おばあちゃんとぬいぐるみ
おばあちゃんが入院してはじめての土曜日だ。
平日にはなかなかお見舞いに行けないので、休日の今日は絶対に行こうと決めていた。
面会時間は14時から。
つまり、それ以前は何か予定を入れても問題なさそうだった。
劇場版名探偵コナンのムビチケがあと1枚あったので、お気に入りの映画館に観にいくことにした。
6月に入ってからは副音声を聞きながら鑑賞できるとのことだったので、どうせならそうしようと思い、寝転びながら観られる席を予約した。
それで映画を観終えた私は、映画館のある商業施設を少しぶらぶらする。
何フロアか降りたところにガチャガチャがたくさん並ぶエリアがある。
目当てのものがあったわけじゃないが、なんとなくぐるーっと見てみると、気になるガチャガチャを見つけた。
それがコレだ。

実は私は、“白くてよくわからないまるっとしたフォルムのキャラ”が好きだ。
そのうちの一つがムーミンである。
まあでも、ムーミンよりはニョロニョロの方が好きだ。昔抱き枕を持っていた。
このガチャガチャのラインナップは、6種のうち4種が“白くてよくわからないまるっとしたフォルムのキャラ”だ。
だから、
(いや、流石に2/3なら…出るだろ、どれかは……)
そう思って、機械に100円玉を5枚入れる。
出たものは、全然白くなかった。
まだミムラねえさんが出たなら「ミムラねえさんか〜!」と言えただろう。
しかしそれでもない。
クリップダッスというキャラを、私は正直知らなかった。
まあ、かわいいけどさ……と、なんていうか複雑な気持ちになりながらカプセルを開けた。
とりあえず鞄につける。まあ……かわいいよ。うん……。
な〜んか、でも、私はその、“白くてよくわからないまるっとしたフォルムのキャラ”のどれがくるかしか考えて無かったからさ。いや、そうだよね。そりゃ、出るよ、だって全6種なんだから。出る確率はいずれもあるよ。そうだよね。
なんかまあ、いつかは愛着が湧いてくるだろう。
そう思ってそれ以上何も考えず、ランチを食べておばあちゃんの病院へと向かった。
おばあちゃんはべつに重病とかではない。
ただ、日々のなかであまりにもたくさんの「しんどい」を言いこぼすので、それなら一回入院すりゃいいじゃん。となって今に至る。
入院初日に電話した時、おばあちゃんは言った。
「後悔してます」と。
というのも、おばあちゃんは、人の何倍もじっとしてられないタイプの人間なのだ。だから、治療や診察、検査以外をベッドの上で何もしないで過ごすことはつまり苦行なのだ。
おばあちゃんのベッドに行くと、もうなんかめちゃくちゃ疲れた顔をしていた。多分ゆっくりし疲れだ。可哀想に。(まあでも仕方ないのだが)
口を開くと、いつもと変わらず皮肉を交えてスラスラと話をしはじめた。普通に元気そうだった。
私の家族はみんな仕事をしているし、おじいちゃんはもう89歳であんまり無理させられない。
だからおばあちゃんの面会に毎日誰かが行くというのは、あまり現実的ではないのだ。
おばあちゃんは多分それをわかっていると思うけど、まあでも……寂しがりなので、やっぱちょっと申し訳ないなあとは思う。
(ちなみにだがおじいちゃんは1人で自由気ままに楽しそうにやっている。家事も色々覚えようと努力しててえらいと思う)
そんな時、ふとアイデアが湧いてきた。
「これ、あげるわ」
私は鞄につけたクリップダッスというキャラのぬいぐるみをおばあちゃんのベッドの柵につけてあげた。
「あら〜! かわいい! いいの?」
「うん、話し相手になってくれるよ」
「そうか。よろしくなあ」
おばあちゃんはクリップダッスというキャラのぬいぐるみに微笑みながら挨拶をした。
その光景はめちゃくちゃかわいかった。
人間って、きっと、不必要なものは持っていないのだ。
何かがあって手元に巡ってきたものは、きっとすべてに役割があって、私たちがそれに気づけるかどうかが問題なのだと思う。
私は嬉しかったな。
だって、みんなが満足する結末がそこにあったのだから。
