鋳造・ダイカストとは何か ― 最古の金属加工が、EVのギガキャストへ。原理と注目企業6社
大晦日の夜、寺から響く除夜の鐘。その鐘も、電気自動車の車体を一発で成形する最先端の技術も、実は同じ一つの金属加工から生まれています。それが鋳造です。溶かした金属を型に流し込み、冷やして固めて形にする。仕組みはきわめてシンプルで、人類が紀元前から続けてきた最古の金属加工の一つでありながら、今まさにEVのものづくりを変える最前線の技術でもあります。

なぜ今、この技術を知る価値があるのでしょうか。一つには、EVの車体を巨大な鋳造機で一体成形する「ギガキャスト」が、自動車製造の常識を塗り替えつつあるからです。これまで数十、数百の部品を溶接して作っていた車体構造を、たった一回の鋳造で仕上げてしまう。この衝撃が、いま製造業の大きな注目を集めています。そしてもう一つ、鋳造には「同じ鉄でも、内部のある形を変えるだけで強さが激変する」といった、知れば思わず膝を打つ科学が詰まっています。この記事では、鋳造の原理から始め、多彩な鋳造法、鋳鉄をめぐる驚きの科学、ダイカストとギガキャスト、そして鋳造を阻む欠陥との戦いまでを解きほぐし、最後にこの技術を支える6社を紹介します。
1. 鋳造とは ― 溶かして型に流し、固めて形にする

鋳造とは、金属を熱で溶かして液体にし、目的の形をした型(鋳型)に流し込み、冷やして固めることで製品を作る加工法です。溶けた金属のことを溶湯(ようとう)、あるいは単に「湯」と呼びます。煮えた金属を型に注ぐ、その様子から生まれた呼び名です。
この加工の本質は、「液体を固めて形にする」という点にあります。前回紹介したプレス加工が、固体の金属板に力を加えて変形させるものだったのに対し、鋳造は金属をいったん液体に戻してから形を与えます。液体は型の隅々まで入り込めるため、複雑で入り組んだ形状や、中が空洞になった形でも、一回で作り出せるのが大きな強みです。削り出しのように材料を大量に削り捨てる必要がなく、完成形に近い形(ニアネットシェイプ)を一気に得られるため、無駄が少ないのも特長です。
鋳造は、人類最古の金属加工の一つです。紀元前の青銅器に始まり、貨幣、釣鐘、仏像、そして鐘と、はるか昔から連綿と受け継がれてきました。溶けた金属を型に注いで固めるという基本は、何千年たっても変わっていません。
鋳造を理解するうえで、いくつかの言葉を押さえておきましょう。溶湯を型に注ぎ込む入り口を湯口、溶湯が流れる通り道を湯道といいます。金属は固まるときに縮むため、その分を補うために余分な溶湯だまりを設けることがあり、これを押湯(おしゆ)と呼びます。製品の内部に空洞を作りたい場合は、中子(なかご)という砂などで作った塊をあらかじめ型の中に入れておき、鋳造後に崩して取り出します。これらをどう配置するかを考える「鋳造方案」こそ、鋳物づくりの腕の見せどころです。次の章から、その奥深い世界に入っていきます。
2. 型でこんなに変わる ― 鋳造法の種類

ひとくちに鋳造といっても、「どんな型を使うか」によって、いくつもの方法に分かれます。型が違えば、得意な製品も、精度も、コストもまるで変わります。代表的な鋳造法を見ていきましょう。
最も一般的なのが砂型鋳造です。文字どおり、砂を固めて型を作ります。砂型は溶湯を流して製品を取り出すたびに壊すため、大量生産には手間がかかりますが、大きな製品でも比較的安く作れ、少量生産にも柔軟に対応できます。鋳肌(表面)はやや粗くなりますが、エンジンブロックから工作機械の本体まで、幅広く使われる基本の方法です。
砂型に対して、金属でできた型を繰り返し使うのが金型鋳造です。なかでも、重力で溶湯を金型に流し込む方法を重力金型鋳造(グラビティ)と呼びます。圧力をかけずにゆっくり流すため空気を巻き込みにくく、砂型より精度が高く、後で述べるダイカストとの中間に位置します。
そして、金型に高速・高圧で溶湯を射出するのがダイカストです。寸法精度が高く、薄くて複雑な形を大量に作れる、現代のものづくりの主役級の方法です。これについては第4章で詳しく取り上げます。
ここで一つ、名前からして興味深い方法を紹介します。ロストワックス(精密鋳造)です。まずロウ(ワックス)で作りたい製品の原型を作り、その周りを石膏やセラミックで覆って固めます。次にこれを加熱すると、中のロウが溶けて流れ出し、製品とそっくりな空洞が残ります。その空洞に金属を流し込めば、複雑な形の製品が得られるという仕組みです。「ロストワックス」とは「失われたロウ」の意味で、原型のロウが消えてなくなることから、この名がつきました。型を一つずつ作り直す手間はかかりますが、きわめて複雑な三次元形状や、融点の高い金属(ダイカストでは扱えない鉄系や超合金)も成形でき、宝飾品からジェットエンジンの部品まで活躍します。
もう一つ、消える型を使う方法にフルモールド鋳造があります。これは、発泡スチロールで製品の模型を作り、砂の中に埋め込んで、そこへ直接溶湯を注ぐ方法です。すると、発泡スチロールは熱で燃えて気化し、消えると同時に、その空間が金属に置き換わります。砂型で必要な、型を抜くための傾き(抜き勾配)が要らず、模型さえ作れば素早く鋳造できるため、試作や大型の製品で威力を発揮します。
このように、鋳造法は型の工夫しだいで多彩に枝分かれしています。作りたいものの大きさ、形の複雑さ、数量、求める精度に応じて、最適な方法が選ばれているのです。
3. 黒鉛の形で、鉄が変わる ― 鋳鉄の科学

鋳造で扱う金属の中でも、とりわけ奥が深いのが鉄の鋳物、すなわち鋳鉄です。ここには、鋳造のいちばんの"そうだったのか"が隠れています。
鋳鉄とは、鉄に炭素を多く(およそ2%以上)含ませた合金です。鋼に比べて溶けやすく、型に流れ込みやすいため、鋳造に向いています。この鋳鉄の中で、炭素は「黒鉛」という形で存在します。そして、この黒鉛がどんな形をしているかで、鋳鉄の性質が劇的に変わるのです。
昔から広く使われてきたのがねずみ鋳鉄(灰鋳鉄)です。この鋳鉄では、黒鉛が薄い片のような形(片状黒鉛)で散らばっています。ところが、この薄片には弱点があります。薄片の先端に力が集中しやすく、そこが割れの起点になってしまうのです。そのため、ねずみ鋳鉄は強度が低く、引っ張ると比較的もろいという性質を持ちます。破面が灰色(ねずみ色)に見えることが、その名の由来です。
ただし、ねずみ鋳鉄が劣っているわけではありません。片状の黒鉛は振動をよく吸収し、加工もしやすく、摩耗にも強いという長所があります。黒鉛が一種の潤滑剤として働くためです。だからこそ、工作機械の本体(ベッド)のように振動を抑えたい部品や、エンジンブロック、マンホールの蓋などに、今も広く使われています。
では、ねずみ鋳鉄のもろさという弱点を、どう克服するか。ここに鮮やかな答えがあります。黒鉛の形を、片から球に変えればよいのです。これがダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)です。溶けた鉄に、マグネシウムなどをほんの少し加えると、黒鉛が薄片ではなく丸い球の形になります。黒鉛が球であれば、片状のときのような応力の集中が起きず、鉄の生地そのものの強さが活きてきます。その結果、ダクタイル鋳鉄はねずみ鋳鉄の数倍もの強度を持ち、しかも割れずにねばり強く変形する、優れた靭性を備えるのです。
考えてみれば、これは驚くべきことです。鉄の成分をごっそり入れ替えたわけではありません。マグネシウムを少し添加して、内部の黒鉛の形を片から球に変えただけ。たったそれだけで、もろい鋳鉄が、鋼に迫る強さとねばりを手に入れる。この発見が、鋳鉄の用途を一気に広げました。ダクタイル鋳鉄は、その強さと耐久性を買われて、上下水道の水道管、自動車の足回り部品、鉄道の車輪など、頑丈さが命の場所で活躍しています。黒鉛の形ひとつに、これほどの違いが宿っているのです。
4. 高速・高圧の魔法 ― ダイカストとギガキャスト

第2章で名前だけ挙げたダイカストを、ここで詳しく見ていきましょう。そして、その延長線上にある、いま話題のギガキャストへと話を進めます。
ダイカストとは、溶かした金属を、精密な金型に高速・高圧で射出し、瞬時に成形する鋳造法です。重力でゆっくり流すのではなく、強い圧力で一気に金型へ押し込むのが特徴です。これにより、寸法精度が高く、表面のきれいな、薄くて複雑な形の製品を、短時間で大量に作れます。型には鉄を使い、それより融点の低いアルミニウム、亜鉛、マグネシウムといった非鉄金属を流し込みます。自動車部品や家電、電子機器など、私たちの身のまわりの金属部品の多くがダイカストで作られています。
ダイカストには、溶湯を送り込む仕組みによって二つの方式があります。射出する部分が溶湯の入った炉の外にあり、毎回別の炉から溶湯を汲んで射出するのがコールドチャンバーです。高い鋳造圧力をかけられるため大型の製品に向き、アルミニウムに使われます。一方、射出する部分が溶湯炉の中にあり、汲む工程が要らずサイクルが速いのがホットチャンバーで、融点の低い亜鉛やマグネシウムに使われます。
ここで、ダイカストならではの難所に触れておきましょう。溶湯を高速で射出すると、その勢いで周囲の空気を巻き込みやすいのです。巻き込まれた空気は、金属が固まるときに気泡として内部に残り、「ガス巣」という欠陥になります。ある資料によれば、含まれるガスの量は、普通のダイカストでおよそ8.0cc(100gあたり)、ゆっくり流す重力鋳造では0.5cc程度とされ、速さと引き換えにガスを巻き込んでしまうことがわかります。この弱点に対しては、金型の中の空気をあらかじめ抜いておく真空ダイカストなどの対策が編み出されています。速く作る技術には、速さゆえの難しさがつきまとうのです。
そして、このダイカストを極限まで大きくしたのが、いま自動車業界を沸かせているギガキャスト(メガキャスト)です。これは、型を締めつける力が6,000トンを超えるような巨大なダイカストマシン(通称ギガプレス)を使い、自動車の車体構造の大きな部分を、アルミニウムで一体成形してしまう技術です。先駆けたのは米国のEVメーカー、テスラでした。同社は、車体後部の構造を一回の鋳造で作る発想を実現し、ある車種ではそれまで171点もあった部品を、わずか2点にまで減らしたとされています。
部品点数が激減すれば、溶接の工程が大幅に減り、製造はぐっと簡素になります。車体は軽く、剛性は高くなり、開発の期間も短縮できる。こうしたメリットから、トヨタやホンダをはじめ各社が独自のギガキャスト技術の開発にしのぎを削っています。一方で、巨大なマシンは一台数十億円ともいわれ、超大型のアルミ鋳物は内部に巣ができやすく品質管理が難しいといった課題もあります。それでも、数十の部品の集合体だった車体が一枚の鋳物に変わるというこの発想は、ものづくりの常識を根底から問い直すものとして、大きなうねりを生んでいます。
5. 鋳造を阻むもの ― 巣と収縮との戦い

鋳造は、溶かして流して固めるだけ、と言えば簡単に聞こえます。しかし実際には、健全な鋳物を作るのは容易ではありません。鋳造の品質を左右するのは、目に見えない内部の欠陥との戦いです。
最大の敵が、金属の収縮です。多くの金属は、液体から固体へと固まるとき、体積が縮みます。この性質が厄介な問題を生みます。型に溶湯を満たしても、冷えて固まる過程で金属が縮むため、その縮んだ分だけ、内部に空洞ができてしまうのです。これを「引け巣」と呼びます。第1章で触れた押湯は、まさにこの収縮への対策です。製品本体とは別に余分な溶湯だまりを設けておき、本体が縮んだ分をそこから補給することで、引け巣が製品の中にできるのを防ぎます。どこにどれだけの押湯を置くか、その見極めが鋳物の良し悪しを決めます。
もう一つの敵が、前章でも触れた「ガス巣」です。溶湯にもともと溶け込んでいたガスや、流し込む際に巻き込んだ空気が、固まるときに気泡となって残ります。さらに、溶湯が型の隅々まで行き渡らずに途中で固まってしまう「湯回り不良」もあります。薄い部分や複雑な部分ほど、溶湯が届く前に冷えて固まりやすく、形が欠けてしまうのです。
これらの欠陥を抑えるために、鋳物づくりでは、湯口・湯道・押湯をどう配置し、どこから溶湯を流し、どう冷やすかという「鋳造方案」が緻密に設計されます。かつては職人の経験と勘に頼っていたこの設計も、近年では溶湯の流れや凝固の様子をコンピューターで予測するシミュレーション(CAE)が活用され、試作の手間を減らしながら欠陥を防げるようになってきました。中子を使って中空構造を作る技術と合わせ、見えない内部をいかに制御するか。そこに、鋳造の奥深い技術が凝縮されています。
6. どこで使われているか ― 主な用途

鋳造とダイカストは、私たちの暮らしと産業を、足元から支えています。
最も大きな用途が自動車です。エンジンのブロックやシリンダーヘッド、トランスミッションのケース、ホイール、ブレーキの部品など、数多くの主要部品が鋳造で作られています。そして前章まで見たギガキャストによって、車体構造そのものまでが鋳造の領域に入ってきました。
社会インフラも鋳造の世界です。地中を走る上下水道の水道管には、強くて粘り強いダクタイル鋳鉄が使われ、道路のマンホールの蓋もまた鋳物です。工作機械では、振動をよく吸収するねずみ鋳鉄が、機械の本体(ベッド)に使われています。
このほか、ポンプやバルブ、各種の産業機械、そして鍋やフライパンといった日用品(南部鉄器などが有名です)、さらには冒頭で触れた鐘や仏像、銅像といった美術工芸品まで、鋳造の活躍の場はきわめて広大です。最先端のEVから、何百年も変わらぬ寺の鐘まで。同じ「溶かして固める」技術が、これほど幅広いものを生み出しているのです。
7. 注目企業6社

ここからは、鋳造とダイカストの世界で際立った強みを持つ国内企業を紹介します。最先端のギガキャストに挑む企業、巨大な鋳造機をつくる企業、大型鋳物や精密鋳造の専門企業、社会インフラを支える企業、そして伝統の美術鋳造を受け継ぐ企業。最古にして最先端という鋳造の幅広さが、6社の顔ぶれにそのまま表れています。
リョービ株式会社(広島) ― ギガキャストに挑むアルミダイカストの専業大手
リョービは、アルミダイカストを主力とする企業で、主に自動車産業向けにさまざまな構成部品を供給しています。軽くて丈夫なアルミダイカスト製品は自動車の軽量化に貢献しており、身近な自動車の中にも同社の部品が使われている可能性は高いといえます。
そのリョービが、いま大きな一歩を踏み出しています。同社は、ダイカストの専業メーカーとしては国内で初めて、ギガキャストに対応する6,000トン級の大型ダイカストマシンの導入を決め、ギガキャストへの参入を表明しました。産業機械メーカーのUBEマシナリーへ型締力6,500トンのダイカストマシンを発注し、静岡県菊川市の菊川工場の敷地内に専用工場を新設。2025年3月をめどに、超大型ダイカスト製品の試作サービス(設計・試作金型・試作品の提供)を始めるとしています。想定しているのは、車体やバッテリーケースといった大型部品です。部品を一体成形することで、二酸化炭素の削減やコストダウンを提案するとしており、長年培ったアルミダイカストの技術を、EV時代の最前線へと押し広げようとしている一社です。
芝浦機械株式会社(静岡) ― 世界最大級のギガプレスをつくる
芝浦機械は、ダイカストマシンをはじめとする各種の産業機械を手がけるメーカーです。前章まで述べたギガキャストを物理的に可能にしているのが、こうしたダイカストマシンメーカーの技術であり、芝浦機械はその最前線に立っています。
同社のダイカストマシンは、主に自動車用部品などの大型ダイカスト鋳物の生産現場で活躍してきました。そしてギガキャストの潮流の中で、同社は世界最大級とされる型締力12,000トンの超大型ダイカストマシンを手がけています。型締力とは、溶湯を高圧で射出する際に金型が開かないよう締めつける力のことで、この数字が大きいほど、より大きな製品を一体で成形できます。12,000トンという力は、巨大な車体構造をアルミで一気に鋳造するための、まさに桁外れの能力です。同社はダイカストマシンの制御システムや生産監視システムも自社で開発し、相模工場ではダイカスト技術を学ぶスクールを定期的に開くなど、装置を売って終わりではなく、鋳造技術そのものの向上にも力を注いでいます。ギガキャストという大変革を、装置の側から支える一社です。
株式会社木村鋳造所(静岡) ― 発泡スチロールが金属に変わる、大型鋳物の匠
木村鋳造所は、第2章で紹介したフルモールド鋳造法を看板とする鋳造メーカーです。発泡スチロールで作った模型を砂に埋め、そこへ溶湯を注ぐと、模型が燃えて気化しながら金属に置き換わる——あの独特の技法を、同社は強みとしています。木型を抜くための勾配が要らず、3DCADのデータから素早く模型を作れるため、開発品や試作品を短納期で仕上げられるのが大きな利点です。
同社のもう一つの特徴が、大型鋳物への対応力です。最大で長さ8.6mの鋳枠を備え、製品重量で最大40トンにもなる「大物」を製造できる設備を持っています。とりわけ、自動車の車体を成形するためのプレス金型に使われる大型の鋳鉄鋳物は、同社の主力分野です。前回紹介したプレス深絞りで使われる金型、その素材を作っているのが、こうした大型鋳物メーカーなのです。このほか、工作機械や産業機械、風力発電や上下水道の大型設備に使われる鋳物も手がけています。ITを活用した革新的なフルモールド鋳造システムでものづくり日本大賞の経済産業大臣賞を受けるなど、伝統的な砂型鋳造を独自の発想で進化させてきた一社です。
株式会社キャステム(広島) ― 製菓業から始まった精密鋳造のトップランナー
キャステムは、第2章で紹介したロストワックス(精密鋳造)を主力とする企業で、その沿革がたいへんユニークです。同社の創業は1948年、なんと社員2名の製菓業からでした。カステラや飴を作っていた会社が、やがて製菓機械の保全部門でロストワックス精密鋳造の試作を始め、その鋳造部門が独立して、今日の精密鋳造メーカーへと発展したのです。お菓子づくりから精密金属部品へという、異色の歩みを持つ会社です。
同社のロストワックス技術は、中空形状やアンダーカット、歯車形状といった複雑な三次元形状を得意とし、鉄系・ステンレス系・銅・アルミなど幅広い材質に対応します。ロストワックスメーカーとしては最多とされる累計3万型以上の実績を積み、一般産業分野では精密鋳造で国内トップシェアとしています。工作機械、半導体、航空宇宙、医療機器など、ミクロン単位の精度が求められる分野に部品を供給する一方で、金型製作から機械加工、表面処理や熱処理、組立までを一気通貫で対応できる体制を整えています。近年は自社ブランドのフィギュアや体験型店舗など、精密鋳造の技術を一般の人にも楽しく伝える取り組みでも知られる、ユニークなトップランナーです。
株式会社クボタ(大阪) ― ダクタイル鋳鉄管で水道インフラを支える
クボタは、農業機械や建設機械で広く知られる総合メーカーですが、その歩みの根底には鋳造の技術があります。とりわけ、第3章で紹介したダクタイル鋳鉄を用いた水道管、すなわちダクタイル鉄管で、同社は国内最大手の地位を占めています。
私たちが毎日使う水道。その水を送り届ける地中の水道管に、強くて粘り強いダクタイル鋳鉄が使われています。ダクタイル鉄管は、ねずみ鋳鉄の弱点を克服した強靭さに加え、耐震性があり施工しやすいことから、上水道の基幹をなす管として用いられてきました。その口径は、日本水道協会の規格で50mmの細いものから2,600mmにもなる大きなものまで定められており、街の隅々から幹線まで、あらゆる規模の水道を支えています。クボタは、こうしたダクタイル鉄管を長年にわたり供給し、国民生活に欠かせない水道インフラを足元から支え続けてきました。近年は、水道管の更新需要はあるものの市場の長期的な拡大が見込みにくいなか、業界他社との事業統合や、製造工程の脱炭素化(炉の電化)といった構造的な課題への対応も進めています。鋳造の技術が、暮らしの最も基礎的な部分を支えていることを教えてくれる一社です。
株式会社老子製作所(富山・高岡) ― 除夜の鐘を受け継ぐ、伝統の美術鋳造
最後に紹介する老子製作所は、この記事の冒頭で触れた鐘を作り続けてきた、伝統鋳造の名門です。「老子」と書いて「おいご」と読みます。創業は江戸時代中期にさかのぼり、富山県高岡市で400年近く続く伝統工芸「高岡銅器」の流れを汲んで、鋳物づくり一筋に歩んできました。同社が国内で占める鐘のシェアは約7割にのぼり、これまでに2万口を超える鐘を世に送り出してきたとされています。
同社の手がけた鐘は、私たちのよく知る場所に数多くあります。成田山新勝寺、比叡山延暦寺、京都の三十三間堂、そして広島平和記念公園に常設され、毎年8月6日の平和記念式典で打ち鳴らされる「平和の鐘」も、人間国宝を工房に迎えて同社が製作したものです。大晦日に各地の寺から響く除夜の鐘の中にも、同社が手がけたものが少なくありません。製法は、高岡銅器の最も古い技法とされる双型鋳造法で、青銅を用いてすべて手作りで仕上げられます。量産品ではなく、一つひとつ寸法も模様も文字も異なり、工芸士が数か月をかけて完成させるため、その音色に同じものは二つとないといいます。EVのギガキャストとはまるで対極にありながら、「溶かして固める」という鋳造の本質を最も古くから受け継いできた、かけがえのない一社です。
まとめ ― 最古にして最先端、溶かして固める技術
鋳造は、金属を溶かして型に流し、固めて形にする、人類最古の金属加工の一つです。そして同時に、車体を一発で成形するギガキャストとして、いまものづくりの最前線を走る技術でもあります。液体を固めるからこそ、複雑な形も中空の形も一回で生み出せる。この自由さが、鋳造の最大の強みです。
黒鉛の形を片から球に変えるだけで、もろい鉄が鋼に迫る強さを得る。高速・高圧で射出すれば薄く複雑な形が一気にできるが、その速さゆえに空気を巻き込む。金属は固まるときに縮むから、押湯で補ってやる。一つひとつの理屈を知ると、鋳造は「ただ溶かして流すだけ」の素朴な技術ではなく、材料の振る舞いと欠陥を緻密に制御する、奥深い技術だと見えてきます。
EVの車体をはじめ、軽くて複雑な部品を一体で作る鋳造の重要性は、これからのものづくりでいよいよ高まっていくはずです。そして今回紹介した6社のように、ギガキャストに挑む企業、巨大な鋳造機をつくる企業、大型鋳物や精密鋳造を極めた企業、水道インフラを支える企業、そして除夜の鐘を受け継ぐ企業が、それぞれの持ち場でこの技術を支えています。最先端の車体から、何百年も変わらぬ寺の鐘まで。次にどこかで金属の製品を目にしたとき、それがかつて熱せられて液体となり、型の中で静かに固まって生まれたものかもしれない——そんな想像を巡らせていただければ幸いです。
みんなの技術広報では、紹介したい技術・企業を募集しています。自社の技術を取り上げてほしい方は、お声がけください。
