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なんのはなしですか。【長編小説】30

 コニシを調べるのに思った以上に時間がかかってしまった。榎本は時計を見た。もう13時か。
 2人は軽く昼食を済ませると、さっそく路地裏へ向かった。

「今日は土曜日だ。休日となれば難民も路地裏へ出向いている可能性が高い」
「そうですね。僕はまた酒場の方を当たってみます」
「あぁ、頼んだ。俺は路地裏の奥を当たってみる」
 2人はいつも通り手分けして捜索へ当たった。

 榎本はホーミーが聞こえてくる方へと向かった。今日のホーミーはやけに賑やかな音だ。
 路地裏の先にある池のほとりに何人か集まっている。まさか布教活動か。
 1人はミルコ、残りの3人は始めてみる顔だ。女性が2人と男性が1人。
 男性は何やら木の板に糸を張ったような小さな道具を持っている。
 手前にいる方の女性は、やや赤みがかった肩までのボブで水色の戦闘服のようなコスプレ、まるでオームの出てくるジ〇リ映画の主人公を彷彿とさせる姿だった。
 そして奥にいる方の女性は、整った美しい顔つきに映える唇の赤。髪は後ろで束ねている。服装は…これは…寿司柄スカート…!
 榎本はすぐに思い出した。情総部でコニシについて尋ねてきた女性は寿司柄スカートネキという話だった。
 つまり、目の前にいるこの寿司柄スカート姉はコニシと関係があるというわけか。榎本は慎重に話しかけた。

「こんにちは、ミルコさん。ホーミーはやはり人を集める効果があるようですね」榎本が笑顔で近づく。
「あら、榎本さん。こんにちは。そうなの皆さんご興味があるようで」うふふとミルコも微笑む。
「今日は皆さんでホーミーを?」榎本がミルコを見る。
「えぇ。私、ホーミーで粉や粒を踊らせたり模様を描いたりできようになったんですけど、それでシャッターを壊してしまったんです。そしたら、そこのお婆ちゃんと月1回のボイストレーニングに行くことになってしまって…」

 榎本は呆気に取られた。まるで質問の答えになってない。何より全く話が見えてこない。ホーミーで遊んでいたらシャッター壊した?全く意味が分からないが、そのキッカケでお婆さんとボイトレに行く理由も分からない。
 榎本は理解することを諦めて、抗わず一旦受け入れる事にした。

「そこの先生が歌は地声で歌えって言うんです。私、もう地声がなんなのか分からなくなってしまって、歌っているとホーミーもどこかに消えてしまうんです。それを皆さんにお話したら、こうして集まってくれて」
 なぜこの話を聞いて集まろうと思えたんだ。というか、本当にいったい、なんの話しなんだ。
 榎本が理解に苦しんでいると寿司柄スカート姉が口を開いた。
「あなたも世界を救うためにここへ?」
 待ってくれ、唐突すぎる。世界を救うって、いったい何だ。何をそこまで背負っているんだ。榎本は困惑した。
「ホーミーは偉大です。ミルコさんは素晴らしい方なんです。そして私の推しです」と寿司柄スカート姉は続けた。
 榎本は察した。この女性もミルコに陶酔しているのか。そしてヲタクか。
「そうなんですね」榎本はとりあえず笑顔で返した。

「私も最近はホーミーでロボットを使役できるくらいにはなれました。しかし、まだ力不足です。ミルコさんや世界のためにもホーミーを習得する必要があるんです」
 寿司柄スカート姉の熱量にほだされてるのか、感化された男性が木の道具を咥え、そこに繋がった糸を引きながらビョーン、ビヨヨンと音を奏でる。
 そして男性は手を止めて、こう言った。
ティコがホーミーを習得したら、俺、このムックリで演奏するよ。相性良いはずだから
 その後もムックリ演奏ニキはビョンビョン、ビョーン、ビョビョビョンと鳴らし続けた。

「ティコさんと仰るんですね。私は榎本といいます」榎本は全員に向けて軽くお辞儀をした。
「はい、ティコです。榎本さんですね。あ、こっちのビョンビョンうるさい人は私の夫なので気にしないでください」とティコが笑う。
 ムックリ演奏ニキは音を鳴らしながら軽く頭を下げた。
 もう1人の女性も流れに応じて名前を開示した。
「私は、ナウシカと申します。ミルコさんがお困りのようだったので何かお力になりたいと思いまして」
 ナウシカ…そのまんまじゃないか。
 ナウシカは、まるでお花畑にでもいるようにルンルンとした雰囲気をしていたが、話し出すとやけにテンションが高い。どうにかすれば、言葉の最後に絵文字の幻覚でも見えそうだった。榎本は瞼をしばたいた。

「今、ナウシカさんに地声の出し方について教えて頂いてたんです」とミルコは言った。
「地声の出し方…」榎本が呟くように言う。
 するとナウシカが榎本へ訊いた。
「えぇ、良かったら、エノモートンさんにもお教えしましょうか」
 エノモートン!?何もかもが突然すぎる。なぜ突然、あだ名なんだ。それにエノモートンって何なんだ。音楽家的な意味合いなのか?まぁ、ここは話を合わせておいた方が得策か。
「よろしければぜひ」エノモートンは笑顔で答えた。

「結論からお伝えすると、大切なのはヨ〜ロレイッヒ〜です。ここで、ヨ〜ロレを地声で歌い、イッヒ〜を裏声で歌うことです」
 そこからはナウシカによる、恐ろしいほど情報量の多い、声うんちくが数十分に渡り続いた。どうやら知り合いである南野花子の受け売りらしい。
 榎本のライフはもうゼロになる寸前だった。
 ここにはこんな奴らが他にも溢れているのか…榎本は思わず白目を向いた。
 この人数を前に詳しい詮索は厳しいか。榎本は一旦本部へ戻ることにした。




次へ続く





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