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なんのはなしですか。【長編小説】3

「結局いつも同じ飲み物を選んじゃうよね」宮下はぽつりと独り言のように呟いた。
「あー、分かります。それにもうこれじゃないとやってられないですね」蒔倉は軽く笑った。

 やはり当たりか。いや、決めつけるのはまだ早い。宮下ははやる気持ちを抑え、軽く短い息を吐いた。

「そんなに好きなんだ。君――そういえば、自己紹介まだだったね。僕は宮下って言うんだけど、名前教えてもらってもいいかな」そういうと宮下は頭上にある自分の名前を蒔倉へ宛てて開示した。

「あ、蒔倉です。宮下さん、ですね」蒔倉も同様に名前の開示を行う。
 これはnoteの街における特殊な機能で、特定の相手に任意の情報を開示することができる仕組みだ。

「蒔倉さんか。蒔倉さんはなんでその飲み物が好きなの?そんなにそれ美味しいの?」
「んー、そうですね。美味しいですし、ハマりますね。中毒性って言うんですか。なんか飲みたくなっちゃうんですよね」
「中毒性…もしかして、ここに来る人たちはそれをよく飲んでたりするの?」
「どうなんですかね。シュ豪の方なら割と好きな人は多いんじゃないですか」
 蒔倉がグラスを持ち上げると、カランコロンという音とともに小さな気泡が次々とグラスの端を上った。

「蒔倉さん酒豪なんだ。だから全然酔ってる感じがしないのか」
「そうですね。酔わないですし、ビタミン摂取しながら自分の命を守れるんです。そう思うと超生命体飲料って、なんだかお得で最高ですよね」

「命を守れる…超生命体飲料…」いったい蒔倉はなんの話をしているんだ。酒で命を守れるだと…どういうことだ。やはりただの酒ではないということか。宮下は黙考した。

 そんな宮下を尻目に、届いた豆を食べながら蒔倉は訊いた。
「宮下さんも今度いかがですか。ライフガード。美味しいですよ」
「え、ライフガード?もしかして、あの迷彩柄のパッケージの炭酸ジュースのことか」
 蒔倉は「はい」と笑顔で答えた。

「でも蒔倉さんさっき酒豪って言ってなかった?」宮下は訊いた。
「シュ豪はシュワシュワしてる炭酸のシュと、酒豪の読みをかけて『シュ豪』です。私、下戸なんで」蒔倉は笑って見せた。

「なるほど、そういうことか」宮下は不思議となぜか蒔倉のよく分からない話に納得できた。
 蒔倉は満足そうにライフガードを飲み干すと、グラスをカウンターの前へ差し出した。
「ご馳走様でした。明日もあるんでそろそろ帰りますね。今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ付き合ってもらってごめんね」
「いえ、楽しかったです。また今度」そう言うと蒔倉は立ち上がり宮下へ軽く頭を下げ、その場を後にした。

 一人残った宮下は蒔倉との会話を思い返した。蒔倉の話ていることが一瞬分からなくなったことはあったが最終的には理解できた。果たしてこれが例の中毒者なのか、怪しいところではあったが確証とまではいかなかった。

 とりあえず榎本さんに連絡するか。宮下は店を出るとスマホを手に取り電話をかけた。

「お疲れ様です。榎本さん、どうですか。何か収穫ありましたか」
「いや、こっちは特にはなかった。そっちはどうだった」
「それが、蒔倉という少し怪しい雰囲気の奴はいたんですけど、確証が得られるほどではなく…」
「そうか。その怪しい奴をもう少し探ってみてもいいかもしれないな」
「そうですね。また探ってみます」
「詳しい報告は明日聞く。今日のことを少しまとめておいてくれ」

 榎本との電話が終わると宮下は帰路へついた。帰り道に歩きながらスマホのメモを開く。念の為録音しておいた会話のデータは帰宅後に他のメモリカードへ移行することにした。


次へ続く


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