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ブルーモーメント #パケどう【掌編小説】

 まだ暗闇が明ける前、しんと静まり返った中、どうしてか目が覚めた。いつかの懐かしい思い出に手が届きそうで届かない。私の記憶の奥底に眠ったそれになぜだか無性に触れたくなり、サンダルを履いて一人ベランダへと出た。薄らと白く淡い月に照らされた闇の中に人工的な光が点在している。思い出せないそれは夢の続きのような気がしていたが、目の前にある景色は紛れもなく現実だった。
 こんなモノが見たかったわけじゃない。でも、その懐かしい思い出が確かにそこに在る気がした。軽くて少しだけひんやりとした外気が私の素肌と肺胞から私の中へと浸透していく。私の熱が世界に融けきるのと同時に、世界も私と解け合うように青く染まった。
 『青い時間』
 あの時の叔父の言葉と、さっきまで見ていた夢を思い出した。それは知っている夢だった。そして、それが夢ではなく私の思い出だったのだと気づく。しかし、思い出という形のない記憶が本当は夢だったような気もした。それならばいっその事、この現実も夢であればいいのにと、青の世界へ混ざるように私は手摺に置いた腕に右頬を預け目を閉じた。


 あれは私がまだ8歳だった頃。仕事の忙しかった両親に代わって相手をしてくれていたのがアンドロイドの見守りロボットだった。ロボットは、情緒の安定していない子供にとっては自分の感情をぶつける格好の的となる。そのため、どの家庭でも当たり前のように普及していたが、壊れて当然のただの消耗品として扱われることが多かった。

 だけど、叔父は違った。叔父は19歳になり独り立ちしてからも幼少期から傍に置いていたアンドロイドロボットを捨てようとはしなかった。それが頭部だけの姿となってもなお、叔父はそのロボットを大切な人のように扱っていた。

 初めて叔父と会ったと記憶しているのは8歳の夏休みだった。
 両親は学会の研究発表で準備が忙しく、発表も遠方へ出向くことになっていた。そうして1週間ほど母方の祖父母の家へ預けられる予定だったのだが、厳格で気品のある祖父母が苦手だった私は一人で留守番すると駄々を捏ねたのだ。そんな私を見かねた母が預け先に選んだのが叔父の家だった。

「初めまして」
 私の目線まで腰を落として叔父は優しい声でそう言った。目と耳にかかるほどの艶のある自然な黒髪が、叔父の端正な顔立ちの良さをより一層引き立てている。私は一瞬その顔に見惚れ、それから明後日の方へと目を逸らした。

「1週間だけみたいだね。僕も夏休みだったからちょうどよかったよ。今日のお昼はどうしようか。何か食べたいものはある?」
 そうやって、緊張して固まっている私に叔父は穏やかに話しかけてくれた。ファミレスで昼食を摂り、叔父の家へと向かう頃にはもう、日々の出来事を笑って話せるくらいには打ち解けていた。

 アパートに入ってすぐ、私はリビングにいた頭部だけの彼女と目があって息を呑んだ。
 足を止めた私に叔父は察したように言った。
「あ、驚かせてごめんね。ルーシーっていうんだ。昔は僕の見守りロボットだったけど今はもう躰がなくて」
 なぜこんな姿になっても置いているのだろうか。壊れたら買い替える。不要になれば捨てる。それがロボットだと教わった。それなのに叔父はなぜ。
「まだ捨てないの?みんな壊れたら捨てるよ?」
 その問いは一瞬だけ宙に留まった。
「そうだね。でも、僕のことを分かってくれるのはルーシーだけだから」
 そう言って叔父は少しだけ悲しそうな顔をした。

 ルーシーは頭部だけではあったけれど、それでも会話は可能だった。とは言っても、すでに機種としては古く、この保存状態であることからも、それが辻褄の合わない会話であることは想像がついた。
「お帰りなさい、坊ちゃん。今日は早起きですね。何かご予定でもあるのですか」
「ただいま、ルーシー。今日は姪っ子を迎えにね。これから1週間ここで過ごすからよろしく頼むよ」
 叔父はそんな事を気にする様子もなく、まるで会話が噛み合っているように返してみせた。

 その晩、叔父はルーシーについて教えてくれた。
「ルーシーはね、物語を作るのが上手だったんだよ。彼女は僕のことを物語に登場させてくれたり、僕の日々を物語に変えてくれた。僕はそんなルーシーの話す物語が好きだった。そして、それを聞きながら眠るのが好きだった。今はこんな感じだけど、それでも僕はルーシーの物語が好きだし、それを聞きながら夜は眠りたいんだ」
 私はルーシーを愛おしそうに見つめる叔父の姿にどこか切なさを覚えた。
「私が泊まっている間もルーシーのお話し、聞いてもいいよ」
 それが私にできる精一杯だと思った。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。きっとルーシーも喜ぶよ」

 そうして私たちはいつもルーシーの話す辻褄の合わない物語を聞きながら眠りについた。
 叔父は少し気を遣ってくれたのか、ルーシーの話す声で眠れないということはなく、それは鈴虫の羽音や空調の雑音に紛れてしまうほど小さく落ち着いたものだった。
 叔父との時間はあっという間で、もう1週間が終わろうとしていた。最後の晩、その日のルーシーの物語を今も私は忘れられない。
「坊ちゃんはみんなのヒーローでした。正義が坊ちゃんの敵でした。振りかざされた正義は暴力となりました。大好きな言葉を汚されて、坊ちゃんは悲しみに暮れました。そして、光は影を落とし、そこから闇が生まれると知りました。感情が感情を生む事に疲れた坊ちゃんは、あの日、真っ暗な世界へと飲み込まれたのです。翌朝、坊ちゃんは生まれ変わりました。その日から坊ちゃんは何も感じなくなったのです。感じ方が分からなくなったのです。坊ちゃんは失くしたそれを今も探しています。あの日、坊ちゃんは闇と光の狭間にそれを置いてきてしまったのです」

 私は叔父が失くしたものが何だったのか気になった。それはきっと何か大切なもののような気がした。
「叔父さんは何を失くしたの?まだ探してるの?」
「僕が失くしたもの…なんだろうね。それを見つけられたら、僕はもう一度、心の底から笑えるのかな」
 心の底ってどこだろうと思った。泣きたい時には泣いて、怒りたい時には怒って、笑いたい時には笑う。生きるってそんな単純なものではないのだろうか。
「叔父さんの笑顔は笑顔じゃないの?」
 だから私には叔父の言っていることがよく分からなかった。でも、今なら分かる。
 叔父はどこか思い立ったように言った。
「もう一度探してみようかな。次に君と会った時は思いっきり笑えるように」

 まだ暗闇が明ける前。玄関の重い扉が閉まるような音で目が覚めた。重たい瞼を擦りながら、電気を付けてみると叔父の姿はどこにもなかった。
 私は叔父を探し、後を追うように玄関を出ると、外廊下の手摺から身を乗り出して辺りを見渡した。
 どこかへ向かう叔父の姿を捉えた私は、必死で呼び止めるように叫んだ。
「待って!」
 叔父は振り返ると、いつもの優しい穏やかな表情で微笑むように言った。
「青い時間。そこにきっとあるはずだから」
 その言葉を最後に叔父は、一瞬だけ訪れたあの青の世界に融けるように姿を消した。

 叔父は失くしたものを見つけられたのだろうか。そうしてもう一度、私は叔父に会えるだろうか。次は心の底から笑う叔父に。

 だから、この青い時間の中で私も、叔父と同じように失くしたものを探してみることにした。
 いつか叔父と心の底から笑い合える日のために。




早時期さん、すみません。間に合いませんでした。
2時間オーバーです😂

鈍感な蒔倉は、みんな何か楽しそう企画やってるな〜と思いながらぽけ〜としていて、少し前にようやく豆島さんの#パケどう を読んでハッとしました。

え?これいつまでの企画ですか???
そして気づく今日(昨日)までやないかーい!!
しかし丸一日勉強会で、ようやく内容を考え始めて着手したのが午後六時を回った頃でした。
絶対間に合わんやつ。そう思ったけど、せっかく書き始めちゃったし、ということで何とか書ききった感じです。そして、この時間です(笑)

青豆さんが教えてくれた『青い時間』をテーマに、#パケどう を考えてみました。
めっちゃぎゅんぎゅんで書いたので、内容がぐちゃぐちゃかもしれませんが許してください0(:3 _ )~

それと、時間外なのでマガジンに追加は難しいかもしれませんが、せっかく書いたので投稿だけさせてください🙇‍♂️


というわけで

読んでくださった皆様ありがとうございました。
何か問題等ありましたらコメントでご指摘して頂けると助かります。

それでは、おやすみなさいです(ノ_ _)ノ




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