なんのはなしですか。【長編小説】16
「ところで、路地裏の捜索はどうだったんですか。例の女と接触できましたか?」
「あぁ、女はミルコというらしい。自分の事を路地裏のプリンセスと言っていた。なんならそこにpersiまでやってきて共鳴し始める始末だ。最後までまるでなんの話しか分からなかった」
あの時間はいったいなんだったのか。自分はいったいなんの話しを聞かされていたのか。榎本は虚空を見つめた。
「それは不運なのか、幸運なのか…」宮下が苦笑する。
「まぁ、おかげで中毒者という確信は持てたけどな」榎本は煙草を一本取り出すと火をつけ軽く吹かせた。
するとパソコンを前に中毒者の名前をリストへ打ち込んでいた宮下の手が止まる。
「中毒者…?」
「どうした、宮下」
「いえ、もし仮に薬の影響ではなくウイルスの影響だとしたら…奴らは中毒者ではなく感染者ということになります」
「あぁ、そうだな、それがどうした」
「だとすれば、中毒者という名称をどうするべきか」宮下は眉間に皺を寄せ顎に手を置いた。
「宮下…ここへ来て、そんなこと真剣に悩む必要が本当にあるのか?」
榎本が腕を組み怪訝そうな顔付きで宮下を見た。
「あ、それもそうですね。#どうでもいいか」宮下は開き直るようにパソコンへ向かうとキーを叩いた。
『難民リスト』
1.(幻)蒔倉みのむし
2.(レジェンド)おすぬさん
3.(オヤジ)persi
4.(プリンセス)ミルコ…
榎本は記入されていくリストに目を細めた。
「難民?どういうことだ」
「あぁ、これは僕が今考えました。なんのはなしですかタグを使う難解な住民、略して難民です」
なぜかドヤ顔の宮下に、榎本はもう好きにしろとでも言うように鼻で笑った。
それにしても、まだ4人目か。腕を組んでリストを眺めていた榎本が思い出したように声を上げた。
「そうだ、あの時ミルコから共有してもらった動画があった」
「え、どんな内容ですか」宮下が訊く。
榎本は動画を再生した。
それは清水ミ〇コがホーミーという異様な肉声音で動物を集めようと試みている動画だった。
真顔で真剣な清水ミ〇コ。なぜか集まって来ているようにも見える動物達。そして、表しようのないシュールな空間。こんな内容だったのか。それであんなに盛り上がっていたというわけか。
「なんですかこれ、ヤバいですね」宮下が嘲笑する。
「ミルコは路地裏でこれを真剣にやっていた。そしてpersiもホーミーに興味を持っていた」
「本当に動物が集められると思っているんですかね」
「そうかもな。persiも猫にことわざを訊くくらいだ。猫を集める方法が知りたかったに違いない。それにpersiは自らウイルスに感染しているとも言っている。猫と話せる能力があるという妄想を抱いていてもおかしくない。あのプリンセスミルコも妄想の可能性が高い」
「persiとミルコを情総部に問い合わせてみますか?」
「いや、その必要は無い。奴らはどう見てもクロだろう。わざわざ時間をかけて漁らなくてもスキャナーで一発だ。まずはスキャナーを作ってもらう。それから奴らをスキャンしNo.874を割り出す」
「なるほど、確かにそうですね。じゃあ、明日にでもNHKへ向かいますか?」
「そうだな。とりあえず今日はこの辺で切り上げることにしよう」
次へ続く
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