は出していない。
所在地も特定できるような情報は一切入れていない。
ただ、リベンジが体験した「一般的なブラック企業あるある」が、現代の働く人々の心に深く突き刺さったのだ。
特に「給料はケーキでいいよね?」のパワーワードは、爆発的な拡散力を持った。
その翌朝。
フナケンには、「給料をケーキで払うとはどういうことだ」という、愉快犯も含めたクレーム電話が鳴り響いていた。
リベンジのスマホに、ケチ夫から震えるようなメッセージが届いた。
『佐藤リベンジ! 今すぐあの投稿を消せ! 名誉毀損で訴えるぞ!』
リベンジはコーヒーを一口飲み、静かに返信メッセージを入力した。
『副社長。
本作はフィクションです。
「給料をケーキで払おうとする会社」は、どこにでもありそうな話ですよね。
俺の物語で、勝たせてもらいますよ』
リベンジは、会社を潰すという低次元の復讐ではなく、物語という名の圧倒的な成功で、カズデ・ケチ夫を見返すことを選んだ。
これで、復讐劇の火蓋は切って落とされた。
【第7章:ラノベで復讐開始-物語でラスボスを見返す-】
Xに投稿した「#ブラック企業あるある」の波紋は、想像以上に大きかった。
フナケンの評判は地に落ち、新規の契約は激減した。
ケチ夫は毎日のようにリベンジにメッセージを送ってきたが、内容はもはや脅迫というより、泣き言に近かった。
『佐藤くん! うちの会社、本当にヤバいんだ!
頼むからあの投稿を消してくれ! 家族だろう!?』
「家族だろう、じゃねえよ」
リベンジはカフェの窓際で、新作のラテを飲みながら、冷ややかに呟いた。
「俺はもう、あの混沌とした魔王城の住人じゃない。
俺の戦場は、ここだ」
リベンジが向かっているのは、「カクヨム」の投稿画面だった。
Xでバズったエピソードを土台に、彼は短編小説の執筆を完成させた。
タイトルは、バズの原点にもなったストレートなものにした。
『異世界から転生したら、ブラック企業で働いていた(仮)』
リベンジは、フナケンでのすべての理不尽を、ギャグとファンタジー描写で昇華させた。
給与詐欺は「金銭隠蔽魔法」、流れない大便は「魔王の落とし物」、ケチ夫は「経費の亡者」。
最終的に、短編はプロット通り、3万字に達した。
「勇者の【筆のスキル】、まさかこの世界で使うことになるとはな」
異世界で培った集中力と、強烈な体験に裏打ちされた筆力は、読者の共感を呼んだ。
投稿した瞬間から、PVは爆発的に伸び始めた。
「すごい! 投稿数時間で、すでにブックマークが100を超えているぞ!」
読者のコメントは熱狂的だった。
「トイレ監視カメラは笑えないけど、笑ったwww 浄化スキル最高!」
「うちの会社にもショートカット魔女がいる! わかりみが深い」
「給料ケーキ! 伝説のブラックエピソードきた!」
フナケンの理不尽に耐え、それを面白いコンテンツに変えて見せる。
これが、リベンジの選んだ「物語による復讐」だった。
◆成功へのロードマップ
リベンジは、計画通り、短編の第1章と第2章(給与詐欺とトイレの悲劇)までを無料で公開し、残りの夜間工事や解雇のエピソードをnoteの有料記事として設定した。
「ターゲットは、ブラック企業に苦しむすべての勇者たちだ」
noteの収益は、最初の週で目標の半分を達成した。
その収益を原資に、リベンジはさらに小説を書き進めることを決意した。
そして、その年の暮れ。
リベンジの小説はAmazon KDPで正式な電子書籍として出版された。
表紙には、勇者の剣の代わりにノートパソコンを構えたリベンジが、ケチ夫を背後に見据える姿が描かれていた。
KDPの売上とnoteの収益を合わせた月収は、フナケンで約束されていた「手取り30万円」を遥かに超え、異世界で得た報酬よりも安定していた。
その知らせを、フナケンオフィスで知ったケチ夫の反応は、リベンジの耳に届くことはなかったが、リベンジの鑑定スキルは彼の現在の状態を予測できた。
『カズデ・ケチ夫:【状態:絶望】。
【特性:ブラック企業魂】崩壊寸前。』
リベンジは、キーボードを叩く手を止めた。
「フナケンという魔王城は、結局、俺の冒険の記録にしかならなかったな」
会社を潰すのではなく、自分の物語で成功する。
これが、リベンジの選んだ真の勝利だった。
彼は、新たな物語のプロットを考え始める。
「さあ、次は、ショートカット魔女との和解を描くか、それとも、新しいブラックなダンジョンに挑むか」
勇者・佐藤リベンジの新しい冒険は、始まったばかりだ。
(完)
同時投稿サイト/ PN 離職票の魔術師 にて活動中
■□━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥‥‥‥……………
法律的問題
こちらは法律に抵触し、問題になっている部分です。
一部、相手方企業にはご連絡差し上げている内容になります。
今後、どのように解決していくか・・・
記載していきますので、どうぞご購入いただきますようご理解のほど、よろしくお願いします。
法律手続きの経過に関して、こちらにリアタイで記載中。
まず、表にまとめてありますので、ご確認ください。
ここから先は
この記事、ちょっと気に入った? なら、チップで「ナイス!」って教えてください😎 100円からOK! いただいたチップで、夜中の執筆を支えるエナジードリンクを買います!
