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射出成形のいま:基礎から最前線まで。原理・種類・用途と、その射程を広げる注目企業5社



スマートフォンの筐体、自動車のバンパーやコネクタ、家電のボタン、ペットボトルのキャップ、医療現場で使う使い捨ての器具。私たちの身の回りにあるプラスチック製品の多くは、「射出成形」というひとつの加工法から生まれています。それほど広く使われている技術でありながら、その中身がきちんと語られる機会は意外なほど多くありません。

射出成形の原理は、ひとことで言えば「溶かして、流して、固める」だけです。加熱して液体状にした樹脂を金型へ押し込み、冷やして取り出す。この単純さこそが、複雑な形を、速く、安く、大量に作れる強さの源になっています。

ただ、この記事でお伝えしたいのは、その単純な原理の「先」です。射出成形はしばしば「枯れた技術」と見なされますが、実際にはいまも射程を広げ続けています。肉眼では見えない歯車を成形する世界、金属と樹脂を接着剤なしで一体化する世界、成形と同時に絵柄やタッチセンサーを埋め込む世界。どれも、あの「溶かして流して固める」の延長線上で起きていることです。

本記事では、まず射出成形の原理・仕組み・材料・工法・用途を一通り整理します。そのうえで、射出成形がいまどの方向へ進化しているのかを、それぞれの最前線を走る5社を例に見ていきます。技術に携わる方が、明日の仕事のヒントとして、あるいは純粋な知的好奇心の対象として読めるよう、なるべくていねいに書きました。

射出成形とは——名前の由来は「注射器」

射出成形(injection molding)とは、合成樹脂(プラスチック)などの材料を加熱して溶かし、金型のなかへ高い圧力で送り込み、冷やして固めることで目的の形を作る成形法です。溶けた材料をノズルから金型へ「注入する」様子が注射器に似ていることから、射出成形と呼ばれるようになりました(キーエンス「射出成形とは」)。

加工の流れは、材料を「溶かす」ことから始まり、「流す」「固める」「取り出す」「仕上げる」と続きます。具体的には、粒(ペレット)状の樹脂をホッパーから投入し、シリンダー内で200℃前後に加熱して溶かし、スクリューの力で金型のなかへ射出します。金型のなかで冷やされた樹脂は設計どおりの形に固まり、金型を開いて製品を取り出します。

この方式の最大の強みは、複雑な形をした部品を、連続して、速く、大量に作れることです。いったん金型を用意してしまえば、同じ品質の製品を何万個、何十万個と再現できます。歯車のような細かい形状も、家電の筐体のような大きな形状も、原理としては同じ仕組みで成形できます。だからこそ、日用品から自動車、電子機器、医療機器まで、これほど幅広い分野で使われているのです。

一方で、金型を作るのに相応の費用と時間がかかるため、ごく少量だけ作りたい用途には向きにくいという面もあります。射出成形は「最初に金型へ投資し、量産で回収する」という考え方の技術だ、と理解しておくと全体像がつかみやすくなります。逆に言えば、たくさん作るほど一個あたりが安くなる。この経済性が、プラスチック製品が私たちの生活にこれほど普及した背景にもなっています。

ここで、ほかの樹脂成形法と比べておくと、射出成形の立ち位置がはっきりします。プラスチックの成形には、中空のボトルをふくらませて作る「ブロー成形」、パイプやフィルムのような長く一定の断面を作り続ける「押出成形」、温めたシートを型に沿わせて成形する「真空成形」などがあります。これらに対して射出成形が得意とするのは、立体的で複雑な形を、寸法精度よく、繰り返し大量に作ることです。ボトルならブロー、長尺ものなら押出、というように、作りたい形によって最適な工法は変わります。射出成形は、そのなかでも「複雑な立体部品の量産」という、もっとも適用範囲の広い領域を担っている、と位置づけられます。

もう一つ、量産を語るうえで欠かせないのが「多数個取り」という考え方です。一つの金型に同じ形のキャビティを複数設けておけば、一回の射出で何個も、ものによっては何十個もの製品を同時に成形できます。ペットボトルのキャップのような小さな部品を、私たちが意識しないほど安く手にできるのは、こうした工夫の積み重ねがあるからです。金型への初期投資を、量産でどう回収するか。射出成形の経済性は、こうした設計の知恵と分かちがたく結びついています。

仕組みを分解する——成形機と金型

射出成形を支えているのは、「射出成形機」と「金型」という2つの要素です。それぞれの役割を見ていきましょう。

射出成形機は、大きく「射出ユニット」と「型締めユニット」の2つで構成されます。射出ユニットは、樹脂を加熱して溶かし、スクリューの押し出す力で金型へ射出する部分です。型締めユニットは、金型をしっかり閉じて樹脂が漏れないように保持し、冷却後に金型を開いて成形品を取り出す部分です(射出成形の解説/ソディック)。製品が大きく、射出する樹脂の量や圧力が大きいほど、金型を強く閉じておく力(型締め力)が必要になります。成形機の能力が「トン数」で表されるのは、この型締め力を指しています。

成形機の駆動方式には、サーボモーターで動く電動式、油圧で動く油圧式、両者を組み合わせたハイブリッド式があります。近年は、位置決めの精度や再現性、省エネルギー性に優れる電動式が広く普及してきました。同じ製品を延々と作り続ける量産において、一打ごとのばらつきの少なさは、そのまま品質と歩留まりに直結します。

もうひとつの主役が金型です。金型のなかには、製品の形を写し取る空間である「キャビティ」、溶けた樹脂が流れる通り道である「ランナー」、そして樹脂がキャビティへ入る入口である「ゲート」が設けられています。製品の精度や品質は、この金型の設計と温度管理に大きく左右されます。極端に言えば、金型の出来が製品の出来を決めると言ってもよいほどで、だからこそ金型の設計・製作には高い技術が求められます。

ここで、射出成形を理解するうえで欠かせない現象を一つ紹介します。溶けた樹脂は、冷えて固まるときに収縮します。何もしなければ、収縮した分だけ表面にくぼみが生じてしまいます。これを「ヒケ」と呼びます。ヒケを防ぐために、樹脂を充填したあと、固まりきるまで圧力をかけ続けて材料を補給し続けます。この圧力を「保圧」と呼びます。保圧は、見た目には地味な工程ですが、製品の見栄えと寸法精度を左右する重要な役割を担っています。実は、このあと紹介する発泡成形や金属接合の技術も、突き詰めればこの「収縮」と「圧力」をどう制御するかという発想とつながっています。射出成形の応用技術を読み解く鍵が、この保圧とヒケの関係にあると言ってもよいでしょう。

射出成形では、「型を閉じる→射出する→保圧する→冷やす→型を開く→取り出す」という一連の動作を1サイクルとして、これを繰り返します。1サイクルにかかる時間を「成形サイクル」と呼び、これを短くできれば、それだけ生産性が上がりコストが下がります。なかでも冷却にかかる時間は成形サイクルの大きな割合を占めるため、いかに早く、かつムラなく冷やすかが工夫のしどころになります。後述する応用工法の多くも、品質を高めると同時に、このサイクルをいかに縮めるかという競争の側面を持っています。

材料の話——汎用樹脂からスーパーエンプラまで

射出成形で使われる材料の主役は、熱を加えると軟らかくなり、冷やすと固まる「熱可塑性樹脂」です。この「温めると軟らかくなる」性質を繰り返し利用できるからこそ、溶かして成形するという加工が成り立ちます。

樹脂は、性能とコストのバランスで、おおまかに階層化してとらえると理解しやすくなります。

身近なところでよく使われるのが「汎用樹脂」です。たとえばABS樹脂は、耐衝撃性と加工性に優れ、家電や自動車内装に多く使われます。ポリプロピレン(PP)は軽くて安く、容器や日用品に。ポリカーボネート(PC)は透明性と強度を兼ね備え、光学部品やカバー類に。POM(ポリアセタール)は摩擦に強く寸法が安定しているため、歯車などの機械部品に向きます。それぞれに得意・不得意があり、製品に求められる性質によって使い分けられます。

より高い性能が求められる場面では「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」が、さらに過酷な耐熱性・耐薬品性が必要な場面では「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」が使われます。PPS、PEEK、PFAといった樹脂がこれにあたり、自動車のエンジンまわりや半導体製造装置、医療といった、要求の厳しい領域で活躍します。これらは価格も高く、成形の難易度も上がりますが、金属に近い耐久性や、金属では得られない特性が必要な場面で力を発揮します。

ここで押さえておきたいのは、「用途が材料を決め、材料が成形条件を決める」という関係です。同じ射出成形でも、扱う樹脂によって必要な温度も圧力も金型の設計も変わってきます。この後で紹介する企業の強みも、突き詰めれば「どの材料を、どんな条件で、どこまで精密に扱えるか」という勝負になっています。材料と成形は切り離せない、という視点を持っておくと、各社の技術の意味がより立体的に見えてきます。

一歩進んだ工法——射出成形の「拡張」

「溶かして流して固める」という基本のうえに、射出成形にはさまざまな応用工法が積み重ねられてきました。ここが、射出成形の奥行きをもっとも感じられるところです。代表的なものを見ていきましょう。

ひとつめは「インサート成形」です。金型のなかに、あらかじめ金属のネジや端子などの部品(インサート品)をセットしておき、そのまわりに樹脂を流し込んで一体に成形する方法です。樹脂の絶縁性を活かしたコネクタやスイッチ、ドライバーなどの工具の柄に使われます。別々に作って後から組み立てる代わりに、成形と同時に一体化できるのが利点です(インサート成形法/ミスミ)。

ふたつめは「2色成形・多色成形」です。色や材質の異なる2種類以上の樹脂を組み合わせ、一体に成形する方法です。たとえば、硬い樹脂のボディに、軟らかいゴム状の樹脂のグリップを一体化する、といったことができます。代表的な方式の一つが「回転2色成形」で、2つの射出ユニットを持つ専用機を使い、可動側の金型を180度回転させながら、1次側と2次側の樹脂を1サイクルで成形します。2つの材料は成形の工程で溶着されるため、後工程で接着する必要がありません。工程の削減と品質の安定につながる工法です(2色成形とは/MFG Hack)。

みっつめは「ガスアシスト射出成形」です。樹脂を充填したあと、窒素などのガスを注入して、内部から圧力をかける方法です。保圧の効果を高めてヒケや反りを抑えられるほか、製品の内部を中空にできるため、形を保ったまま軽量化できるという使い方もあります(射出成形とCAE/旭化成)。

よっつめは「微細発泡成形」です。窒素や二酸化炭素を「超臨界流体」と呼ばれる特殊な状態にして樹脂に溶け込ませ、成形時の圧力変化で内部に微細な気泡を無数に発生させる方法です。MIT(マサチューセッツ工科大学)で考案され、トレクセル社が「MuCell」の名称でライセンス展開している技術が知られています。内部が微細な気泡構造になることで、製品設計と組み合わせて5〜40%程度の軽量化が可能になるほか、収縮が均一になるためヒケや反りを抑え、保圧が不要になることで成形サイクルを短縮できる、といった利点があります(MuCell/トレクセル)。「気泡を成長させて収縮を相殺する」という、保圧とは逆方向からのアプローチで品質と軽さを両立させているのが、この工法の面白いところです。

いつつめは「成形同時加飾」です。絵柄や機能を持たせたフィルム(転写箔)を金型のなかに挟み込み、射出成形と同時に、成形品の表面に絵柄や質感を写し取る方法です。塗装やシルク印刷では難しい風合いを、一度の成形で実現できます。「IMD」「IML」と呼ばれる手法がこれにあたり、後ほど詳しく紹介します。

こうして並べてみると、射出成形は「ただ単色の樹脂を流し込むだけ」の技術ではないことがわかります。金属を埋め込み、複数の材料を組み合わせ、気泡で軽くし、表面を飾る。基本原理は同じでも、その上に積まれた工夫の幅はとても広いのです。次章で紹介する企業たちは、まさにこの「拡張」のそれぞれの方向を、極限まで突き詰めた存在だと言えます。

主な用途——どこで使われているか

射出成形で作られた製品は、文字どおり身の回りにあふれています。代表的な分野を見ておきましょう。

自動車では、ダッシュボードやドアパネル、エアベントといった内装部品から、バンパーなどの外装、エンジンまわりの機能部品、各種コネクタまで、幅広く使われています。複雑な形状や多機能な部品を、一体成形によって部品点数を減らしながら作れる点が評価されています。電動化が進むなかで、軽量化への要求はますます強まっており、射出成形に求められる役割も大きくなっています。

電子機器では、パソコンやスマートフォンの筐体、コネクタや端子といった精密部品が射出成形で作られます。薄く軽く、それでいて強度のある筐体を量産できることが強みです。家電製品でも、筐体やボタン、内部の構造部品などに広く使われています。

医療分野では、使い捨ての注射器具や検査・実験用の器具など、衛生性と安定した品質が求められる製品で活躍しています。同じ品質のものを大量に、安定して供給できるという射出成形の特性が、そのまま医療現場の信頼性につながっています。このほか、容器や文房具、雑貨といった日用品まで含めれば、射出成形が関わらない生活の場面を探すほうが難しいくらいです。

射出成形の最前線を走る企業たち(注目5社)

ここからは、射出成形が「いまどの方向へ進化しているか」を、それぞれの最前線を走る企業を例に見ていきます。共通して言えるのは、各社とも「溶かして流して固める」という同じ原理を扱いながら、その精度や、材料の組み合わせ、設計力を極限まで突き詰めることで、独自の領域を切り開いているという点です。5つの異なる「進化の方向」として読んでいただければと思います。

極限の小ささへ——樹研工業

愛知県豊橋市の樹研工業は、プラスチックの小型精密部品を専門とするメーカーです。1965年の創業以来、一貫して射出成形を事業の主軸としてきました(樹研工業)。

同社の名を世界に知らしめたのが、重さ100万分の1グラム、直径わずか0.149ミリメートルという、世界最小級のプラスチック歯車「パウダーギヤ」です。2002年に開発され、ギネスブックにも掲載されました。肉眼ではほとんど見えないこの歯車は、材料にPOMを使い、ピンポイントゲートで成形されています(パウダーギヤ/樹研工業)。

ここに、この記事でいちばんお伝えしたい「発見」のひとつがあります。じつは、この極小の歯車そのものには実用的な需要がほとんどなく、販売実績はゼロだという点です。同社自身も、おそらく実用化されることはないと語っています。それでもこれを作るのは、自社の技術力と品質管理力を世界に示す「証明」のためです。「ここまで小さいものを安定して作れる」という事実こそが、いちばん雄弁な広報になっている。製品を売るより先に技術を見せる、という姿勢は、技術で勝負する会社のひとつの理想形のようにも映ります。

そしてその確かな成形技術は、決して飾りではありません。自動車のスピードメーターに使われるステッピングモーターの部品や、腕時計の部品など、実際の製品で日本のものづくりを支えています。射出成形を「どこまで小さく、どこまで精密にできるか」という方向に突き詰めた、象徴的な存在です。

意匠と機能の融合へ——NISSHA

京都に本社を置くNISSHA(旧・日本写真印刷)は、印刷技術を出発点に、樹脂成形と加飾(かしょく)を融合させてきた企業です。同社が得意とするのが、「成形同時加飾」と呼ばれる技術、IMD(In-mold Decoration)とIML(In-mold Labeling)です(IMD・IML/NISSHA)。

IMD・IMLは、絵柄や機能を持たせたフィルムを金型のなかに挟み込み、射出成形と同時に成形品の表面を加飾する技術です。塗装やシルク印刷、パッド印刷といった従来の方法では難しい質感や風合いを、成形と一体で再現できます。木目調やヘアライン、金属調といった意匠表現に加え、バックライトを点灯したときだけ文字やアイコンが浮かび上がる「光透過意匠(デッドフロント)」のような演出も可能です。自動車の内装やモバイル機器、家電製品などで、世界的に採用されてきました(成形同時加飾技術/NISSHA)。

ちなみに「IMD」は、NISSHAが名付けた同社独自の造語であり、登録商標でもあります。日本で初めて熱転写箔(ねつてんしゃはく)を開発したのも同社で、表面加飾の分野を長くリードしてきた歴史があります。技術に固有の名前がつき、それが業界で通用しているという事実自体が、その分野を切り開いてきた証だと言えるでしょう。

さらに同社は、この加飾技術を発展させた「IME(インモールドエレクトロニクス)」にも取り組んでいます。これは、加飾フィルムの代わりに、タッチセンサーのような電極フィルムを金型に挟み込み、外装の成形と同時に、電気的な機能まで一体化してしまう技術です。デザインとスイッチ機能を1つの部品にまとめられるため、省スペース化や部品点数の削減につながります(IMEが生み出す新しいデザイン/NISSHA)。「表面を飾る」ことから「表面に機能を持たせる」ことへ。射出成形が意匠と機能の融合に向かう方向を、よく示している例です。

異種材料の一体化へ——大成プラス

東京・日本橋に本社を置く大成プラスは、「金属と樹脂を、接着剤なしで直接接合する」という、ユニークな技術で知られる企業です。その技術は「NMT(Nano Molding Technology、ナノモールディングテクノロジー)」と呼ばれます(NMT/大成プラス)。

NMTの考え方はこうです。まず、アルミやステンレス、鉄などの金属の表面に特殊な処理を施し、ナノオーダー(20〜50ナノメートル)の微細な凹凸(ディンプル)を全面に均一に作ります。その金属を金型にインサートし、樹脂を射出成形すると、溶けた樹脂が微細な凹凸の奥まで入り込み、そこで結晶化して固まることで、金属と樹脂ががっちりとかみ合って一体化します。接着剤を使わずに、成形そのもので異種材料を結合してしまうわけです。ナノメートルという、肉眼はもちろん通常の顕微鏡でも捉えにくいスケールの凹凸が、強固な接合のカギを握っている。ここにも「そうだったのか」と思わせる発見があります。

その接合は、見た目以上に強固です。せん断強度は40MPa以上に達し、マイナス55℃と150℃を3000サイクル繰り返す厳しい温度変化試験(自動車のエンジンルームで10年使える水準に相当)を経ても、接合強度が劣化しないと報告されています。接合できる金属はアルミ、マグネシウム、銅、ステンレス、チタン、鉄、黄銅など幅広く、樹脂もPPS、PBT、ナイロン(PA6/66)、PPAなどに対応します(NMT処理の詳細/イプロス)。

金属の剛性や放熱性、電磁波を遮る性質と、樹脂の成形自由度や軽さを、1つの部品のなかで両立できる。この特徴から、スマートフォンの薄型・軽量化や、自動車の軽量化(複数の材料を組み合わせる「マルチマテリアル化」)といった分野で注目されてきました。技術の詳細は学会誌でも報告されており、ものづくりの世界で広く認知された技術であることがうかがえます(NMT射出成形による樹脂と金属の接合/溶接学会誌・J-STAGE)。「異なる材料をいかに一体化するか」という、ものづくりの大きなテーマに、射出成形の側から答えを出した好例と言えます。

設計・解析と一体のものづくりへ——関東製作所

関東製作所は、金型の設計・製作から、樹脂成形、成形後の加工、さらには省人化のための装置製作まで、プラスチック製造に関わる工程を幅広く手がける企業です。射出成形を「成形」という一工程としてだけでなく、「設計・解析と一体の工程」としてとらえている点に特色があります(射出成形/関東製作所)。

同社の強みの一つが、対応できる成形機のサイズの幅広さです。180トンクラスの小型から1,800トンクラスの超大型までを保有し、協力会社まで含めれば、成形機サイズ2,000トンを超える超大型の金型製作にも対応できます。自動車の内外装品や機能部品といった、大きく複雑な部品を扱える体制を持っています。小さな精密部品に各社が強みを持つ一方で、「大きいものを精度よく」もまた高度な技術を要する領域です。

そしてもう一つが、設計段階での「CAE(流動解析)」の活用です。金型を実際に作る前に、樹脂が金型のなかをどう流れるか、どこにヒケや反り、変形が起きそうか、ゲートをどこに置くべきか、繊維強化された樹脂なら繊維の向きはどうなるかといった点を、コンピューター上で解析します。そして、不良が出そうな箇所を事前に予測し、金型設計の段階で手を打ったり、製品形状を見直したりします。「作ってみて、不具合が出たら直す」のではなく、「作る前に潰しておく」という発想です。これにより、試作や金型修正の回数を減らし、開発期間とコストの両方を抑えられます。地味に見えて、量産の現場ではこの「手戻りの少なさ」が決定的に効いてきます。

2種類の樹脂を組み合わせる2色成形にも対応しており、金型から成形、組み立てまでを一貫して見られる体制を活かして、工程全体を俯瞰した提案ができるのも持ち味です。華やかさはありませんが、「射出成形を、設計力と解析力でいかに安定させ、効率化するか」という、量産技術としての本質を突き詰めた会社だと言えます。

微細・高アスペクト比の先端用途へ——積水テクノ成型

最後に紹介する積水テクノ成型は、積水化学工業の100%子会社で、創立以来、射出成形を主たる業務としてきた企業です。同社が開発を進めているのが、「マイクロオーダー射出成形」という微細成形の技術です(マイクロオーダー射出成形/積水テクノ成型)。

これは、数十マイクロメートルレベルの細かな凹凸を持つ表面を、射出成形で作り出す技術です。たとえば、高さ20マイクロメートルのリブ形状や、高さ15マイクロメートルの凸形状、あるいは5ミリメートル四方のなかに数千個の微細パターンを配置する、といった成形ができます。数マイクロメートルオーダーで、しかも高さと幅の比(アスペクト比)が大きい形状を、量産品として実現できる点が特徴です。

注目したいのは、これが新しい用途を切り開いている点です。従来、こうした微細な表面形状は、樹脂の切削加工や、シリコーン樹脂の注型、フィルムの貼り合わせといった方法で作られていましたが、加工時間が長い、形状の自由度に制限がある、コストが高い、といった課題がありました。射出成形に置き換えることで、大量生産性と安定した品質を同時に実現できるようになります。「精密で複雑なものは一個ずつ手間をかけて作るしかない」という常識を、量産技術である射出成形で覆そうとしているわけです。

応用先として期待されているのが、医療・バイオサイエンス分野です。細胞や試料を扱うマイクロウェルやマイクロプレート、細胞培養容器などの底面に微細パターンを成形し、超撥水性のような機能を持たせる、といった使い方が研究されています。さらに、ハスの葉のように水をはじく「ロータス効果」を利用した撥水・防汚構造や、蛾(が)の目の構造をまねて光の反射を抑える「モスアイ構造」など、自然界の仕組みに学んだ微細パターン(バイオミメティクス)にも対応します。透明なPCや環状オレフィン樹脂(COP/COC)でも成形できるため、半導体や情報通信の分野への展開も見込まれています(マイクロオーダー射出成形技術の動画公開/積水化学プレスリリース)。「射出成形で、どこまで微細な機能性表面を量産できるか」という、最先端の方向を担う存在です。

まとめ——射出成形はどこへ向かうか

ここまで見てきたように、射出成形は「溶かして流して固める」という単純な原理を核にしながら、いくつもの方向へ射程を広げています。

肉眼で見えない部品を成形する微細化(樹研工業)、表面に意匠と機能を一体化する加飾(NISSHA)、金属と樹脂を接着剤なしで結合する異種材料の一体化(大成プラス)、設計・解析と組み合わせて量産を安定させる工程力(関東製作所)、そして機能性表面を量産する先端的な微細成形(積水テクノ成型)。それぞれは別々の技術に見えて、いずれも同じ射出成形の延長線上にあります。

これらに共通するキーワードを挙げるなら、軽量化、マルチマテリアル(複数材料の組み合わせ)、意匠と機能の融合、微細化、そして環境負荷の低減でしょう。自動車の電動化や電子機器の高機能化、医療の進歩といった社会の要請が、射出成形にさらなる精密さと自由度を求め続けています。基本が確立された技術だからこそ、その上に何を積めるかが問われている、とも言えます。

「枯れた技術」という言葉は、射出成形にはあてはまりません。基本原理が確立されているからこそ、その上に積まれる工夫が技術者の腕の見せどころになり、いまも進化が続いている。身の回りの何気ないプラスチック製品の裏側に、これだけの奥行きがある。そのことが少しでも伝わったなら、この記事の役目は果たせたように思います。

みんなの技術広報では、紹介したい技術・企業を募集しています。自社の技術を取り上げてほしい方は、お声がけください。

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