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粉末冶金とは何か ― 金属の粉を押し固めて焼く、という第三の道



金属で部品をつくると聞いて思い浮かぶのは、溶かして型に流し込む鋳造か、叩いて形を変える鍛造か、削り出す切削でしょう。いずれも「かたまりの金属」を出発点にしています。ところが、まったく別の入り口から金属部品をつくる方法があります。金属をこまかい粉にして、金型で押し固め、融点より低い温度で焼く。粉末冶金(Powder Metallurgy、PM)と呼ばれる技術です。

日本国内で生産される焼結機械部品の94.5%は輸送機械向け、つまりほぼ自動車です(日本粉末冶金工業会 粉末冶金統計、2023年度)。自動車1台あたりの使用量は約7.3kg。エンジンのバルブシート、変速機のギヤ、オイルポンプのローター、パワーウインドウのモーター軸受まで、あらゆるところに入っています。そして興味深いことに、その内訳は近年大きく変わりました。2023年度の自動車部位別構成比では、電装品が53.2%と半分以上を占め、エンジン向けは16.2%にとどまります。電動化がエンジン部品を減らす一方で、モーターやセンサーの世界で粉末冶金の出番が増えているのです。

この記事では、粉末冶金とは何をしている技術なのかを工程と原理から解き明かし、その強みと、公表されている物理的な限界まで踏み込みます。そのうえで、この技術を粉の段階から支える日本企業10社を紹介します。

「溶かす」でも「削る」でもない、第三の道


日本粉末冶金工業会は粉末冶金を「金属粉の製造並びに金属粉から成形及び焼結工程によって製品を製造する冶金技術の一分野」と定義しています(粉末冶金ってなぁに?)。ポイントは、金属を液体にしないことです。

鋳造は金属を融点以上に加熱して液体にし、型に流し込んで固めます。鍛造は固体のまま塑性変形させます。切削は不要な部分を削り落とします。これに対して粉末冶金は、粉という「まだ形になっていない金属」から出発し、押し固めることで形をつくり、加熱によって粒どうしをつなげます。

この違いは、単なる工程の違いにとどまりません。三つの決定的な帰結を生みます。

第一に、溶かさないので、溶けない金属を扱えます。タングステンの融点は3422℃で、金属の中で最高です(高純度化学研究所)。これを溶かして鋳型に流すことは実用上きわめて困難ですが、粉にして押し固めて焼くなら常識的な設備で扱えます。

第二に、溶かさないので、混ざらないものを混ぜられます。液体にすれば比重差で分離したり、合金として反応してしまう組み合わせでも、粉のまま混ぜて焼けば、それぞれの粒子が個性を保ったまま同居した材料になります。金属と黒鉛、硬い粒子と軟らかい母材といった組み合わせが成立するのはこのためです。

第三に、削らないので、材料がほとんど無駄になりません。金型で狙った形に押し固めるため、原理的に切り粉が出ません。ニアネットシェイプ、つまり「ほぼ最終形状」で出てくるのが粉末冶金の基本的な立ち位置です。

粉末冶金の起源は、意外なほど古い

粉末冶金は近代の技術だと思われがちですが、日本粉末冶金工業会の粉末冶金の歴史によれば、5千年前にはすでに「海綿鉄を砕いて加熱焼結して道具をつくっていた」とされ、紀元前1000年頃の古代ヒッタイトでも粉末冶金法による鋼の製造が行われていたと記されています。溶かすための高温を出す技術がなかった時代、砕いて叩いて熱でくっつけるのは、むしろ自然な発想だったわけです。同工業会は、砂鉄を原料とする日本刀もまた粉末冶金の産物であるという見方を示しています。

近代の粉末冶金を決定づけたのは、白熱電球です。エジソンの炭素フィラメントに代わる材料としてタングステンが有望視されたものの、融点3422℃という性質が壁になりました。溶かして線にすることができないのです。この難問を解いたのがW・クーリッジで、黒いタングステン粉を加圧して槌で叩き、赤熱させて焼結してから細く伸ばすという方法により、常温でも延性を持つタングステン線が実現します。1913年には、細く延伸したタングステン線を密に巻き、アルゴンを封入した電球が成立しました(高純度化学研究所)。

つまり粉末冶金は、「溶かせないから、粉から作った」という消極的な理由で近代工業に入ってきた技術です。それが今や、溶かせる金属でもあえて粉から作るほうが得だという理由で、自動車1台に7kg以上使われています。

日本では、1943年の海軍大砲弾帯研究会に始まり、1956年に粉末冶金工業会が発足、1969年に現在の日本粉末冶金工業会となりました。同工業会は2026年に70周年を迎えます。

工程を分解する ― 混ぜて、押し固めて、焼く


粉末冶金の主流である「プレス焼結法」の工程は、驚くほどシンプルです。

1. 混合

原料となる金属粉に、必要な合金元素の粉(銅、ニッケル、モリブデン、黒鉛など)と、成形を助ける潤滑剤を加えて混ぜます。この段階で製品の材質がほぼ決まります。ここが粉末冶金の設計自由度の源泉で、たとえば黒鉛を混ぜれば焼結中に炭素が鉄に拡散して鋼になりますし、銅を混ぜれば焼結中に溶けて粒子の隙間に流れ込み、強度を上げます。

2. 圧縮成形

金型に粉を充填し、上下からパンチで加圧して押し固めます。出てくるのは「圧粉体(グリーン)」と呼ばれる、粉が機械的に噛み合っただけの状態です。まだ焼いていないので脆く、落とせば崩れます。それでも形は保っており、この状態でも加工ができることは後述します。

成形圧力の目安として、鉄粉メーカーが自社製品の圧粉密度を示すときの標準条件は490MPaです(JFEスチール 鉄粉カタログ)。この条件で、還元純鉄粉のJIP 240Mなら圧粉密度6.60Mg/m³以上、アトマイズ純鉄粉のJIP 304Aなら6.90Mg/m³以上に達します。鉄の真密度は約7.87g/cm³ですから、押し固めただけの段階で、すでに理論密度の84〜88%程度まで来ていることになります。残りの12〜16%が気孔で、この気孔をどう扱うかが粉末冶金という技術の主題です。

3. 焼結

圧粉体を炉に入れ、融点より低い温度で加熱します。一般的な焼結温度は1000℃〜1300℃で、鋳造の溶解温度より低い温度で処理できるのが特徴です(ファインシンター 粉末冶金とは)。鉄の融点1538℃に対して1120℃前後で焼くとすれば、絶対温度で見て融点の8割弱にあたります。溶けてはいないが、原子が動き回るには十分な温度、という絶妙な領域です。

炉の入口側には脱ろう(潤滑剤を燃やして飛ばす)のゾーンがあり、金属が酸化しないよう、還元性または不活性の雰囲気ガスの中を通します。

4. サイジング

焼結後、必要に応じてもう一度金型に入れて加圧し、寸法を整えます。焼結時にわずかに変形した部分を矯正する工程です。

5. 後処理

用途に応じて、含油(気孔に潤滑油を染み込ませる)、蒸気処理(高温蒸気で表面に四三酸化鉄皮膜をつくり硬度と防錆を上げる)、浸炭焼入れ、機械加工、表面処理などを行います。

ここで注意したいのは、焼結体には気孔があるため、浸炭焼入れの挙動が溶製材と違うという点です。ファインシンターは「気孔が存在するため、表面から深い距離まで浸炭される」ので一般鋼材とは異なる焼入れ条件が必要だと説明しています(ファインシンター 粉末冶金の技術・工法)。中が多孔質であることは、熱処理の設計にまで影響するわけです。

焼結の正体 ― 「表面をなくしたい」という物理

工程を追うと、どうしても腑に落ちない点が残ります。溶かしていないのに、なぜ粉が固まって金属の部品になるのでしょうか。

答えは、界面エネルギーにあります。焼結の熱力学的な駆動力は「全界面エネルギーの減少」です(日本金属学会 まてりあ)。物質は表面を持つことでエネルギーの高い状態に置かれます。そして粉というのは、同じ体積の塊に比べて表面積が桁違いに大きい、いわば「表面のかたまり」です。

したがって粉は、熱力学的にきわめて不安定な存在です。原子が動ける温度まで加熱してやると、系は自発的に表面積を減らす方向へ動きます。粒子どうしが接触している点で原子が移動しはじめ、接点が太くなっていく。この首のように太っていく部分を「ネック」と呼び、ネックの成長こそが焼結の実体です。

焼結は、粉を無理やりくっつける操作ではありません。粉が本来くっつきたがっているのを、温度を与えて許してやる操作です。ここが粉末冶金という技術のいちばん美しいところだと言えます。

ネックが太る、6つの道

原子がネックへ移動する経路は、大きく6つに整理されています(日本金属学会 まてりあ)。表面拡散、粒界拡散、体積拡散、蒸発・凝縮、粘性流動、塑性流動です。

そして、ここに焼結のいちばん重要な「そうだったのか」があります。この6経路は、緻密化に寄与するものと、しないものに分かれるのです。同文献は「表面拡散機構や気化・凝縮機構はネック成長は進むものの、粉末成形体全体の焼結緻密化には寄与しない」と明記しています。

表面拡散は、粒子の表面を這って原子がネックに集まる経路です。接点は確かに太くなり、強度は上がります。しかし原子は粒子の表面から表面へ移動しただけなので、粒子の中心間距離は変わりません。つまり、くっつくけれども縮まない。

これに対し、粒界拡散と体積拡散は粒子の内側から原子を供給するため、粒子の中心どうしが近づき、全体が収縮して密になります。緻密化を担うのはこの2経路です。

「焼結が進む」という一言の中に、強くなるだけの進み方と、縮んで密になる進み方の2種類が同居している。焼結条件の設計とは、この2つの進み方の配分をコントロールすることにほかなりません。

焼結は3段階で進む

焼結の進行は、相対密度で3つの段階に分けて理解されます(同前)。

初期段階は相対密度50〜60%程度。粒子間の接触点にネックが形成されはじめる時期で、気孔は成形体の表面から内部までつながった「開気孔」の状態です。収縮率は4〜5%程度。

中期段階は相対密度90〜95%。開気孔が閉じた気孔(閉気孔)へ移行し、粒界が動いて粒成長が起こります。

後期段階は相対密度95%以上。多面体化した粒子の角の部分や粒子の内部に気孔が孤立して残るだけとなり、それらが収縮・消滅して緻密化が完了します。

ただし、一般的な焼結機械部品は最後まで走りきりません。実用上は気孔を残したまま止めます。理由は次の2つで、ひとつは緻密化を追求するとコストが跳ね上がること、もうひとつは、気孔が必ずしも敵ではないことです。

粉そのものが、製品の性格を決める


粉末冶金は「粉を焼く」技術ですが、その出発点である粉が何からどう作られたかで、できる製品の性格が変わります。日本粉末冶金工業会は、粉末冶金用の主な製造方法としてアトマイズ法、酸化物還元法、電解法の3つを挙げています(金属粉末)。

水アトマイズ法 ― 丸くなる前に固まる

溶けた金属を細い流れとして落とし、そこへ高圧の水を吹きつけて粉々に砕く方法です。JFEスチールの技報によれば、噴射する水の圧力は10〜20MPaに達します(JFE技報 No.36)。

ここに面白い物理があります。液体になった金属の粒は、表面張力によって丸くなろうとします。しかし水による冷却は非常に速いため、日本金属学会の論文が指摘するとおり、液滴は「表面張力で球形化する前に凝固」してしまいます(まてりあ 第62巻第9号)。結果として、水アトマイズ粉は表面に突起の多い不規則な形になります。

不定形というと欠点に聞こえますが、粉末冶金ではむしろ利点です。形がいびつだからこそ、金型で押し固めたときに粒子どうしが絡み合い、圧粉体の強度が高くなります。焼く前の状態で崩れずに搬送できるかどうかは、量産現場では死活問題です。

同論文はさらに踏み込んだ事例を紹介しています。車載リアクトル向けの圧粉磁心の開発では、鉄損の低減には球形度の高い粉が有利であるにもかかわらず、「ガスアトマイズのような球形度の高い粉末ではなく、やや形状が不定形な粉末を採用」したというのです。球形粉は粒子どうしの絡み合いが弱く、機械的強度が足りなかったからです。教科書的には劣るはずの粉が、実装では正解になる。粉の世界の奥深さが表れた例です。

ガスアトマイズ法 ― 落ちながら丸くなる

窒素やアルゴンなどの不活性ガスで溶湯を分断する方法です。ガスは水に比べて冷却速度が遅いため、液滴は自由落下する間に表面張力で球形になってから凝固します。結果として、真球に近く、酸化が少なく、流動性の高い粉が得られます。

大同特殊鋼の技報によれば、水アトマイズの平均粒径は50〜60μmで、超高圧化によって10μm程度まで微細化できるとされています(大同特殊鋼 電気製鋼)。同社が1986年に超高圧ポンプを導入してMIM用の微粉製造を実現したことが、後述する金属粉末射出成形の普及を支えました。

還元法 ― スポンジのような粉

酸化鉄を還元して鉄粉にする方法です。できる粒子は多孔質で、粒子の内部にも数μmの気孔を持ちます。この「粉自体が多孔質」という性質が、見掛密度の低さや圧粉時の挙動の違いにつながります。

電解法 ― 樹のように育つ粉

電気分解によって陰極に金属を析出させる方法で、樹枝状(デンドライト)の粒子が得られます。純度が高いのが特徴で、アトマイズ法の原料に使われることもあります。

粒径が一桁変わると、技術の名前が変わる

同じ「金属粉」でも、用途によって求められる細かさはまるで違います。日本粉末冶金工業会が公表している粒径の目安は次のとおりです(金属粉末の特徴)。

粉末冶金機械部品用の純鉄粉は平均粒径70〜100μm。金属積層造形(AM)用のステンレス・特殊鋼粉は20〜70μm。そしてMIM(金属粉末射出成形)用は10μm以下です。ショットブラスト用ともなると200μm以上になります。

粒径が一桁変わると、成形の方法も、焼結時の縮み方も、実現できる形も変わります。粉末冶金という技術体系の中で、圧粉焼結・MIM・金属3Dプリンタが別の名前で呼ばれているのは、突き詰めれば粉の細かさが違うからです。

粉末冶金にできること、できないこと

ここまで見てきた原理から、粉末冶金の強みと限界がそれぞれ論理的に導かれます。

できること

材料が無駄にならないこと。ニアネットシェイプで出てくるため、切削のような切り粉が原理的に出ません。

溶けない金属を扱えること。タングステン、モリブデンといった高融点金属は、粉末冶金でしか工業的に成立しませんでした。

混ざらないものを混ぜられること。ファインシンターは摩擦摺動材について、「本来混ぜ合わせることのできない配合(硬い材料と軟性の凝着材料と摺動安定材など)」を粉末冶金によって成立させていると説明しています(粉末冶金の技術・工法)。溶かさないからこそ、性格の違う材料を同じ部品の中に共存させられます。

軽くできること。成形時に密度をコントロールできるため、ファインシンターは「鋳物の85%程度」の密度の製品が可能だとしています(粉末冶金とは)。

同じものを大量に、精度よくつくれること。金型で押し固めるため、寸法のばらつきが人の腕に依存しません。同社は製品寸法1/100mm以下の精度が確保できるとしています。

できないこと ― 公表されている物理的な境界

粉末冶金の限界がはっきり数字で公表されているのは、この分野の誠実なところです。日本粉末冶金工業会の焼結機械部品FAQには、次のような値が示されています。

製造可能な最大サイズは、過去の実績でφ284mm。これはプレスの最大荷重に依存します。押し固める技術である以上、面積が大きくなるほど必要な力が跳ね上がるためです。

はす歯歯車のねじれ角は36°が最大。金型から抜けなければならないという制約が、そのまま形の上限になります。

最小のギヤモジュールは0.045mm。

そして強度については、「焼結体は微細な気孔があることから、一般的に機械的強度や疲労強度は溶製材よりも低くなります」と明記されています。これは粉末冶金の宿命的な弱点で、対策としては高密度成形、浸炭焼入れ、熱間鍛造(焼結鍛造)、HIP処理といった手段が挙げられています。

裏返せば、この境界線を1度、0.001mm動かすことが、この業界の技術開発そのものだということでもあります。後述する各社の技術が、ほぼすべて「密度を上げる」「形の自由度を上げる」「工程を減らす」のいずれかに向かっているのは偶然ではありません。

気孔は欠陥か、機能か ― 焼結含油軸受という発想の転換

粉末冶金の気孔は強度を下げる欠陥です。ところが、この欠陥をそのまま機能に転じた製品があります。焼結含油軸受です。

焼結体の気孔に潤滑油を染み込ませ、自己潤滑性を持たせたベアリングで(日本粉末冶金工業会 焼結含油軸受)、外部から給油しなくても回り続けます。パワーウインドウのモーター、光ディスクドライブのスピンドル、プリンターの駆動部など、「一度組んだら分解して給油などしない」機構のほとんどがこれで支えられています。

ここで多くの人が持つ誤解を、ポーライトが自社サイトで正しています。油は自然に染み出しているのではなく、4つのメカニズムで出入りしているのです(焼結含油軸受の特長)。

第一に、ポンプ作用。軸が回転することによってポンプ作用が起こり、軸受内部の油が吸い出されます。第二に、油くさび効果。吸い出された油が軸受から軸を持ち上げ、金属接触を防ぎます。第三に、熱膨張。摩擦熱で油が膨張して摺動面にしみ出し、潤滑と同時に冷却も担います。そして第四に、静止時の再吸収。止まると摺動面の油は毛細管力によって再び気孔に吸い込まれます。

回れば出てきて、止まれば戻る。この往復があるからこそ、給油なしで数年から数十年動き続けられます。強度のために埋めたい気孔を、あえて残して油のタンクにする。粉末冶金の発想の柔らかさを象徴する製品です。

1%か、15%か ― 圧粉焼結・MIM・金属3Dプリンタの分岐

粉末冶金の全体像を掴むうえで、いちばん鮮やかな対比が「焼いたときにどれだけ縮むか」です。

圧粉焼結、つまり金型で押し固めて焼く従来型の粉末冶金では、焼結時の収縮率は通常1%前後です(日本粉末冶金工業会 FAQ)。押し固めた時点ですでに理論密度の85%前後まで来ており、粉も70〜100μmと比較的粗いため、焼いてもほとんど動かないのです。だからこそ寸法精度が出ますし、逆に言えば、そこから密度を大きく上げることも難しくなります。

一方、MIM(金属粉末射出成形)では話が変わります。10μm以下の細かい粉をバインダー(樹脂などの結合剤)と練り合わせ、プラスチックのように射出成形し、バインダーを抜いてから焼く方法です。細かい粉は表面積が大きく焼結が進みやすいため、相対密度95%以上に到達します(日本粉末冶金工業会 MIM)。その代償が収縮です。オリエンタルチエン工業は焼結後の収縮率を約15%と公表しており(MIM)、メーカーによって10〜20%とされます。

1%と15%。同じ「粉を焼く」でありながら、桁がひとつ違います。この差が両者の性格をそのまま説明します。圧粉焼結は縮まないから精度が出るが、金型から抜ける形に縛られる。MIMは縮む代わりに、射出成形の自由度でアンダーカットや横穴といった上下プレスでは不可能な三次元形状をつくれ、密度も高い。ただし15%縮むことを見越して金型を大きく設計する必要があり、その予測精度がメーカーの実力になります。

そして金属3Dプリンタは、この構図の延長線上にあります。日本粉末冶金工業会は金属積層造形の方式を4つに整理していますが(金属積層造形の方法)、そのうちバインダジェット(金属粉末を敷き詰めて樹脂を噴射し、その後焼結)と材料押出し法(金属粉末とバインダーからなる材料を溶融し、その後焼結)の2方式は、原理的にはMIMの成形工程を金型から3Dプリンタに置き換えたものです。残る粉末床溶融結合(PBF)と指向性エネルギー堆積(DED)は溶融によって直接結合させる方式で、焼結を伴いません。脱脂と焼結という後工程は、粉末冶金がすでに持っているものをそのまま使います。

粉末床溶融結合(PBF)のようにレーザーで溶かす方式であっても、粉をつくるのはアトマイズ法であり、供給するのは粉末冶金用の粉をつくってきたメーカーです。さらに、造形後に内部に残る空孔を潰すためにHIP(熱間等方圧加圧)が使われます。「金属3Dプリンタは新しい技術だ」と語られるとき、その足元は粉末冶金が100年かけて積み上げてきたものの上にあります。

数字で見る日本の粉末冶金

日本粉末冶金工業会の統計から、この産業の輪郭を確認しておきます。

まず、粉末冶金という言葉が指す範囲のうち、焼結機械部品が生産品目金額の約70%を占めます(焼結機械部品)。

需要先別では、2023年度で輸送機械用が94.5%。この産業は自動車産業と一蓮托生です。

その自動車の中での部位別構成比が、この記事でいちばん注目したい数字です。2023年度の内訳は、電装品53.2%、エンジン16.2%、ボディー15.8%、駆動5.4%、その他4.4%、フユーエル2.7%、シャシー2.3%。粉末冶金といえばエンジン部品というイメージが強いのですが、実際にはすでに電装品が過半を占めています。モーター、センサー、アクチュエーター、そして圧粉磁心(金属粉に絶縁被覆をして押し固めた磁性材料)の世界に、この技術の主戦場が移りつつあるということです。

自動車1台あたりの焼結部品原単位は、2000年の7.5kgに対して2023年は7.3kg。20年余りでほぼ横ばいです。エンジン部品が減ったぶんを電装品が埋め合わせてきた、と読むことができます。電動化は粉末冶金にとって逆風であると同時に、追い風でもあったわけです。

粉末冶金を支える注目企業10社

粉末冶金は、粉をつくる素材メーカー、粉から部品をつくる焼結メーカー、そして技術の境界を押し広げる専門メーカーが連なって成立しています。ここではバリューチェーンの上流から順に、特色の際立つ10社を紹介します。

粉をつくる

神戸製鋼所(アトメル) ― 同じ鉄粉が、部品にもカイロにも土壌浄化剤にもなる

神戸製鋼所は、高砂製作所内の鉄粉工場でアトマイズ鉄粉「アトメル」を生産しています。自動車用焼結部品の粉末冶金向け鉄粉について、同社は「国内で50%弱のシェアを有するトップメーカー」と説明しており、2021年度初頭には約18億円を投じて生産能力を年96千トンから110千トンへ、混合粉「セグレス」を40千トンから60千トンへ引き上げました(プレスリリース)。

製法は独自のV-ジェット方式による水アトマイズで、直流電気炉で溶製した鋼を高圧水で粉砕し、乾燥・分級・還元・解粒篩分を経て、黒鉛粉などの副資材と混合して出荷します(鉄粉ができるまで)。焼結部品メーカーが受け取る「粉」は、実は単一の鉄粉ではなく、合金元素と潤滑剤まで配合済みの混合粉であることが多いのです。

この会社の製品リストを眺めていると、思わぬものが出てきます。使い捨てカイロ用の鉄粉、食品の脱酸素剤用の鉄粉、そして土壌・地下水浄化用の鉄粉「エコメル」です。いずれも「鉄が酸素と反応する」という同じ性質の使い分けで、発熱側を使えばカイロ、酸素を奪う側を使えば脱酸素剤、還元力を使えば汚染物質の無害化になります。自動車のギヤになる粉と、冬にポケットで温めてくれる粉が、同じ工場から出ている。粉末冶金の素材メーカーは、「粉である」ことそのものを売っている企業でもあります。

JFEスチール(JIP) ― 圧延で剥がれ落ちた酸化鉄を、5日かけて還元する

JFEスチールは、還元鉄粉とアトマイズ鉄粉の両方を国内で唯一製造・販売している「総合鉄粉メーカー」だと公式サイトで説明しています。還元鉄粉は1965年、アトマイズ鉄粉は1978年に生産を開始しました。

注目すべきは還元鉄粉の原料です。原料はミルスケール、つまり鋼板を圧延する際に表面から剥がれ落ちる酸化鉄のスケールです。これをコークス等で還元し、水素雰囲気で熱処理して鉄粉にします。同社の技報によれば、粗還元にはおよそ1100℃で5日間程度をかけるとされています(JFE技報 No.36)。製鉄所の副産物を、5日かけてじっくり還元して部品の材料に戻す。高炉一貫メーカーだからこそ成立する製法です。

同社が両方の製法を持つ意味は、粉の性格の違いにあります。還元鉄粉は粒子内に空孔を持つ多孔質、アトマイズ鉄粉は空孔のない中実で高純度。多孔質は密度むらが小さく、中実は高密度の圧粉体が得られます。どちらが優れているかではなく、部品ごとに使い分ける対象なのです。なお同社技報によれば、鉄粉生産量の70%が自動車向けの粉末冶金用です。

余談ながら、同社の鉄粉はカイロ、脱酸素剤、ガス切断材、溶接材、乾式コピーのキャリアに加え、水稲の直播用にコーティングした種籾「粉美人」にも使われています。田んぼにも鉄粉が撒かれている、というのは意外な事実です。

エプソンアトミックス ― 毎秒数十万℃で冷やして、金属をガラスにする

エプソンアトミックスは青森県八戸市に本社を置く、セイコーエプソン100%出資の金属粉末メーカーです。1999年に大平洋金属の金属粉末事業・金属射出成形事業を継承して設立されました。

同社の中核は、独自の「S.W.A.P.法(Spinning Water Atomization Process)」です。高周波炉で溶解した合金にガスと冷却水を噴射し、毎秒数十万℃という超急速冷却をかけることで、原子が結晶に並ぶ暇を与えないまま固めます。できあがるのが、結晶構造を持たないアモルファス(非晶質)の合金粉末です。同社は2004年、アトマイズ法によるアモルファス合金粉末の量産化に世界で初めて成功しました(セイコーエプソン ニュースリリース)。

結晶粒界がないアモルファス金属は、磁気的なエネルギー損失が小さくなります。スマートフォンや車載機器の中で高い周波数で働くインダクタやリアクトルにとって、これは効率そのものです。同社はアモルファス合金粉末の生産能力を現在の約6,000トン/年から2028年度までに約8,000トン/年へ引き上げる計画で、約40億円を投じて2028年1月の稼働を予定しています(同前)。

さらに同社は、金属粉末の製造からMIMまでを一貫して手がける、世界的にも珍しい体制を持つと自社サイトで説明しています。粉をつくる会社が、その粉で部品まで作ってしまう。粉の性質を最もよく知る者が成形も担うという垂直統合です。

福田金属箔粉工業 ― 創業1700年の金銀箔粉商が、3Dプリンタ用の粉をつくる

福田金属箔粉工業の沿革は、日本の製造業でもなかなか例を見ません。創業は1700年(元禄13年)。初代当主が京都・室町で金銀箔粉の商いを始めたのが起点です。

そこからの歩みが、そのまま金属粉の近代史になっています。1879年に真鍮粉工場を開設、1908年には水車動力の真鍮粉工場として山科工場を開設。1936年に電解銅粉の製造を開始し、1957年に低融点金属のアトマイズ粉、1975年に高融点金属のアトマイズ粉を量産化。1956年からはプリント配線板用の電解銅箔も手がけ、そして2020年に積層造形用金属粉末の販売を開始しました。

同社は粉砕法、電解法、アトマイズ法を中心に1,000品種以上の金属粉を揃えています(金属粉事業)。技術情報のページでは、金属粉の製法を電解法、粉砕法・搗砕法、アトマイズ法、化学還元法、プラズマ回転電極法、均一液滴噴霧法、熱処理法の7つに整理して解説しており(金属粉ができるまで)、1社でこれだけの製法を並べているのは異例です。

元禄期に金銀の箔と粉を扱っていた京都の店が、320年後にスマートフォンの基板と金属3Dプリンタの材料をつくっている。「粉を扱う」という一点で、これほど長く続けられる商売もそうありません。

部品をつくる

住友電工焼結合金 ― 焼結炉を、焼入れ炉としても接合炉としても使う

住友電工焼結合金は、住友電気工業の全額出資により1972年に設立された焼結部品専門メーカーで、岡山県高梁市に本社と工場を構えます。2013年には岡山本社内に粉末冶金開発センター(PMEC)を設立しました。

同社の技術群を眺めると、ひとつの発想が繰り返し現れます。焼結炉を「形をつくる装置」としてだけでなく、熱処理装置としても接合装置としても使い倒す、という発想です。

シンターハードニングは、焼結炉の冷却ゾーンで急冷することで、焼結と焼入れを1回の炉通しで同時に済ませる技術です(シンターハードニング)。合金元素があらかじめ均一に入った完全合金原料のFe-Cr系材料を使うことで、拡散のための時間を必要とせず短時間焼結が可能になり、同時にニッケルを使わないレアメタル削減にもつながっています。

焼結接合は、独自開発のロウ材を使い、焼結の熱でロウ材を溶かして複数の部品を一体化する技術です(焼結接合)。金型では抜けない中空構造や長尺形状を、部品を分けて成形してから焼結中に接合することで実現します。遊星歯車機構のキャリアなどに使われています。

温間サイジングは、さらに攻めた技術です。誘導加熱でオーステナイト化した部品を油中で冷却し、マルテンサイト変態が始まるMs点の直上で取り出して金型に投入。そのまま金型の中で変態させて焼入れを完了させます(温間サイジング)。焼入れ変形を「起きてから直す」のではなく、「起きる瞬間を型で押さえる」という発想です。

そして成形体加工。焼結する前の、粉が固まっただけの圧粉体を切削する技術です(成形体加工)。切削抵抗が低いので工具が摩耗せず、削り粉はそのまま原料に戻せます。金型では不可能な横溝・横穴・薄肉・細穴深穴が加工でき、従来2部品を接合していたものを一体化できます。切削は焼結の後にやるもの、という前提そのものを外しています。

もうひとつ、同社の看板がオイルポンプ用ローターの歯形設計です。トロコイド曲線を用いた「パラコイド」(1980年〜)、サイクロイド曲線の「メガフロイド」(2003年〜)、特殊歯形の「ジオクロイド」(2008年〜)、そして「パラコイドEX」(2012年〜)と、40年かけて歯形曲線そのものを更新し続けてきました(歯形設計)。同社の技術資料によれば、ジオクロイドは従来歯形比で11%のサイズ縮小を実現し、2011年からハイブリッド車の変速機潤滑用途で採用が始まっています(SEIテクニカルレビュー)。

電動化への対応でも成果が出ています。2020年9月に発表されたアキシャルギャップモータ用圧粉磁心では、同等性能のラジアルギャップモータと比べて全長を83.0mmから35.0mmへ58%削減、重量を3.2kgから1.6kgへ50%削減し、最高効率90.9%を達成しました(プレスリリース)。粉を押し固めてつくる磁心が、モーターの形そのものを変えはじめています。

ファインシンター ― 新幹線は、焼結金属で止まり、焼結金属で電気を取る

ファインシンターは愛知県春日井市に本社を置く東証スタンダード上場企業で、設立は1950年12月。トヨタ自動車が21.4%を保有する筆頭株主です。前身は1947年設立の日本粉末合金と1950年設立の東京焼結金属で、2002年10月に合併して現社名となりました。

同社を語るうえで外せないのが鉄道車両向けの事業です。焼結すり板は設立当初から着目され、1951年には日本国有鉄道に採用されました。自動車部品への進出が1958年ですから、鉄道のほうが先なのです。

パンタグラフのすり板は、走行中に架線と擦れながら電気を取り込む部品です。同社のカーボン系すり板はC/Cコンポジット素材に金属を含浸させたもので、軽量でありながら曲げ強さと衝撃値が高く、耐アーク性に優れます。同社は自社サイトで「パンタグラフ舟体へのボルト締結が可能なのはファインシンター製のみ」と説明しています(鉄道車両用製品の技術)。

一方、ディスクブレーキ用のブレーキライニングは1968年から納入が始まりました。同社は寿命が他工法比で3倍以上、相手材の摩耗を1/3以下に低減できるとしています(同前)。

止めるのも、電気を取るのも焼結金属。しかも両者は技術的に地続きです。同社が摩擦摺動材について「本来混ぜ合わせることのできない配合」を成立させると説明しているとおり(粉末冶金の技術・工法)、硬い材料と軟らかい凝着材料と摺動安定材を溶かさずに同居させる、という一つの設計思想から、ブレーキとすり板の両方が生まれています。

工法の引き出しも豊富です。二層成形は高価な材料を仮成形してから安価な材料を充填し、断面を二層にすることで高価材の使用量を最小化します。貼り合わせは2部品を凹凸形状で組み、機械加工なしで上下面をオフセットした連結油路を確保します。ディンプルは放電加工で凹凸を付けた金型から微細凹凸を転写し、ショックアブソーバーの異音対策とします。そして「焼結ベント」は、溶浸によって極めて多数の平行で微細な直線状の空孔をつくり、アルミ鋳造や樹脂成形のガス抜きに使う製品です。気孔を欠陥ではなく通気路として売る、という発想がここにも現れています。

なお同社は2021年から昆虫食事業に参入しています。奇異に映りますが、公式サイトの説明は「長年培ってきた当社の中核技術である熱処理技術を応用」「微粉末加工」「独自の焙煎工法」というものです(昆虫食事業)。粉にして、混ぜて、加熱して、粒度を制御する。粉末冶金の中核ノウハウが、まったく別の産業へ横展開された事例と見ることができます。

ポーライト ― 「油が染み出す」のではなく「吸い出されている」

ポーライトは埼玉県北足立郡伊奈町に本社を置く焼結含油軸受・焼結機械部品・MIM製品のメーカーで、設立は1952年11月。創業時の社名は「東京オイレスメタル工業」で、1993年に現社名へ変更しました。多孔質を意味するporousに由来する社名を、自社製品そのものから採ったかたちです。

同社は自社サイトで、含油軸受の生産量実績を年80億個、小型モータ用含油軸受で世界シェアNo.1と説明しています(焼結含油軸受の特長)。別ページでは年間60億個以上の供給体制、生産個数で世界一、光ディスク駆動用モータでは圧倒的シェアとも記載されています(ポーライトの強み。いずれも同社自身による記載です)。原料粉と含浸油の自社開発、金型の自社設計、製造設備の自社開発まで手がけ、製品はすべてカスタム設計だとしています。

軸受材料の体系も公開されており、銅系・鉄系あわせて多数の材質について、密度5.3〜7.8×10³kg/m³、含油率6〜24vol%、圧環強さ50〜280MPa、許容PV値60〜210MPa・m/minという特性の幅が示されています(軸受の材料・材質)。含油率が6%から24%まで振れるということは、同じ「含油軸受」でも中身の設計はまるで違うということです。

意外なのは歯車です。焼結というと粗い加工を連想しがちですが、同社の高精度歯車はJIS 0〜1級を実現し、小モジュール歯車ではモジュール0.15〜0.30に対応します。製品事例では1ピッチかみあい誤差8μm、全かみあい誤差18μm(別事例で4μm/8μm)という数値が示され、インクジェットプリンターや大型カラーコピー機向けに月100万個以上の生産実績があるとされています(高精度歯車)。押し固めて焼くという工法で、この精度を月百万個の規模で出し続けている点に、量産技術としての凄みがあります。

リケンNPR ― カムシャフトは、削らず鋳らず、パイプに焼き付けてつくる

リケンNPRは、リケンと日本ピストンリングが統合して2023年10月に設立された東証プライム上場企業です(連結売上高1,631億円、連結従業員6,511名)。2026年4月に完全統合が完了し、事業持株会社へ移行しました。なお旧・日本ピストンリングの公式サイト(npr.co.jp)はこの再編に伴い閉鎖されているため、参照先はnpr-riken.co.jpになります。

系譜も興味深く、リケン側は1926年に理化学研究所でピストンリングの製造法が発明されたことに始まり、1927年に理化学興業が国内初のピストンリング製造を開始しています(沿革)。日本ピストンリング側は1912年の鈴木製作所開業が起点です。

粉末冶金分野での看板が、P/Mカムシャフトです。スチールパイプに焼結合金製のカムロブ(カムの山)を複合焼結、つまり焼き付けて一体化する工法で、同社は「リケンNPRでしか製造できないオンリー1製品」と説明しています(焼結製品)。特長は軽量、高耐面圧、そしてカム間隔の縮小化。鋳鉄製のカムシャフトと違い、エンジンに納める形とほぼ同じ形状で作れるため、鋳鉄製で必須だった後加工がほとんど要りません。

カムシャフトといえば、鋳造するか鍛造してから削り出すものだという先入観があります。中空のパイプに、必要な場所だけ焼結合金のカムを生やす、という考え方は、粉末冶金でなければ成立しません。

このほか、シリンダーヘッドに圧入されるバルブシート、アルミダイキャストの熱膨張制御と音振対策を担う軸受補強材、そしてMIM製品「メタモールド」を展開しています。MIMでは金型へのシボ加工転写によってQRコードのような微細形状も部品表面に転写でき、試作では寸法精度が15mm超で±2%、15mm以内で±0.3mm、面粗さRa3〜15μmという仕様を公開しています(MIM)。

レゾナック ― 「1回で2回分」の温間成形と、名前だけ生き延びたニッカロイ

半導体材料の会社として知られるレゾナックですが、その中には60年以上続く粉末冶金の生産拠点があります。千葉県松戸市の松戸事業所で、粉末冶金製品「ニッカロイ」を製造しています。

会社の系譜は日本の産業再編の縮図です。1960年に日立化工の松戸工場として開設、1963年に日立化成工業へ統合、1968年に粉末冶金製品部門の分離により日立粉末冶金の松戸工場となり、2014年4月に日立化成が日立粉末冶金を吸収合併。2020年に昭和電工マテリアルズへ、そして2023年1月に昭和電工と統合してレゾナックとなりました(松戸事業所)。社名は6回変わりましたが、製品ブランド名の「ニッカロイ」だけは変わっていません。

技術面で目を引くのが温間成形です。温めた金型に予熱した原料粉末を充填して成形する方法で、同社の説明によれば、通常の冷間成形と同じプロセスでありながら、2回成形2回焼結と同等の機械特性を実現します(粉末冶金の工法紹介)。粉末冶金で密度と強度を上げる王道は、成形と焼結をそれぞれ2回繰り返すことですが、それを金型と粉を温めるだけで1回のプロセスに畳み込む。工程数がそのままコストになる量産の世界で、これは大きな意味を持ちます。

このほか、歯面に高面圧がかかる部位だけを転造で高密度化する手法(焼結鍛造より経済的な部分的高密度化と説明されています)、熱間鍛造技術を応用して溶製材と同等以上の機械特性を得る焼結鍛造、固相拡散接合などを揃えています。前述したFAQの「気孔があるため強度が溶製材より低い」という限界に対して、部位ごとに、あるいは工程の工夫で挑んでいる姿が見えます。

境界を広げる

太盛工業 ― 髪の毛の半分の穴を、削らずに「成形して焼く」

太盛工業は大阪府寝屋川市に本社を置く従業員約40名のMIMメーカーです。1972年に東大阪で創業し、1974年に設立されました。

同社の超精密MIM「μ-MIM」の公開スペックは、粉末冶金にできることの境界を示しています(μ-MIMとは)。相対密度は一般的なMIMの95〜98%に対して98.5%超。最小肉厚0.1mm(6mm角)。最小穴径Φ0.03mm。5mm以下の寸法公差±0.01mm。超微細粉末を使った場合の表面粗さRa0.3μm。製品サイズは10mm未満、重量10g以下の領域が主戦場です。

Φ0.03mmという穴は、人間の髪の毛の半分ほどです。それを切削で開けるのではなく、粉とバインダーの練り物を射出成形し、バインダーを抜いて焼く、という一連の流れの中で成立させています。しかも焼結時に15%前後縮むことを織り込んだうえで、この公差に収めるわけです。

対応材質はステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、貴金属など。医療機器や精密機器の分野で、この寸法域の金属部品を量産できる企業は世界的にも限られます。同社は2022年にドイツ、2024年にアメリカへ現地法人を設立しており、従業員約40名の企業が欧米に拠点を構える理由が、この数字の中にあります。

まとめ ― 粉から作ることの意味が、変わりはじめている

粉末冶金を一言に凝縮すれば、「金属を溶かさず、粉のまま形にする」技術です。溶かさないから高融点金属を扱え、混ざらないものを混ぜられ、削らないから材料が無駄にならない。そして焼結という現象そのものは、表面積を減らしたいという物質の性質を、温度を与えて解放してやるだけの、きわめて素直な物理でした。

同時に、この技術には気孔という宿命的な制約があります。強度は溶製材に及ばず、最大サイズはφ284mm、はす歯のねじれ角は36°まで。工業会が限界値を公表していることは、この分野の誠実さであると同時に、そこが技術開発の最前線だという宣言でもあります。実際、今回紹介した各社の技術は、密度を上げる、形の自由度を上げる、工程を減らすという3方向にきれいに整理できます。

そして風向きが変わりつつあります。自動車部位別の構成比で電装品が53.2%に達したという数字が示すとおり、粉末冶金の主戦場はエンジン部品から、モーター・センサー・圧粉磁心の世界へ移りつつあります。粉に絶縁被覆を施して押し固めるという発想は、鋼板を積層してつくる従来のモーターコアでは実現できない三次元的な磁路を可能にし、モーターの形そのものを変えはじめました。

さらに、金属3Dプリンタの普及は粉末冶金にとって競合ではなく地続きの拡張です。造形用の粉をつくるのはアトマイズ法であり、バインダジェッティングや材料押出し法は脱脂・焼結という粉末冶金の後工程をそのまま使い、造形物の空孔を潰すHIPもまた粉末冶金が育ててきた技術です。金属をリサイクルする際にも、原料形態が粉であることは有利に働きます。

タングステンが溶かせないから粉から作った、という消極的な出発点から100年。いまは、溶かせる金属をあえて粉から作ることに、精度・省資源・材料設計の自由という積極的な理由があります。次にクルマのドアの窓を開けるとき、その静かなモーターの中で、給油もされずに回り続けている多孔質の金属を思い出してみてください。そこにあるのは、粉と圧力と熱だけでつくられた、5千年前から続く技術の最新形です。

みんなの技術広報では、紹介したい技術・企業を募集しています。自社の技術を取り上げてほしい方は、こちらからお声がけください。

参考リンク:日本粉末冶金工業会 粉末冶金ってなぁに?焼結機械部品焼結機械部品FAQ金属粉末の特徴焼結含油軸受MIMの特徴金属積層造形の方法粉末冶金統計日本金属学会 まてりあ「焼結の基礎」まてりあ「圧粉磁心と純鉄粉」JFE技報 No.36 鉄粉工場概要大同特殊鋼 電気製鋼「最近の合金粉末製造技術と粉末製品」

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